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第95話 背中

「え、ユキ!? ショウカさん!?」

「ルイ!? あれ!?」


 さっきまで35階に確かにいたのに!?

 よく分からないけど、戻ってこれた⋯?


『んー、どうやらここまで飛ばされたみたい。ちょうどいいじゃない、二人が持ってる盾をここにはめましょう』


 ルイの手にも蝶型の盾があった。

 私のと正反対のような、七色蝶の盾。


 私の持ってるのと、ルイの持ってるのをそれぞれ決まった数字の窪みへとはめていく。

 そうすると、轟音を立てて壁が下がり始めた。


「これでやっとアイツの場所へ行けるな」

「あ、これ凄い役に立ったよ」


 ハイスマートサングラスを外し、彼へ返そうとすると、


「それ、やるよ」

「え⋯いやいや」

「この後も使えるかもしれないし、いいからやるって」


 突き返されてしまった。

 ずっと大切にしてる物だろうに。


 ルイは出かける時、いつもこれを付けていた。

 高性能なだけでなく、視力回復や斜視改善にも高い効果があるとされているコレ。


 医療でも注目され始め、持ってる人が少なく、ずっと欲しいと思って予約してもすぐ売り切れ。

 ⋯私もショウカさんみたいに頭にかけておこうかな


『まだイチャイチャしとく?』

「⋯してませんから」


 もう、そんなつもりじゃないし。

 ショウカさんは淡々と先を歩いて行く。

 けどその背中は、少し寂しそうにも見えた。


 渋谷スクランブルスクエア前まで来ると、空気が変わるのを感じた。

 ここだけ威圧感が凄いというか、なんというか⋯


『中へ入れば、所長をどうにかしない限り、たぶん帰れない。それでもいいわね?』

「⋯」

『聞くまでも無さそうね、その顔は』


 そして、私たちは"非渋谷スクランブルスクエア"と表記された建物へと足を踏み入れた。

 すると、突然床が動きだし、ゆっくりと上へと昇り始めた。


「⋯なになに!?」

「このまま渋谷スカイに行こうとしてるのか⋯?」


 階層ごとにある天井が畳まれ、ただ真っすぐに昇っていく。

 その道中、周りには"未来ルイの過去?"が映し出された。

 どういう事があってこうなったのか、白空羽田空港の便で見た後の事が流れている。


 彼はまるで廃人になったかのように過ごしていたところ、最新型AIによって急速に進んでいる"後悔旅行"の話を耳にした事。

 そこにルイが加わった事でさらに発展し、数年で所長へと昇格した彼は、ショウカさんと出会った事。


 寝る間も惜しんで後悔旅行の開発に勤しんだ結果、最後にはショウカさんを失い、頭蓋骨の破片になった彼女を拾う。

 まるで未来ルイの人生を描いた映画のようだった。


 無意識に涙が流れていた。

 こんな悲しい事、あっていい訳が無い。

 私たち全員が死んで、ショウカさんも死んで、挙句の果てには彼もモンスター化されて操られて。


 "これ"を使わなければ、彼は本当の本当に助からないの?

 この預かった"黒白カプセル"を。

 ゆっくりと握りしめ、責任の重大さを理解する。


『⋯そろそろ時間、みたいね』


 !?

 突然そう言ったショウカさんの身体が消え始めた。


「ッ!? ショウカさん!?」

『ごめんね。後は任せるしかないみたい』

「いや⋯いやよッ! ショウカさん!」

『もう私がいなくても、若所長がいるじゃない。もう泣かないの』

「なんで⋯あなたもいないと⋯!」

『またいつか、そっちの世界にいる私に会いに来て。例え何も分からなかったとしても⋯ここで繋がった事実は消えないんだから』

「⋯ショウカさん」


 ルイが彼女へと寄る。


『じゃあね、若所長。あなたは必ず所長も総理も超えて、真犯人を見つけなさい。きっとそこは、誰も見る事の出来なかった世界が待ってるから』

「⋯はい」

『二人に私の全てを渡す。これでこの"二蝶万物での悪影響"を受け無くなるはず』


 私たち二人は抱き寄せられ、"暖かい何か"を授かった。

 ただただショウカさんの温もりが身体へと残る。


『⋯こうしたかったんだよね、ほんとは』


 ショウカさんは風に吹かれるようにいなくなってしまった。

 この温もりだけを残して。


「またショウカさんに⋯会いに行こう。全て終わらせて」

「⋯うん、絶対行こ」


 そして、渋谷スカイの手前までへと到着した。

 涙を拭い、彼と前へ進む。

 このエスカレーターを昇れば、未来ルイが待っている。


 言葉では表せない気持ちを背負ったまま、そこへと足を乗せた。

 戦うのは私じゃない、私は"このカプセル"をどうするかだけを任されている。

 もちろんまだどっちにするかなんて決められていない、でもその時の私が自然と決めると思う。


 ― 渋谷スカイに着くと、背中を向けた未来ルイが立っていた

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