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禍斗との決着。

 令谷と葉月の二人は、生輪に言われるまま、電車へと乗る。

 場所は京王線だった。


 三名は生輪の支持に従って、車両の前へ前へと進んでいく。

 今の時間帯は、人が多い。混雑している。


 生輪は足を止める。


「この中に、禍斗がいるっ!」

 生輪は、立ち止まった。

 しばらくの間、電車は停車駅に辿り着いても停まらなかった。

 数十名が、何が起こったのか分からず困り果てていた。


「罠だ」

 生輪は冷静に告げる。


 巨大な電柱が、電車の中に突き刺さっていく。


 電車は見事に脱線した。


 しばらくして、煙の中から言い残った者達が現れる。


 葉月と令谷は、生輪のウツボ型の式神に守られていた。

 三名は、電車の中から飛び出す事にする。突き刺さった電柱は見事に貫通して何名もの人々を串刺し刑にしていた。葉月は、電車のドアを蹴り飛ばして外へと出る。


 それを追うように、何名かの者達が必死に脱線した電車の中から這い出してきた。電車の中は阿鼻叫喚の地獄が広がっていた。


 這い出てきた一般市民は、七、八名はいる。

 中の負傷者も数えれば、数十名が“容疑者”という事になる。


「これを起こした犯人はこの中にいるわ」

 葉月は、淡々と告げた。


<その通りっ! 俺の名前は『ポルター・ガイスト』と言うっ! 東弓劣情のお友達だっ! 禍斗と一緒に貴様らをまとめて始末する事にしたっ!>


 這い出てきた五十代くらいのサラリーマンの一人のカバンの中に、ボイス・レコーダーが入っており、ボイス・レコーダーから一方的に声が流れてくる。


<俺の異能は、物体を操作する事が出来る。呪いで人を殺せる禍斗と一緒に、お前達を確実に全滅させてやる。お前達は完全に俺達の罠にハマったんだよっ!>


 ボイス・レコーダーから、げらげらげらげらと笑い声が聞こえた。


「ち、違う、私じゃない、私がやったわけじゃないっ!」

 サラリーマンは、必死で弁解する。


「ああ。知っているぜ、それにお前っ!」


 サラリーマンが全身、汗だくになりながら上着を脱ぎ始めた。

 彼の全身には、人面疽が大量に生まれていた。

 そのまま、サラリーマンは地面に倒れる。


「俺も、触れられた。電柱が当たって、一瞬、気絶した時だろう」

 そう言うと、令谷は、自らの左手を見せる。

 令谷の左手にも、人面疽が生まれていた。



「推理なんて必要無い」

 葉月は、冷静な表情をしていた。


「犯人は貴方ね。貴方が禍斗だ」

 葉月は、少年を指差す。

 まだ、十歳くらいの年齢の少年だ。


「ちょっと待って…………っ! 何? 一体、なんなの? お姉ちゃん? 僕は、わけが分からず……………」

 少年は混乱していた。


「貴方は、人殺しの眼をしている。死の匂いを感じる。それに、本当にそれが貴方の本当の姿なの? 姿形を偽る事が出来るんじゃないかしら?」

 葉月は、スマホを突き付ける。

 そして、カメラ機能によって、少年自身に自らの濁った瞳を見せ付けた。


 葉月に言われて、令谷は、その少年の頭に銃口を突き付ける。


「お前、本当は老人だろう? ガキの姿をしているが。老獪な眼をしている。俺の直観も、お前が犯人だと言っている。俺達はお前を逃がさんよ」


 令谷は、容赦なく引き金を引こうとした。


 その時、脱線して転がった電車の中から何者かが現れた。

 三十代くらいのスーツ姿のサラリーマンだった。

 その男は、念動力によって、そこら一帯にあるものをぶつけて、三名を始末しようとしていた。状況からして“ポルター・ガイスト”と名乗った者だろう。おそらく、禍斗が始末されそうになった事で、緊急で現れた、という処か。


「お馬鹿さんね。現れずに、遠くから、私達を狙撃し続ければ、そのまま私達全員を始末出来たかもしれないのに」

 葉月の髪の毛が、夕暮れに靡く。


 鉄屑が暴風雨となって、三名へと襲い掛かる。

 巻き込まれた人々が、次々と身体に鉄骨が突き刺さって苦悶の呻き声を上げていく。


 令谷は拳銃の引き金を引いていた。

 鉄屑が命中するよりも、早く。

 そして、令谷に向かってきた鉄屑は、全て生輪が式神で叩き落していた。


 ポルター・ガイストの額に穴が開く。

 この敵は、あっけなく令谷の腕と生輪の連携プレーによって倒されたのだった。


 禍斗の姿はいなくなっていた。

 このままだと、令谷がやばい…………。



 禍斗は、逃げ続けていた。

 このまま。ヒット&アウェイを続けていれば、特殊犯罪捜査課のメンバー達を全滅させる事が出来る。ポルター・ガイストなら、可能だろう。


「悪いな。俺はお前を赦さない」


 そこには、崎原刑事がいた。


 禍斗は、後ずさりをした。


「何の証拠があって、僕を撃とうとしているの………………?」

 少年は、冷や汗をかいていた。


「お前は、人殺しの眼をしているからだよ。刑事の感って奴だ」


 バシュ、と、禍斗の額に銃弾が撃ち込まれた。

 禍斗は、何の異能力も持っていない刑事である、崎原玄によって始末されたのだった。


「いや。冗談だ。既に、葉月から、写真データを送られてお前の正体は分かっている。姿がバレたのは致命的だったな」

 崎原はそう言うと、煙草に火を点けた。

 ……これが、人を殺す重さか、と、崎原は呟いた。

 今まで、散々、令谷や葉月に任せてきた。

 自分はこの重さに耐えられるだろうか。



 どうやら、禍斗を倒した事によって、令谷に浴びせられた呪いも解かれたみたいだった。崎原の母親も一晩にして、全身の腫瘍のようなものが消えていた。これで、禍斗に殺された者達は報われるだろう。


 同時に、この事件では、もう一人の殺人鬼の攻撃により、電車の横転事故によって死者数十名。負傷者数十名の犠牲者が出たのだった。警察の公安は爆破テロ事件として、この事件の捜査を進める事となった。

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