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第18話 ウツロとディオティマ

「ハロー、ウツロ・ボーイ。正確には初めましてではありませんが、お会いできて光栄ですよ?」


 対峙したウツロたちに、魔女ディオティマはおそろしく軽いあいさつをした。


「あなたがディオティマなのですね?」


 ウツロは魔女の一挙手一投足を探りながらたずねる。


「しかり。古代ギリシャの巫女で魔王桜まおうざくらの召喚に成功し、世界最古のアルトラ使いとなった魔女ディオティマとは、ふふっ、わたしのことですよ?」


 このようにわかりきったことを、あえてわざとらしく紹介してみせた。


「ディオティマ、あなたにたずねたいことは山のようにある。しかし、素直に答えるような方にはとうてい見えません」


 ウツロもあえて挑発するような態度を取る。


「ふふっ、やはりというか、やり手ですねウツロ・ボーイ。そうやってわたしの腹のうちを探るふりをして、この状況をどうするべきか考えているのでしょう?」


「それはあなたも同じでは? そちらのウサギ少年とあわせて二人、こちらは四人がかりですが?」


「ふはっ、交渉がお上手ですねえ。おっしゃるとおり数では負けておりますが、いやしくも最古のアルトラ使いであるわたしと、そのわたしが選んだ者なのですよ? それでも同じことが言えるとお思いでしょうか?」


 丁々発止のかけあいは続く。


「ぎひひ、ウツロ、調子に乗ると、痛い目、見る」


 バニーハートはかくかくと笑った。


「こちらはバニーハート、アルトラ名はエロトマニアです。見敵必殺および捕獲に特化した能力者で、汎用性もかなり高いのです」


 ディオティマはわざわざ味方の紹介もしてみせた。


「やさしいのですね、そちらから情報を提供してくださって。それとも、長生きからの傲慢による見通しの甘さでしょうか?」


 ウツロはクスっと笑った。


「ふうっ。さあ、どうでしょうねえ? しかしウツロ・ボーイ、あなたはやはり興味深い、実にね。このディオティマを相手に、初対面からこれだけ手玉に取ってのけるとは」


 ディオティマは肩を揺らす。


「どうしますか? あなたがたをねじふせて、無理やり連行するという手もあるのですよ? もちろん、こちらが逆にされるというリスクもあるわけですが」


「ふふっ、ふはは! 面白い、とても。ウツロ・ボーイ、あなたのスキルは総合的にバランスが良く、しかもかなり高いようです。いやいや、やはり来日を決めたのは正解でした。あなたは必ずや、わたしの優秀な研究材料となってくれることでしょう」


 「研究材料」という単語に、一同はゾッとした。


「なるほど、マッド・サイエンティストの考えそうなことです。しかし先ほども申し上げたように、しぼり取られるのはあなた方のほうかもしれませんよ?」


 ウツロはこのように返してみせた。


「ふふっ、ひはっ! 最高です、ウツロ・ボーイ! 何千年と生きてまいりましたが、あなたほどの逸材は初めてお目にかかる! ぜひともわがモルモットになっていただきたい!」


「ぎひひ、改造、洗脳、オモチャ、オモチャ、ぎひっ、ぎひひひ」


 二体の怪物はいまにも襲ってきそうな様相を呈している。


「悪趣味なのですね、老人の考えそうなことだ。なまじ長く生きすぎているから、そのように醜悪になるのでしょう。ディオティマさん、あなたの人生はもうじゅうぶん、そうではありませんか?」


 ウツロはあえて好戦的な態度を取った。


 気圧されたら負け、そう判断したからにほかならない。


「ふふっ、ふはは! ああ、楽しい! こんなに楽しいのは、何千年ぶりでしょう。ははっ、ウツロ・ボーイ、ますますあなたのことが気に入りましたよ?」


「で、どうしますか?」


「あはっ、そうですねえ。あなただけならすぐさまいただくところですが、そちらには回復に特化した真田龍子さなだ りょうこさん、防御に特化した真田虎太郎さなだ こたろうくん、そしてまだ能力の不明な姫神壱騎ひめがみ いっきくんが控えています。これだけでも実にバランスの取れたメンバーと言えるでしょう。いま動くのは、いささか以上にクレバーではない、わたしはそう判断いたします」


「ほう、ではこの場はしりぞくと?」


「そういうことです、ウツロ・ボーイ。しかしわたしは宣言します。あなたは、いえ、あなたたちはまとめて、必ずこのわたしがいただくと」


「それは宣戦布告と捉えてよろしいのですか?」


「しかり。あなたがたチーム・ウツロと、このわたしを頂点とする組織・ディオプティコンによる全面戦争の開幕というわけです」


「ディオプティコン……いかにもあなたらしいネーミングセンスだ。お互いただでは済みませんが、それでもよろしいのですか?」


「それが良いのではありませんか、ウツロ・ボーイ?」


「なるほど、承りました。くれぐれも油断めさらぬよう」


「それはこちらのセリフですよ?」


 両者、顔を突きつける。


「つくづく業の深い方だとお見受けします。この俺が、必ずや滅ぼしてさしあげましょう」


「ふふっ、吐いた唾は飲まないようにお気をつけなさい? ウツロ・ボーイ」


 ディオティマは4人をスルーし、もと来た道を遠ざかっていく。


 姿が見えなくなったところで、ウツロはガクッと姿勢を崩した。


「ウツロ、大丈夫!?」


 真田龍子が駆けよる。


「ん、大丈夫だ。ありがとう、龍子。こんなに気を張ったのは久しぶりでね」


 それほどに緊張を強いられていたのだ。


「ディオティマ、敵ながらおそろしい手合いだよ」


 遅れて鼓動が早くなる。


 動悸がし、冷や汗も垂れてきた。


 真田虎太郎も心配そうにしている。


「ウツロ、あえて聞くまでもないけど、覚悟はいいんだね?」


 姫神壱騎は神妙な面持ちだ。


「勢いとはいえ、ケンカを売ってしまいましたから。それ以上はやるしかないですよ。すみません、壱騎さんまで巻きこんでしまって」


「いや、いまの状況においては最適の判断だったと思うよ? 結果は結果にすぎないさ。ウツロ、君が気に病むことはない」


 後悔するウツロを彼はサポートした。


 このようにして、ウツロ一座とディオティマ一味による本格的な戦いの火ぶたは、ついに切って落とされたのだ。

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