「名づけて、ビッグ・サイクロプス――!」
旧来の「サイクロプス」より大きさは半分程度になったものの、その容姿はより人の形に近づいたように見える。
黒をベースに要所要所赤いパーツが輝いていて、その姿はギリシャ神話の怪物というよりもむしろ英雄のほうを想起させた。
「南、おまえもパワーアップしていたのか……!」
物見の一同はその突風のようなオーラに戦慄した。
それはより正確に言うと、「覇気」と表現するにふさわしいものだった。
「ほう、これは面白い。さながらヘラクレスのようである」
魔人・グラウコンは中空で舌をなめた。
「しかしながら南柾樹よ、その程度で俺の力を凌駕できるかな?」
アルトラ、プル・ミー・アンダーの重力がかけられる。
「……」
「なっ……」
目の前、気づいたときはそこにいた。
「がっ――」
両腕を重ねて上から振り下ろす。
勢いをつけて急降下し、そのまま地面へと叩きつけられた。
グラウコンは体勢をたてなおして口角をつりあげる
「この俺を地に這わせるとは、やるじゃあないか? 南柾樹」
「あんたこそ、グラウコン。抜け目のねぇ野郎だ」
巨人の肩のパーツにひびが入る。
攻撃を受ける瞬間、肘を見舞っていたのだ。
南柾樹は悠々と地上へ降り立つ。
「ふふっ、これはいよいよ、楽しくなってきた――っ!」
「ふん――っ!」
がっぷり四つ、二人の両手が絡み合う。
「ぬ」
「ぐ」
拮抗、両者の力はほぼ同等のようである。
パワーと衝撃で地面やアパートの広い白壁が弾けていく。
「そんなに友を傷つけられたことが憎いか?」
「……」
「たまにいるのだ、おまえのようなやつが。名誉や功名心などではなく、純粋な怒りで俺に向かってくる者が。しかしそれはどうも、邪悪な類ではない。なぜだ南柾樹? なぜ戦う? なぜここまで強くなれる?」
魔人が問いかける。
少年のまなざしは青空のように光り輝いていた。
「きっとあんたにゃ、永遠にわかんねぇよ――!」
「ぐう――っ!?」
グラウコンの拳が爆ぜた。
おびただしい鮮血が噴き出す。
数瞬遅れてのカウンター、巨人の腹に蹴りが放たれる。
「くっ――っ!」
巨体が後方へ弾かれた。
魔人が再び宙へと浮いていく。
「面白かったぞ、南柾樹?」
「てめぇ、逃げんのか!?」
「この場はな。まずは肝心要のディオティマを探さんとならん」
「やつを居場所を教えな」
「悪いが自分で見つけ出してくれ。どうも時間がないようだ」
「どういうことだよ?」
「ディオティマはいま、瀕死の重傷を負っているらしい。気配が弱くなっているのだよ」
「なんでそんなことを教える? わざわざてめぇらの不利になるようなことをよ?」
「敬意だよ、南柾樹。俺を興奮させてくれたことへの褒美だと受け取ってくれ」
「ふん、そうかよ。とにかく、いいこと聞いたぜ。すぐにあのクソッタレを見つけ出して、とっちめてやらあ」
「血の気の余っていることだ。若いとはすばらしい」
グラウコンが中空で背中を向ける。
「待ちな――っ!」
南柾樹は大地を蹴り、高く飛んだ。
「ギガンティック・デス・クランプ――!」
「があ――っ!」
ふり返りざまに頭部をガッツリつかまれ、激しいパワーを送りこまれる。
「柾樹――っ!」
巨人が体勢を崩し、落下する。
「大丈夫!?」
「雅、すまねぇ」
魔人は腕組みをして見下ろす。
「冷静さを欠くからそうなる。戦いに際してはそのまなざしから一切のくもりを払うことだ。強くなれ、柾樹。もっと、もっとだ。そしてその力で、この俺を今度こそ満足させてみせろ」
そう告げると、グラウコンは突風のように南東の方角へと飛んでいった。
「肘か――」
飛翔する魔人の額から、一筋の血が垂れる。
笑いが止まらない。
「意趣返しとはな。いいぞ柾樹、実にいい。ぜひ欲しい、俺のコレクションにな。ふふっ、はははははっ!」
魔人の狂笑が、空をつんざくようにこだました。