「めそめそ、するんじゃあ、ねえええええっ……!」
痛みがじわじわと伝わってくる。
それと並行して、わき上がる感覚があった。
正体のわからない、だが精神から膿が抜けていくような感覚が。
「俺を八つ裂きにしたって、おまえの父さんは帰ってこないんだぞ!? 向き合え、万城目日和! 向き合うんだ!」
ウツロの一喝。
万城目日和はそのまなざしに、みずからを照らし出すような輝きを見た。
「うっ、ウツロ! てめえ、開き直ってんじゃねえぞ!」
「ぐっ――!」
トカゲは力強く、毒虫の顔面に拳を見舞った。
そのまま馬乗りになり、ひたすらにぶん殴りつづける。
「てめえの親父が俺の親父を殺した! 俺の人生はメチャクチャだ! 責任を取れ、ウツロ! 責任をっ!」
「バカ野郎っ!」
「うぐっ――!」
態勢を逆転し、今度はウツロのほうが殴り返す。
「何が責任だ! 無責任なやつほどそういう口をきくんだ! 自分の人生の始末くらい、自分でつけてみせろ!」
また逆転。
「うるせえ、この偽善者が! 悟ったような口をききやがって! てめえだって蒙に沈んでたんだろうが!」
また。
「ああ、そうさ! いまのおまえのようにな!」
繰り返し。
「俺は昔のてめえか! 偉そうに上からしゃべりやがって!」
以下同文。
「うるさい、この、トカゲ女!」
「なんだと、この、毒虫野郎があっ!」
こんなふうにして、二人はずっと、取っ組み合いのケンカに興じていた。
しかしそのうち、さすがにばててきて、コンクリートの上に寝そべったまま、動くのをやめてしまった。
なんかもうどうでもいい、面倒くさい……
そんな心境だった。
「はあ、はあっ……」
「ふう、ふうっ……」
万城目日和は気がついた。
不思議なことに、どこか心が晴れわたっていく。
またウツロが俺に何かしたのか?
いや、そうじゃない。
彼女は涙を流した。
しかしそれは、先ほどのものとは違う。
人間としての涙――
これが「人間になる」ってことなのか……
悔しい、悔しいが、ウツロの気持ちが伝わってくる。
それは決して見せかけのものではなく、まさに人間の本質としての……
「万城目日和」
「ああ?」
「ここから、また、はじめてみないか?」
「……」
「気が変わったら、いつでも俺をぶち殺せばいい。どうかな?」
「クソッタレ……」
肯定。
それは無理やりにではなく、ごく自然に。
彼女はまた、深く落涙した。
「また、ここから、か……」
「……」
「ははっ、はははっ……!」
万城目日和はなんだかおかしくなって、肩を震わせて笑いはじめた。
ウツロはそこに、やはりかつての自分の姿を見た。
パッパラパーになっちまえよ。
兄・アクタがかけてくれた言葉。
腹をかかえるトカゲの姿に、彼もいつしか破顔していた。
ひとしきり笑い転げたあと、何かの気配に気づいた二人は、おもむろにそちらへ視線を移した。
「貴様ら……」
倉庫の入口から、白衣の女性が彼らをにらんでいる。
「
彼女は奥にあるコンテナの上を見た。
そしてその顔は、破裂したマグマのようにゆがんだ――
「いったい何を、さらしとんじゃあああああっ――!」