「え、ユキ!? ショウカさん!?」
「ルイ!? あれ!?」
さっきまで35階に確かにいたのに!?
よく分からないけど、戻ってこれた⋯?
『んー、どうやらここまで飛ばされたみたい。ちょうどいいじゃない、二人が持ってる盾をここにはめましょう』
ルイの手にも蝶型の盾があった。
私のと正反対のような、七色蝶の盾。
私の持ってるのと、ルイの持ってるのをそれぞれ決まった数字の窪みへとはめていく。
そうすると、轟音を立てて壁が下がり始めた。
「これでやっとアイツの場所へ行けるな」
「あ、これ凄い役に立ったよ」
ハイスマートサングラスを外し、彼へ返そうとすると、
「それ、やるよ」
「え⋯いやいや」
「この後も使えるかもしれないし、いいからやるって」
突き返されてしまった。
ずっと大切にしてる物だろうに。
ルイは出かける時、いつもこれを付けていた。
高性能なだけでなく、視力回復や斜視改善にも高い効果があるとされているコレ。
医療でも注目され始め、持ってる人が少なく、ずっと欲しいと思って予約してもすぐ売り切れ。
⋯私もショウカさんみたいに頭にかけておこうかな
『まだイチャイチャしとく?』
「⋯してませんから」
もう、そんなつもりじゃないし。
ショウカさんは淡々と先を歩いて行く。
けどその背中は、少し寂しそうにも見えた。
渋谷スクランブルスクエア前まで来ると、空気が変わるのを感じた。
ここだけ威圧感が凄いというか、なんというか⋯
『中へ入れば、所長をどうにかしない限り、たぶん帰れない。それでもいいわね?』
「⋯」
『聞くまでも無さそうね、その顔は』
そして、私たちは"非渋谷スクランブルスクエア"と表記された建物へと足を踏み入れた。
すると、突然床が動きだし、ゆっくりと上へと昇り始めた。
「⋯なになに!?」
「このまま渋谷スカイに行こうとしてるのか⋯?」
階層ごとにある天井が畳まれ、ただ真っすぐに昇っていく。
その道中、周りには"未来ルイの過去?"が映し出された。
どういう事があってこうなったのか、白空羽田空港の便で見た後の事が流れている。
彼はまるで廃人になったかのように過ごしていたところ、最新型AIによって急速に進んでいる"後悔旅行"の話を耳にした事。
そこにルイが加わった事でさらに発展し、数年で所長へと昇格した彼は、ショウカさんと出会った事。
寝る間も惜しんで後悔旅行の開発に勤しんだ結果、最後にはショウカさんを失い、頭蓋骨の破片になった彼女を拾う。
まるで未来ルイの人生を描いた映画のようだった。
無意識に涙が流れていた。
こんな悲しい事、あっていい訳が無い。
私たち全員が死んで、ショウカさんも死んで、挙句の果てには彼もモンスター化されて操られて。
"これ"を使わなければ、彼は本当の本当に助からないの?
この預かった"黒白カプセル"を。
ゆっくりと握りしめ、責任の重大さを理解する。
『⋯そろそろ時間、みたいね』
!?
突然そう言ったショウカさんの身体が消え始めた。
「ッ!? ショウカさん!?」
『ごめんね。後は任せるしかないみたい』
「いや⋯いやよッ! ショウカさん!」
『もう私がいなくても、若所長がいるじゃない。もう泣かないの』
「なんで⋯あなたもいないと⋯!」
『またいつか、そっちの世界にいる私に会いに来て。例え何も分からなかったとしても⋯ここで繋がった事実は消えないんだから』
「⋯ショウカさん」
ルイが彼女へと寄る。
『じゃあね、若所長。あなたは必ず所長も総理も超えて、真犯人を見つけなさい。きっとそこは、誰も見る事の出来なかった世界が待ってるから』
「⋯はい」
『二人に私の全てを渡す。これでこの"二蝶万物での悪影響"を受け無くなるはず』
私たち二人は抱き寄せられ、"暖かい何か"を授かった。
ただただショウカさんの温もりが身体へと残る。
『⋯こうしたかったんだよね、ほんとは』
ショウカさんは風に吹かれるようにいなくなってしまった。
この温もりだけを残して。
「またショウカさんに⋯会いに行こう。全て終わらせて」
「⋯うん、絶対行こ」
そして、渋谷スカイの手前までへと到着した。
涙を拭い、彼と前へ進む。
このエスカレーターを昇れば、未来ルイが待っている。
言葉では表せない気持ちを背負ったまま、そこへと足を乗せた。
戦うのは私じゃない、私は"このカプセル"をどうするかだけを任されている。
もちろんまだどっちにするかなんて決められていない、でもその時の私が自然と決めると思う。
― 渋谷スカイに着くと、背中を向けた未来ルイが立っていた