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第59話 太陽と月

「ぎひ、ディオティマさま……やはり来たようです。しかも、今度は二人で」


 バニーハートの耳が、再びピクピクと揺れた。


「ミスター羽柴はしばもいらっしゃいましたか。おそらくはミスター鷹守たかもりに邪魔が入らないため。ふふっ、ちょうどよいあんばいに、2対2となりますねえ」


 スクリーンをながめながら、ディオティマはくつくつと笑った。


「どうしますか?」


「お望みのとおりにしてさしあげましょう。ウツロ・ボーイのほうも気になるところですが、しかたがありません」


「では……」


「ふむ、思うぞんぶん暴れてきなさい。好きなようにしてよいですよ?」


「ぎひひ、袋叩きにしてやります」


「ふふふ、楽しいですねえ、実に」


 バニーハートは退室し、あとにはディオティマはひとりとなった。


   *


 しばらく経過したのち。


「ミスター羽柴」


 入口に感じた気配に、ディオティマは話しかけた。


 羽柴雛多はしば ひなた、彼だ。


 シェルターのような実験室の中を、ゆっくりとこちらに歩いてくる。


龍影会りゅうえいかいのそうそうたる幹部方が、この場所を血眼になって探しています」


 この場所の存在を上層部へは報告していないことを、彼は示唆した。


「おやおや、情報のシェアをしなくともよいのですか? あとで大目玉を食らうのでは?」


 ソファーから立ち上がりながら、ディオティマは語りかける。


「いいじゃありませんか。とびっきりのごちそうをいただけるチャンスなんですから」


「言いますねえ。しかしその感覚、決して嫌いではありません」


 ほどよい間合いに、二人は立つ。


「どうしますか、ディオティマさん?」


「受けてたつしかありますまい。しかしミスター羽柴、あなたはおよそ体験したことのない、絶望と恐怖を味わうことになるでしょう」


「いいですねえ、むしろ味あわせてくださいよ。俺は人生に刺激が多いほうが楽しいタイプなんです。ゆうくんほどじゃありませんが」


「ふふ、よろしい。では見せていただきましょう、あなたのとっておきを」


「了解です」


 羽柴雛多は右腕を高くかざした。


「アルトラ、ビヨンド・ザ・サン……!」


 太陽。


 小さな太陽が、そこにカッと出現した。

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