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崎原の母親。

 母から電話が掛かってきた。

 急病なのだという。


 急いで救急車を呼ぶように告げた。


 そして、病院に行ってみると、医者達は困り果てていた。


 母親の全身には、無数の人面疽が現れようとしている予兆が出ていた。

 母親の全身には、無数の眼鼻と口が現れようとしていた。

 呪詛として苦しめて殺そうとしているのだろう。

 相変わらず、異能者の犯罪者は理不尽極まり無い事をしてくる。


「玄…………。久しぶりね。元気だった? 相変わらず、ろくに食事をしてないでしょう。お仕事は大変…………?」

 母親は、崎原を気遣う言葉を言う。


 崎原玄は病院内で叫んでいた。

 そして、即座に葉月に電話をする。



「そう。お母様が。それはお気の毒ね……。まだ死んでいない? 分かっているわよ。崎原さん、貴方の母親が死ぬ前に、犯人を私達で始末するわ」


 縊鬼が明確に、富岡の娘を狙ってきたように、もう完全なまでに標的の家族を狙いに来ている。家族を何処か安全な場所に隔離出来ないか。安全な場所に隔離する事が出来る強力な味方がいないか。


 …………腐敗の王。

 それが、葉月の頭の中に過ぎった。

 彼を完全に信用したわけじゃない。

 だが、大きな隔離場所を持っている者と言えば、彼で、暗殺者達からのボディー・ガードにうってつけなのは、彼しか思い浮かばなかった。


 まず当面の敵である、禍斗だ。

 どういう条件で、人面疽をターゲットに作っている?


 直接、触れるのか?

 牛の刻参りとかみたいに、爪や髪の毛と藁人形でも使うのか?

 あるいは、写真だけで他者を呪えるなら、もう完全に詰みだ。逃げられ続ける戦法を取られれば辿り着く前に全滅する。


「写真だけで呪い殺せるのなら、もっと権力を持っていてもおかしくないわね。こいつは、絡新婦の下で働いている。何らかのメリットが無い限り、私ならもっと効率よく権力を手にするか? なら、異能の発動に何か面倒な条件があるか?」

 葉月は考える。


 崎原の母親から事情聴取をすれば、何か手掛かりはあるか?


「いや。この場合は専門家がいるわね。新興宗教破防課・陰陽師、幻霊生輪」

 葉月は、生輪のスマホに電話を入れた。



<おそらく、直接、接触して呪詛を感染させるタイプの奴だと思う>

 生輪は、被害者達の写真を見ながらそう告げた。


「なら、タイムリミットに猶予が出来るわね。問題は禍斗が、どんな姿をしているかなんだけど。何ていうかしら、探偵小説とか探偵漫画とかであるでしょ? 犯人はお前だ!って言って、指差して突き付けてやりたい。そんな気分」

 葉月はそう告げた。


<そうだな。突き付けてやれ>

 生輪は笑う。


 返り討ちにしてみせる。

 葉月の形相は、怒りに満ちていた。



「幸運な事に、崎原の母親の容態を見た限り、俺の“呪いの知識”で対処出来そうだ。つまり、呪っている相手が大体、何処にいるのか、場所を特定する事が出来る」

 生輪は、崎原の母親の病室の四隅に御札を貼って、禍斗からの呪いを抑える作業を行う事が出来た。


 今回の件で、生輪という存在がいてくれて、本当に良かったと思っている。

 敵は、劣情同様に、呪術の類を使って殺人を繰り返している。


「先日、通っている大学で、二人のサイコ・キラーによって私は襲撃された。もう、完全に絡新婦は、私達、特殊犯罪捜査課のメンバー及び家族を狙い撃ちにしている。今回の禍斗を倒したら、絡新婦の教団本部に向かう。他に選択肢が無い」


 夕暮れだった。

 二人は河川敷にいた。


 生輪は、息を飲む。

 おそらく、生輪の家族。残った母親なども狙ってくるか?

 既に、生輪も特殊犯罪捜査課に協力体制を取っている。


 これまでの被害者は、崎原の周りの人間ばかりだった。

 崎原のかつての同僚達。


 乙竹、杉本、伊沼、芳口の四名が“呪い殺された”。

 崎原は完全に見て分かるように、憔悴している。


 元凶である絡新婦、東弓劣情を倒さなければ、どうにもならない。


「劣情は、俺の親父と親友の仇だ。俺も積極的に参戦させて貰う」

 彼はパイプ煙草を口にしながら、思索を巡らせていた。


 彼の式神を媒介にして、禍斗の居場所を探る事になった。


「これから。禍斗を倒しに行くか。念の為に令谷も呼ぼう」


「場所は?」


「電車内だ。ずっと、移動している。……何故、電車の中にいる? たまたま移動しているだけか? 何か罠を張り巡らせている気がするな」

 生輪は考察する。


「此処から、近い?」

 葉月は訊ねる。


「近いぞ。警察署の辺りをぐるぐる見張っている。電車を何度も、乗り換えながら、こちらを伺っている。……俺の存在で“逆探知”させる為の罠だな。行くか?」


「令谷をまず呼ぼう」


 葉月は、令谷に電話する。


「あと、三十分もすれば、令谷は、こちらに来る。あと、崎原さんも向かいたいそうよ。出来る事は無いかと言っている」


「本当は待機していて欲しいが…………。心情的には分かる。崎原にも来て貰うか」


 生輪は、深く溜め息を付いた。

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