「じゃ、ここから反撃開始ってことで」
目視はできないが、空間をゆがめながらウツロボーグへと迫った。
「ぐあっ――!」
ボディのいたるところが爆ぜて飛び散った。
外殻はほぼ破壊され、生身の肉体が姿を現す。
「酸素アセチレン圧縮弾だよ。アセチレンのほうは炭素と三重結合させて作った」
空気を操作する彼女の能力、その驚くべき汎用性の高さに、一同は目を見張った。
たかが空気、されど空気と言ったところか。
「鬼羅、首のうしろだ」
アンモナイトのような生物で、ウツロの首筋に無数の触手を絡ませ、貼りついているのだ。
「はじめまして、ティレシアス?」
「し、しまった……!」
彼は仇敵にわざとらしくあいさつをしてみせる。
「鬼羅」
「ほっほ~い」
北天門院鬼羅がひょいと手をかざす。
「うわっ――」
空気の膜が軟体生物を包みこみ、ペリペリとウツロから引きはがした。
「はい、いっちょうあがり~」
捕らえられたティレシアスは、少女の手の上でポンポンともてあそばれる。
「ぐぐ、おのれ……」
このようにして事態は、チームにとっては外部の二人の手にかかり、いともたやすく落着を迎えた。
いっぽうくびきから解かれたウツロは、どんどん人間の姿へと戻っていく。
しかしその体はボロボロである。
「ウツロ――っ!」
倒れそうになる彼を抱きしめ、すぐさまアルトラ「パルジファル」の能力で治癒を試みる。
「うう……」
「ウツロ、しっかりして! すぐ楽になるから!」
彼女は涙もしとどにパワーを与えつづけた。
ウツロの傷が少しずつ癒えていく。
意識もだいぶはっきりとしてきた。
「俺は、なんてことを……」
操られていたとはいえ、かけがえのない友たちを傷つけてしまったのだ。
肉体のダメージよりもむしろ、精神のダメージのほうが大きかった。
「ウツロ、あなたは何も悪くなんかない。みんなわかってるから、気にしないで」
真田龍子が必死でなだめる。
「おい、鬼羅、そいつをこっちへよこせ。フクロにしてやる」
こめかみに青筋を立てた
「待って、柾樹。まずはディオティマの居場所を聞き出さないと」
たほうティレシアスは戦慄した。
およそ想定にあった最悪のシチュエーション、それがおとずれてしまったのだ。
まずい、まずすぎる……
このままではせっかく授かった任務に失敗しただけでは飽き足らず、ディオティマさまにとって不利極まりない状況を作ってしまう。
それは、それだけはなんとしても避けなければ。
しかしいったい、どうすれば……
「ぐあ――っ!」
「――っ!?」
空気の風船が弾け、中に入っているティレシアスが爆ぜた。
「な、なんだ……」
一同が突然の出来事に驚いていると――
「やれやれ、これだから下等生物は。自分だけでは何もできないとは、とんだ一芸、無能の極みだな」
褐色の青年が中空に浮き、腕を組んでこちらを見下ろしていた。
ボンデージのようなコスチュームの上に、羽毛のファーをあしらったロングコートを羽織っている。
その黒髪はゆがむように逆立っていた。
「てめぇ、なにもんだっ!?」
南柾樹が見上げながら叫ぶ。
「わが名はグラウコン。古代ギリシャにおける総合格闘技・パンクラチオンの絶対王者にして、その証たる魔人なり」
魔人・グラウコンはそのたくましい両手を広げた。