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第333話 男子会は呑み屋で2

※性に関する会話があります。苦手な方はご注意ください。※


■その333 男子会は呑み屋で2■


 竹ちゃんが、空いたグラスに日本酒を注いでくれた。今日は、日本酒でいいか。


「忍耐強い?」


 工藤さんの質問に、坂本さんが大きく頷く。


「そうね~、忍耐強いと思うわ。だって、桜雨おうめちゃん一筋なのよ。人生で唯一惚れた女性よ」


 そうなんだよね~。三鷹みたか、本当に辛抱強いよね。


「初恋の相手ってことですよね? いつからなんです?」


 工藤さんが聞いてくるもんだから、良い感じに酒で頭が回ってる俺の口は軽くなっていた。


「三鷹が小5になる直前」


「それから、ずっと?」


 驚く工藤さんに、三鷹を抜いた俺達は大きく頷く。


「ずっともずっとよ~。見事なストーカーに成長して、今に至るってとこね」


 坂本さんの言葉に、工藤さん申し訳なさそうな顔をしながらも、三鷹をジッと見た。


「ちょいちょい、三鷹さんはストーカーって聞くんですが… 見えないんですけどね?」


 まぁ、普通にしてればわかんないよね。でもね…


「名前しか知らない幼女に一目惚れした次の日から、住んでいる家を探して探して、探しだしたら、その近くの塾に通い出したんだよね。しかも、運が良い事に進学した中学校に、同級生で、しかも同じクラスに従兄の俺が居たのよ。

 家を探し出してる時点で、俺の存在も同居している事も知っているわけだから、人見知りでも頑張って俺と友達になるよね。で、『梅吉お兄ちゃんのお友達』として我が家に出入り出来るようになって、高校にあがったら家のアパートに独り暮らししながら、桜雨の行きつけの本屋でアルバイト。

 桜雨が中学受験するって言いだしたら家庭教師を買って出て、桜雨と1秒でも一緒にいたいから教師になることを決めて… バイクと車の運転免許を取ったのも、桜雨のためだしね。

 桃華ももかや俺や、あの修二さんのガードの中、本当によく頑張ったと思うよ。それだけは、本当に感心する。『ローマは一日にしてならず』って感じだね」


 改めて、こう口に出してみると、三鷹の今までの人生って本当に桜雨が中心だな。


「犯罪は、してないんですよね?」


 工藤さん、引いてる引いてる。まぁ、普通に考えたら、引くよな。


「犯罪はしてないですね。まぁ、しいて言えば『刷り込み』ですかね? 小学校入学前の幼い時から事あるごとに現れて、ゆっくり距離を縮めて、貴女には自分しかいないんですよ… と、隣にいるのが当たり前にする。見上げた忍耐強さですよ」


 あ、工藤さん、さらに引いた。


「… 壊すなよ」


 岩江さん、その一言は完全アウト!!


「壊すって?」


 工藤さん、聞き返しちゃダメ!!


「体格差考えたら、サイズ…」


「あああああああああー!!」


 その卑猥な手つきもダメ! もうね、叫び声出ちゃうよね! 酸欠になる位、叫んじゃうじゃん!!


「ほらほらお兄ちゃん、倒れちゃうから落ち着いて」


 このメンバーだと、竹ちゃんが一番安心できる。でも、さり気にお酒すすめるの止めて。呑んじゃったじゃん。


「一筋ってことは、童貞なんだろ? 今までは『卒業するまでは』って我慢して、ここまで抑えた性欲だぜ? その条件がクリアになった今なんか、胸なんか触った瞬間に、一気に弾けちまうだろ~。

 …1週間ぐらい、家から出てこないんじゃねぇの?」


「下品よ」


 坂本さん、物理的にも岩江さんに突っ込んでいるけれど顔はニコニコしているし、突っ込まれた岩江さんは、突っ込まれたのは後頭部だけれど、衝撃で思いっきりオデコをテーブルにぶつけた。

これ、明日には記憶ないんじゃないか? て思うぐらい、良い音したな。

起き上がって来ないし。


「でも、一昨日から毎朝起こしに来てくれているんでしょう? 三鷹の家の珈琲メーカーで珈琲を煎れて、ベッドに起こしに来てくれているんでしょう? 桜雨ちゃん、とっても幸せそうに報告してくれたわよ。「合鍵、使えるようになったんです」って、すっごく目をキラキラさせながら。天使そのものね、あの笑顔」


 桜雨、3月31日の夜は、ソワソワしてたもんな… 朝食もお弁当も、微妙に豪華になってるし。


「ああ、天使だ」


 熱いお茶をすする三鷹の呟きは、とっても幸せそうに聞こえた。


「『ストーカー』とは言っていますが、白川の可能性を潰すことなく、しっかりと彼女の意思を尊重して導いてきたことは、素直に称賛しますよ」


 笠原の言う通り。


「それに関しては、俺達家族も思っているよ。じゃなきゃ、とっくに修二さんに消されてる」


 修二さんの葛藤、相当あっただろうな。先日の殴り合いで、自分の気持ちに折り合いがついたならいいんだけれどさ。 …二人とも翌日は、すっごく男前な顔になってたけどな。


「愛しているんですね」


 工藤さんのほのぼのした声で、俺もほのぼのしちゃう。大きな体から、良い人オーラが全開だ。


「ってかさー、三鷹、今日は呑んでねーじゃん」


 あ、岩江さん復活。オデコ、真っ赤。


「明日は入学式なんですよ」


「三鷹、受付のお仕事があるんだよね。受付が酒臭かったら、ヤバいでしょう? ってか、学年主任に俺が怒られる」


 笠原と俺は、雑用ぐらいしかないから気が楽だけど… 確かに、少しぐらい呑んでも構わないと思うんだけどな。


「1杯ぐらい、いいじゃ~ん」


 言いながら、岩江さんはメニューを三鷹に差し出すけれど、三鷹は相変わらずお茶をすすっている。


「朝の珈琲は、二日酔いじゃない方が美味い。

それに、二日酔いだと寝起きが悪くて歌が良く聞こえない」


 あ~… そう言う事ね。


「あら、ご馳走様。三鷹ちゃんたら、お酒が入ってなくても惚気るんだから」


 暑いわ~って言いながら、坂本さんは手を団扇うちわ代わりにして顔を扇ぐ。


「お前、1杯ぐらいで酔わないし、二日酔いにもなんねーだろうが。

それとも、俺の酒は呑めねぇの?」


 岩江さん、典型的な酔っ払いで笑っちゃうな。なんて思うって事は、俺も酔っぱらってるな。


「明日は、桜雨にとっても特別な日だ。酒の匂いは微塵もさせたくない」


「明日? 入社式?」


 竹ちゃんが聞きながら、お茶のお代わりを頼んでくれた。


「会社の方は、まだゴタゴタしているみたいで、月中ぐらいに行くみたいよ。明日は… 桜雨もスーツなんだよね」


 桜雨は三鷹が、桃華は笠原が見繕ってプレゼントしたスーツで新生活の初日を迎える。


 … お兄ちゃん、本当に寂しいし複雑な気持ちなのよ。


「梅吉」


 そんな俺の気持ちを察した坂本さんは、優しく微笑みながら俺の空いてるグラスに酒を注いでくれた。


「明日は明日だ!! 今夜は呑もうぜー」


 うん、呑もう。その為のお店だし、その為のメンバーだもんな。呑もう呑もう。明日は明日だ。


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