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第17話 対峙

 ウツロと姫神壱騎ひめがみ いっき龍虎飯店りゅうこはんてんへ戻り、真田姉弟さなだきょうだいと合流して、4人連れ立ってさくらかんへの帰路に着いた。


 いっぽうそのころ、街はずれではあいかわらず、バニーハートと鷹守幽たかもり ゆうが激闘を繰り広げていた。


「ぎっ、ひゃあああああっ!」


「――っ!」


 上段から繰り出されたアイアン・クロウ、しかしそれは攻撃対象の寸前で止まっていた。


「ぎひっ、ぎひ……!?」


 鷹守幽がバニーハートの「影」を踏んでいる。


「なるほど、影を操るアルトラ、実に汎用性が高いようですね」


「ふふっ、これで彼はアルトラも含め、動かすことができませんよ?」


 感心するディオティマに、羽柴雛多はしば ひなたは余裕の表情を送った。


「う~ん? ふふふ……」


 魔女が不気味にほほえむ。


 鷹守幽はバニーハートのほほに、ナイフをピタピタと当てて挑発している。


「ぎひ、なめる、なあああああ……!」


 ウサギの目がギラっと赤く光った。


「――!?」


 目のくらんだ黒衣の暗殺者は、反射的に能力を解除してしまう。


「――っ!」


 子どもの体躯とは思えない強力な蹴りが、下段から下腹部に炸裂した。


「……っ!」


 モロに入れられ、さすがの鷹守幽もしりぞいて姿勢を崩す。


「死ねえええええっ!」


 両サイドからバニーハートの爪が襲ってくる。


「――っ!」


「ぎひっ!」


 大ナタがまたひとりでに動き、その攻撃を受け止めた。


 ディオティマは指をあごに当てる。


「ふむ、おそらくは、影を媒介として、物質を動かすこともできるのでしょう。とても興味深いですねえ。彼もぜひ、わたしの研究材料としていただきたいところです」


「そうはならないですねえ。なぜなら幽くんは、追いつめられるほど燃えるタイプですから」


 今度は羽柴雛多がニタリとほほ笑んだ。


「ここまで追いつめられたのは初めて、図星ではありませんか?」


「だからいいんじゃありませんか」


 魔女の意趣返しも意に介してはいない。


「ぎひ、たかもり、ゆう……!」


「……」


 両者かまえ、間合いを詰める。


「ぎひゃあっ!」


「――!」


 相打ち。


 バニーハートのアイアンクロウと鷹守幽のジャックナイフがぶつかり、二人ともその状態から動かない。


 いや、動けないのだ。


 伯仲する実力、拮抗する力。


 どちらかが少しでも気を抜いたタイミングがすなわち、勝負の決するとき。


 汗が垂れてくる。


 皮一枚でつながっているその状況が、永遠に続くかのように見えた。


「そこまで!」


 羽柴雛多が「喝」を入れる。


 ディオティマは興ざめした様子だ。


「おやおや、負けを認めるのが悔しいのですか? ミスター羽柴」


「そうではありませんよ、ディオティマさん。人の気配がします」


「は……」


 あたりを探ると、確かにこちらへと近づいてくる気配が複数感じられる。


 3人、いや、4人か。


 そしてこの強いオーラは、アルトラ使いのもの。


 ははあ……


「どうやらあなたのお目当ての人物たちのようですよ?」


 ディオティマはニヤリと笑った。


「ふ、なるほどですねえ。バニーハート、彼の言うとおりになさい」


「ぎひ……」


 察したバニーハートは、主人の命令にしたがった。


 鷹守幽も応じて武器を下げる。


「命拾い、した、な」


 ウサギ少年は大きな爪で、首をかっ切るしぐさをする。


 相対する黒衣の暗殺者も、ニコっと笑って親指を下へとかざす。


「ふん、覚えて、いろ……おまえは、必ず、僕が、八つ裂きに、する……」


 互いに顔を突きあわせて、邪悪な笑みを見せつけあった。


「じゃ、ディオティマさん、またお会いしましょう」


 鷹守幽が黒いマントを開く。


 羽柴雛多は手をかざしながら、その中へ吸いこまれるように入っていった。


 手品よろしく布きれが二人を包みこみ、シュルシュルっと回転しながらいずこかへと消え失せてしまった。


「食えない男ですね、ミスター羽柴」


 ディオティマは腰に手を当てて、キセルのタバコをふかす。


「ぎひ、たかもり、ゆう……」


 バニーハートは興奮さめやらず、体を震わせている。


「あなたをここまで追いこんだのは、彼が初めてですねえ。ふふっ、ラウンド2が楽しみでしょう?」


「ぎひひ、次こそは、僕が、勝ちます」


「その意気ですよ、バニーハート」


 二人はケタケタと笑いあった。


「そして、ふふっ……」


 魔女の視線の先には4つの影があった。


 ウツロ、姫神壱騎、真田龍子さなだ りょうこ、そして真田虎太郎さなだ こたろうだ。


 街はずれにさしかかったところで崩壊のあとを発見し、気配をたどってここまでやってきたのだ。


 ウツロが口を開く。


「いったいこれはどういうことでしょう? テオドラキア・スタッカー教授、いえ、古代ギリシャの巫女で、いわく魔女のディオティマさん?」


「う~ん?」


 ディオティマは首をひねりながら、目の前の少年の顔をまじまじと見つめた。


「俺の顔に、何かついていますか?」


 彼は怪訝な表情を浮かべる。


「いえいえ失礼、そっくりだと思ったものですから、お父さまと、ミスター鏡月と」


「……」


 魔女は改めて、右手を前方へとひるがえす。


「はじめましてウツロ・ボーイ。おっしゃるとおり、わたしがそのディオティマです」


 因縁の「再会」は、時を越えていままさに行われたのだ。

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