『自由になった聖女様』アン・ミカエル・ゴーン著
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星降る国の最果ての地に、優れた聖女様がおりました。
聖女様は『グラシア』という名の不思議なちからを持っていて、傷ついた者たちに癒しの加護を与えることができました。
聖女様が暮らす場所は月の光が当たらぬほど背高い岩山に囲まれていて、人間たちが近寄ることはできません。
太陽が支配する昼間は、太陽の子たちの傷を。
宵闇が支配する夜間は、闇の子たちの病を。
聖女様は、命じられるままに治していました。
太陽と宵闇は、ご褒美として、聖女様に煌めく宝石を与えました。
聖女様は寂しそうに、まばゆい宝石の山を見つめました。
聖女様は、その真ん中にぽつんとひとり、座っているのです。
月の綺麗な夜、東の土地からひとりの旅人がやってきました。
旅人の男は魔法が使えましたので、岩山を砕き、聖女様が暮らす神殿にやってくると、聖女様に言いました。
「私と一緒に行きませんか。岩山の向こうには、広い世界とあなたを求める多くの人間たちがいます。けれど人間たちは貧しくて、あなたに与えるものを何も持たない。それでも彼らには、あなたが必要なのだ」と。
聖女様は迷いませんでした。
なぜなら聖女様は、自由がほしかったのです。
どんなにまばゆい宝石よりも、
ただ、自由が──。
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「でも」
と、聖女様は続けます。
「私の足には見えない足枷がつけられていて、この岩山から出られないのです」
それなら、と旅人は言いました。
「太陽と宵闇の目を盗んで、私が人間を連れてきましょう」
次の日から、聖女様には過酷な試練がまっていました。
旅人は言葉のとおり、魔法で人間を次々と連れてきます。
岩山の外の世界は、病気や怪我人であふれていたのです。
昼間は、太陽の子に加護を与える合間に。
夜間は、宵闇の子に加護を与える合間に。
偉大な聖女様のおかげで人間たちは次々と元気を取り戻しましたが、代わりに聖女様は痩せおとろえていきました。
息も絶え絶えに加護を注ぎ続ける聖女様を見かねて、旅人が忠告をします。
「これ以上グラシアを使ったら、あなたのからだが壊れてしまう」
聖女様はかまわず、人々に加護を与え続けます。
「この足枷のために自由を得られないのなら、せめて、貧しい人びとの役に立ちたいのです」
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