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第94話 交裂

 ショウカさんの戦い方は、まるで私をずっと後ろから見ているようだった。

 こんな白黒の風が吹き乱れ、ヤツらの目まぐるしい動きが続く中、自分と私の正確な安置を見出している。


 その安置へと移動するだけで、的確なサポートをしやすい上に、ヤツらの手も届かない。

 私が"共有されたズノウ"を上手く使えてないだけかもしれないけど、それでもここまで完璧に扱うなんて。


『ユキさんッ!』

「⋯はいッ!」


 縦横無尽に来る3体の猛攻を、何手も先が見えているように避けては、次々ズノウを組み合わせて当てていく。

 "蝶のように舞い、蜂のように刺す"よりも、"蝶のように舞い、鬼のように叩く"という表現が正しい気がする。


 一撃避ければ、私たち二人による十数連撃が続く。

 手数の多さはこっちの方が少なくても、一つずつ確実に当てていく事に意味がある。


 でも、幾ら裂いても効いているのか実感が無く、徐々に疲労が溜まっていく。

 自分の限界が来てしまえば、それはショウカさんの限界を意味する事になる。


 迂闊に適当にズノウを選ぶわけにもいかない。

 これは二人だからこそ成り立っている連携。

 だからこそ、決定的な何かが必要だった。


 一旦ショウカさんがこっちへと下がってくる。

 彼女もかなり息が上がっているようだった。


「⋯どんだけ、硬いの⋯!」


 私がそう呟くと、


『左のはもう少しでいけるはず、でもアイツら、どんどん速くなってるのよね』


 ショウカさんが言う。

 私は軽く深呼吸し、唇を噛んだ。


「左は⋯私がいきます。後をショウカさん、面倒⋯見れます?」

『⋯本気で言ってる?』

「このまま続けば、私の体力、持ちそうにないので。ショウカさんを、信じます」

『⋯了解。行ってきなさい、私を信じて!』

「⋯行ってきますッ!!」


 どんな恐怖も飲み込んだ。

 どんな心臓の鼓動も飲み込んだ。

 彼の顔をすぐ見たい、それだけの理由で。


 また私の全てを白黒の風が包む。

 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。

 どれだけ出てこようと飲み続け、足を確実な安置へと刻み続ける。


 後ろから聞こえ続ける、ショウカさんの声。

 だから応えないと、コイツを退けて⋯!


 ハイネハンノズノウ〈灰空の天の川〉と共有ズノウ〈白虹の焼却裂(ホワイトアーク・インシネレート)〉を組み合わせて作る新たなズノウ。

 放たれた強烈な一発は、少しの遅延から繰り出された。


 "灰色の虹で囲われた銀河光の交斬"が宙を漂う。

 目にも止まらぬ速さでヤツへと向かうと、とうとう1体を消し去った。

 作ったズノウ〈灰虹の星雲交裂(アッシュアーク・クロスネビュラ)〉が一覧へ新しく登録される。


 休む暇無くショウカさんの方へと加勢し、倒れそうになるまで鎌を振り続けた。

 最後は彼女の放ったズノウで、一気に残り2体を切り落とす事に成功し、私は倒れるように座り込んだ。


「⋯はぁ⋯はぁ⋯」


 すると、ショウカさんも隣に座り、


『いやぁ⋯死んでるのにさ⋯今は⋯生きてるのと⋯同じくらい⋯疲れたぁ~』

「ほんとは⋯生きてるんじゃ⋯ないです?」

『そうかも⋯死んで息切れ⋯訳分からない⋯』

「⋯ふっ」

『あ、死人で笑った!』

「死人はそんな事言いませんから」


 他愛も無い話をした。

 ある程度の休憩後、私が先に立ち上がり、


「⋯よし⋯私はいつでも行けます」


 と言うと、ショウカさんもゆっくりと立ち上がった。


『早いわね~、回復が。老人にはまだ3時間くらい休みが必要よ~』

「いや、まだ全然若いじゃないですか」

『最近身体動かしてなかったから、きっついのよね~』

「そんな事言いながら、さっきめっちゃ凄かったですよ」

『私の事、信頼出来そう?』

「もうとっくに信頼してます」

『いなくなっても、泣かないでよぉ~?』

「⋯」

『え、無視こわ。年下こわ』


 やっぱりあったエレベーター。

 白黒蝶の模様が大きく刻まれている。


 ここから先は一切情報が無い。

 ハイスマートサングラスを何度見ても映らず、どうなっているかは行かないと分からない。


 でも、根拠の無い自信に満ち溢れている。

 自分を信じて、ショウカさんを信じて、突き進んだあの感覚。


 きっとこの後も裏切る事は無い。

 だったら早く、ルイが帰ってくる前に終わらせたい。


 エレベーター内に入るとボタンが無く、自動で上がり始めた。

 一瞬で35階へと到着してしまったそれは、ドアを開けていく。


 そこには何もおらず、ただ白と黒が交差する無機質なオフィスだけが広がっていた。

 大きなガラス越しには紫に光る渋谷、そこからどこまでも並ぶ東京都心のビル群。


 歩いてフロアを見て回ると、壁に掛かった"蝶型の盾"を見つけた。

 白黒蝶の派手な盾、こんな装備は他で見た事が無いけど⋯

 "あの壁"の窪みの形状からして、"35の部分"にはまるのは絶対これよね。


『あれ、持って帰りましょう。ユキさん、お願い』


 持った瞬間に辺りが真っ暗になり、いつの間にか"あの壁"の前に立っていた。

 そして、ルイまでもが横にいた。

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