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148. 驚愕の見学許可

 それにしても猫の人がいる世界……、とても不思議だ。


 実は俺も頼んでおけば猫の人になれたのかもしれないのだ。次に機会があったらぜひ猫をやってみたい――――。


 柔らかな毛並けなみにおおわれた姿で、無重力空間を優雅ゆうがに泳ぐ様子を想像しながら俺は一人ニヤけていた。



       ◇



 しばらく行くと左折して細い通路に入った。いよいよ乗船らしい。配管むき出しの天井からの青白い光が、金属の床面に淡い影を落としている。


 俺はどんな船に乗るのかワクワクが止まらなくなる。生まれて初めての宇宙飛行に、鼓動こどうが早まる。


「コイツじゃな」


 レヴィアは一機のシャトルの前で止まってニヤリと笑う。


 全長三十メートルほどのシャトルは、真珠のような光沢を放つ流線型の機体で、大宇宙をバックにたたずんでいた。表面には微細な六角形の模様が刻まれ、ぎ目から淡い青色の光が脈動しながら放たれている。まるでシャトル全体が生命体として息づいているようだ。


 機首は鋭利えいり楔形くさびがたを描き、大気圏突入時の抵抗を最小限に抑える空力設計が施されている。両側には鋭い可変翼かへんよくが取り付けられ、大気圏突入時には機体に密着し、大気内では優雅に展開するらしい。


 後方には三基のプラズマエンジンが配され、ほのかに青白いイオンの輝きを放っている。エンジンの周囲の螺旋状らせんじょうの放熱機構からは、まるでアートのように深紅の熱が波動のように流れ出ていて、その未来的な機能美に俺は見入ってしまった。


 俺たちは無重力の中、宙に浮かびながらブリッジ内を泳ぐように進み、シャトル内へと入る――――。


 シャトル内はワンボックスカーのように狭く、レヴィアは頭をかがめながら操縦席に素早く飛び乗った。慣れた様子で操縦パネルに手をかける姿に、長年の経験が垣間見かいまみえる。


 助手席に座ってみると、椅子の座面から空気が吸い込まれ、身体が吸いつけられて固定された。さらに自動で体にフィットするようにサイズを変えていく。さすが神の世界の乗り物である。


 顔を上げればフロントガラスからは赤いオーロラに包まれた巨大なリング状の居住区が見え、眼下がんかには壮大なあおい惑星が広がっていた。向こうからは全長数キロメートルはあろうかという巨大なコンテナ船ゆっくりと入港してくる。俺はこの壮大な宇宙の営みに胸が熱くなるのを感じた。



      ◇



「よく利用許可が取れましたね!」


 俺は嬉しくなって、出発準備に忙しいレヴィアに声をかける。


 しかし、レヴィアはフン! と鼻で嗤い、不敵ふてきな笑みを浮かべる。


「なに言っとるんじゃ! 許可なんか取れんよ。そんな許可など下りるわけがない。取ったのはシャトルの見学許可だけじゃ」


 とんでもない事を言いながら、カバンの中から何かのガジェットを取り出すレヴィア。


「えーーーーっ! じゃぁどうするんですか?」


 俺の声が裏返った。見学許可だけで海王星へ降りる。その無謀なプランに背筋せすじが凍る。


「こうするんじゃ!」


 そう叫びながら、レヴィアは、操縦席の奥にある非常ボタンの透明なケースをパーンと叩き割り、真っ赤なボタンを押す。その動作には一片の躊躇ちゅうちょも見られなかった。



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