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令谷と彼方の過去。

 令谷は幼少期から友人が少なかった。

 中学校、高校では同級生からのイジメに合い、クラスでは孤立していた。そんな中、彼方だけが彼の友人でいてくれた。


 元々、令谷は内気な性格だった。それでいて他人に対して反抗的な性格だった。その土壌を作ったのは彼の両親だったのかもしれない。よく喧嘩ばかりしている両親だった。喧嘩ばかりしている癖に、一人息子の令谷に対しては妙な甘やかし方をした。小学校くらいまでは変わり者みたいな感じで周りにそこそこ溶け込んでいた。いや、許容して貰っていたが、中学校になる頃には、その態度の生意気さと、かつ協調性の無さなどからイジメの対象になるようになっていた。


 昔みたいに殴る蹴る、金をせびるなどのような事をされる事は少なかったが、最近の男子高校生も女子生徒宜しく陰湿な態度で令谷の事をイジメてきた。物を壊される、机や持ち物に落書きをされる。寄ってたかって、小馬鹿にして嘲笑の対象にされる。身体の大きな人間からは頻繁に体育の授業などで彼に対してワザと怪我をさせるような事をするような人間もいた。そして、そういったイジメが中学校三年間は続いた。高校に入っても、中学校の頃の同級生が何名かいたので、彼を陰湿にイジメるような事をした。


 そんな時にかばってくれたのが、彼方だった。

 彼方には友人が多かった。

 おっとりした性格で、誰にでも友好的で明るい性格をしていた彼方は当たり前のように令谷を助けた。


「なんで、俺と友達でいるんだよ? 彼方は?」

 お前もイジメられるぞ、と、令谷は言いたかった。

 彼方は首を横に振った。

「令谷君は、周りの人間が嫌いなんだよね…………」

「そうだな。俺はみなと上手くやっていけない。そういう性格だから、どうしようもないんだろ」

「でも、俺は令谷君の友達でいたいな。だって、令谷君、話してみると面白いから」


 彼方はそんな事を言ってくれた。

 令谷には何だか申し訳無かった。


 不良グループに入る気も起きず、令谷は校内で人知れず煙草をふかしながら甘ったるい缶コーヒーを買って授業をよくさぼったりしていた。こんなに性格がねじ曲がったのは両親のせいだと思った。水商売をして自分を溺愛する母親に、財布の紐を握られながらしがないサラリーマンをしている父親。二人の出会いは夜の店だったらしいが、令谷から見ると、どうしても母親は遊ぶ金欲しさに年収が安定している父親と結婚したように思えた。両親は気持ち悪いくらい自分にベタベタしてくる。その癖、出来ちゃった婚で令谷を産んでしまったから自分に自由は無くなったと喚き散らす母親。


 令谷はそんな両親が大嫌いだった。

 そんな中で育ったからか、周りの人間に対して、とにかく敵愾心ばかりが生まれた。


 令谷はグループというものが嫌いだった。

 いわゆる、中学時代にヤンキーグループみたいなのにでも入っていれば、またクラスでも立ち位置が変わったのかもしれない。けれど令谷はそうしなかった。


 令谷は葉月程ではないにしろ、馬鹿な人間が嫌いだった。

 自分自身、決して成績が優秀ではなく有能だとは思った事が無いが、とにかく思春期特有の馬鹿な同年代の連中や馬鹿な教師などが嫌いで仕方が無かった。同族嫌悪の類なのかもしれない。



 大嫌いだった両親。

 そして自分の事を友人と言ってくれた彼方。


 ある日、ワー・ウルフによって三名が襲われた。

 彼方は令谷の両親と仲良くなっていて、令谷の家に遊びに行くような仲だった。一匹狼とは名ばかりで、単に学校で孤立していた令谷に友人が出来たという事で、嬉しくて令谷の両親は彼方を歓迎してくれた。時には一人で寂れたゲームセンターやカラオケボックスに行って遊び歩いている令谷の帰りを待つ為に、彼方は令谷の両親から歓迎されて令谷の家の中で待ってくれた。


 あの日、夜の九時近くまで家に帰らなかった時だった。


 令谷は家に帰った時、とても静かだった。

 いつもなら、この時間帯は父親がいる。

 夜にホステスの仕事をしている母親も、出勤する前の時間だった。

 何かが変だった。

 部屋の中は静かで、荒らされた形跡は無い。


 珍しく家族団欒の為に、二人共、台所にいた。そこには彼方もいた。

 テーブルの上には、珍しく母親が料理をしてくれたみたいだった。まだ料理は温かかった。


 令谷は、その光景を見て愕然としていた。


 父親と母親は頭蓋骨を切開され、脳味噌が剥き出しになっている。

 剥き出しの脳味噌の中には、あらゆる異物が混入されていた……台所の道具。包丁。ナイフ、フォーク。ハンバーグのソースなども流し込まれたのか、頭蓋にソースがべったりと血と混ざり合って付いている。父親が大切に育てていたインコと仔猫のバラバラ死体が父親の脳味噌にねじ込まれていた。


 彼方は、その時に間違いなくワー・ウルフの顔を見ただろう。

 その時、彼方は令谷に対して色々な事を黙っていた。


 三か月後。

 彼方は彼の両親と共に、酷い惨状で発見された。


 彼方だけが脳味噌を引きずり出されずに、頭蓋から大量の血を流していた。そして、彼方だけは息をしていた。


 令谷は喚き散らしながら、携帯で救急車を呼んだ。



 三年前。十七歳の時に凶悪犯罪の被害者になって、令谷は復讐を誓った。


 令谷は湯舟の中に浸かりながら、ワー・ウルフの事を考えていた。

 今の令谷は、大嫌いだった両親よりも、彼方の事に想いを馳せながら生きている。彼方はどんな外科医から、もう元には戻らないと言われている。生きているだけで奇跡なのだと。


 風呂から出てバスタオルで身体を拭く。


 部屋の中は、令谷が怒りの余り壁などを殴ったりして孔が空いたり血文字で怒りの言葉が刻まれていたりした。部屋はボロボロだった。荒廃した令谷の心象風景を見事に体現していた。憎悪、怒り、怨念。それらが怒涛のごとく、この部屋の中には渦巻いていた。


 令谷はいつものように、軽くトレーニングを始める。腕立て伏せ、腹筋、背筋。もろもろの体力作りを毎日している。


 三年間。ワー・ウルフを追い続けていた。

 けれども、ワー・ウルフの手掛かりがまるで無い。



「化座と白金は、計画から外したい」

 腐敗の王は、菅原と空杭に対して告げた。


「どうしてだ? あいつらは日和ったのか?」

 菅原は納得していない表情になる。


「あの二人は、俺の目的に付いていけないだろう」


「星槻はどうする?」

「分からん。どうしたいかは本人に聞く。だが氷歌も、計画には加担しないだろうな。氷歌には計画の事を説明している」

「何て言われたんだ?」

 菅原は火の消えた煙草のフィルターをがじがじと噛んでいた。


 盛大な花火は打ち上げられる。

 その花火は、このグループにとっての一つの目標だった。

 そして、それは一つの分岐点だった。


 ブラッディ・メリーとスワンソングは、その花火から降りる事となった。



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