ショウカさんの戦い方は、まるで私をずっと後ろから見ているようだった。
こんな白黒の風が吹き乱れ、ヤツらの目まぐるしい動きが続く中、自分と私の正確な安置を見出している。
その安置へと移動するだけで、的確なサポートをしやすい上に、ヤツらの手も届かない。
私が"共有されたズノウ"を上手く使えてないだけかもしれないけど、それでもここまで完璧に扱うなんて。
『ユキさんッ!』
「⋯はいッ!」
縦横無尽に来る3体の猛攻を、何手も先が見えているように避けては、次々ズノウを組み合わせて当てていく。
"蝶のように舞い、蜂のように刺す"よりも、"蝶のように舞い、鬼のように叩く"という表現が正しい気がする。
一撃避ければ、私たち二人による十数連撃が続く。
手数の多さはこっちの方が少なくても、一つずつ確実に当てていく事に意味がある。
でも、幾ら裂いても効いているのか実感が無く、徐々に疲労が溜まっていく。
自分の限界が来てしまえば、それはショウカさんの限界を意味する事になる。
迂闊に適当にズノウを選ぶわけにもいかない。
これは二人だからこそ成り立っている連携。
だからこそ、決定的な何かが必要だった。
一旦ショウカさんがこっちへと下がってくる。
彼女もかなり息が上がっているようだった。
「⋯どんだけ、硬いの⋯!」
私がそう呟くと、
『左のはもう少しでいけるはず、でもアイツら、どんどん速くなってるのよね』
ショウカさんが言う。
私は軽く深呼吸し、唇を噛んだ。
「左は⋯私がいきます。後をショウカさん、面倒⋯見れます?」
『⋯本気で言ってる?』
「このまま続けば、私の体力、持ちそうにないので。ショウカさんを、信じます」
『⋯了解。行ってきなさい、私を信じて!』
「⋯行ってきますッ!!」
どんな恐怖も飲み込んだ。
どんな心臓の鼓動も飲み込んだ。
彼の顔をすぐ見たい、それだけの理由で。
また私の全てを白黒の風が包む。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。
どれだけ出てこようと飲み続け、足を確実な安置へと刻み続ける。
後ろから聞こえ続ける、ショウカさんの声。
だから応えないと、コイツを退けて⋯!
ハイネハンノズノウ〈灰空の天の川〉と共有ズノウ〈白虹の焼却裂(ホワイトアーク・インシネレート)〉を組み合わせて作る新たなズノウ。
放たれた強烈な一発は、少しの遅延から繰り出された。
"灰色の虹で囲われた銀河光の交斬"が宙を漂う。
目にも止まらぬ速さでヤツへと向かうと、とうとう1体を消し去った。
作ったズノウ〈灰虹の星雲交裂(アッシュアーク・クロスネビュラ)〉が一覧へ新しく登録される。
休む暇無くショウカさんの方へと加勢し、倒れそうになるまで鎌を振り続けた。
最後は彼女の放ったズノウで、一気に残り2体を切り落とす事に成功し、私は倒れるように座り込んだ。
「⋯はぁ⋯はぁ⋯」
すると、ショウカさんも隣に座り、
『いやぁ⋯死んでるのにさ⋯今は⋯生きてるのと⋯同じくらい⋯疲れたぁ~』
「ほんとは⋯生きてるんじゃ⋯ないです?」
『そうかも⋯死んで息切れ⋯訳分からない⋯』
「⋯ふっ」
『あ、死人で笑った!』
「死人はそんな事言いませんから」
他愛も無い話をした。
ある程度の休憩後、私が先に立ち上がり、
「⋯よし⋯私はいつでも行けます」
と言うと、ショウカさんもゆっくりと立ち上がった。
『早いわね~、回復が。老人にはまだ3時間くらい休みが必要よ~』
「いや、まだ全然若いじゃないですか」
『最近身体動かしてなかったから、きっついのよね~』
「そんな事言いながら、さっきめっちゃ凄かったですよ」
『私の事、信頼出来そう?』
「もうとっくに信頼してます」
『いなくなっても、泣かないでよぉ~?』
「⋯」
『え、無視こわ。年下こわ』
やっぱりあったエレベーター。
白黒蝶の模様が大きく刻まれている。
ここから先は一切情報が無い。
ハイスマートサングラスを何度見ても映らず、どうなっているかは行かないと分からない。
でも、根拠の無い自信に満ち溢れている。
自分を信じて、ショウカさんを信じて、突き進んだあの感覚。
きっとこの後も裏切る事は無い。
だったら早く、ルイが帰ってくる前に終わらせたい。
エレベーター内に入るとボタンが無く、自動で上がり始めた。
一瞬で35階へと到着してしまったそれは、ドアを開けていく。
そこには何もおらず、ただ白と黒が交差する無機質なオフィスだけが広がっていた。
大きなガラス越しには紫に光る渋谷、そこからどこまでも並ぶ東京都心のビル群。
歩いてフロアを見て回ると、壁に掛かった"蝶型の盾"を見つけた。
白黒蝶の派手な盾、こんな装備は他で見た事が無いけど⋯
"あの壁"の窪みの形状からして、"35の部分"にはまるのは絶対これよね。
『あれ、持って帰りましょう。ユキさん、お願い』
持った瞬間に辺りが真っ暗になり、いつの間にか"あの壁"の前に立っていた。
そして、ルイまでもが横にいた。