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第99話 不安材料

ソフィアはマニエルのお墓でカデリアスと別れた足で、診療所へと向かった。


「お加減はいかがですか?」


顔色の良い男性に声をかけ、その手を握ると、強く握り返される。


「聖女様。ありがとうございます」


まだ、その呼び名抜けないのね。


「それはオリビアに言ってください」

「はい。それはもちろんですが…。こちらを作られたのは聖女様ですから」


らちが明かないわ。


「ソフィア様!」

「ユウ君」


以前は骨が浮きだしていた彼の体は少し肉付きが良くなっているように見える。


よかった。


ソフィアは近くにいたオリビアに近づいた。


「ありがとう。治療の方は順調のようね」

「ええ。容体が安定している者も増えました。王太子命令もあってか、嫌がらせも減ったので治療に専念できていますよ。ですが…」

「何?」

「求人を出しても誰も来ません」

「はあ…。やっぱり、マゴスの瘴気への認識が行き届いていないのが問題なのかしらね」


そもそも、この国の医療は魔法と聖女に依存しすぎている。

そこを解決しないと何も始まらない。


「ですが、素人が来ても役に立つものなのですか?」


口を挟んできたのはハーランだ。


「今もまだ手伝いに来てくれているのね。ありがとう」

「おやめください。ソフィア様。ここには兄もいるのです。少しでもお役にたてるなら。とはいえ、護衛ぐらいしかできませんが…。

「確かに今、ここに人を治療できる人間はオリビアしかいない。それでも患者の数は増え続けている。さすがに負担が大きすぎるわよね」

「私は構いませんわ。スクド家の皆さま方も手伝ってくださいますし…」


そう笑うオリビアであるが、明らかに疲れが出ているのが見て取れる。


「そうね。でも限界はある」


何より、人の意識改革のためにも外部からも呼び集めた方がいいはず。

パトリックが手伝ってくれたおかげで少しは街の人たちも関心を持ってもらえたかもしれない。


「素人とは言え、出来る事もあるはずよ」

「確かにそうかもしれません。出来れば、ソフィア様の侍女。シエラさんぐらいには動ける方がいいのですが」


静かに控えていたシエラは微笑んだ。

彼女ほどの仕事ができる人間はそういないけれど、それに近い人間なら上々ね。


「求人の内容を見せてくれる?」

「こちらです」

「診療所にて、お手伝い願える方を募集します」


えっ!これだけ?

なるほど、オリビアは人のために何とかしたいという思いはあっても、広告を作るには向いていないらしい。


「私が新たに求人の募集をかけましょう。私の名を使ってね」

「ソフィア様のですか?」

「そうよ。診療所を開設しているのは帝国中に広まっているし、何より今は不況で職にあぶれている人間は多いはず。他のどこよりもお金を出すと言えば、瘴気の恐怖よりもリスクを取る者は現れるかもしれない。後は家のない者も多い。住み込みだとも記しておきましょう」


実際はそこまで危険ではない。何せ、こんなに近くにいるオリビアやハーランも無事なのだから。

見たところオリビアの治療も効果を発揮しているようだし、ひとまずは落ち着いているわ。


「王太子命令で補助金も出ているのでしょう?」

「確かにそうですが…」

「そこに私の資産も上乗せしましょう。募集の内容には王家直轄だというのも全面に押し出すのも高価的かも。拍がつくとやってくる者も出てくるはず」


帝国において、王家の元で働く人間はエリートとして羨望を集めているのだから。


「ソフィア様。一言申し上げても…」

「何かしら?ハーラン」

「それでやってきたとしても、素性の分からない者達で溢れるかもしれません」

「う~ん。一理あるかも?いくら人手は欲しいとは言っても、人を選ぶ権利はこちらにあるはず。例え、お金でつられたとしても、仕事はきちんとこなしてくれる人が良いわね」

「ですから、求人には細心の注意を…。ここにはお金があると思い込んで攻めてくる人間もいるかもしれません」

「それはハーランが対処してくれるのでしょう」

「俺がいる時は構いませんが、まだ学生です。ずっと駐在しているわけでは…」

「なら、護衛も募集しましょう」

「護衛もですか?」

「そうよ。腕のある人間なら誰でも歓迎とでもいえば、何人かは来るわよ」

「ですが、それだって…」

「ハーラン。心配してくれるのは嬉しいけれど、あれもダメ。これもダメだと言っていたら何もできない。それに私にも考えはあるわ」

「考えですか?」

「そうよ。面接をするの」

「メンセツ?」


あれ、この世界には面接の概念すらないわけ。

はあ…。じゃあ、この世界の人はどうやって仕事を振り分けてるのよ。

来た者に誰かれ構わず仕事を斡旋しているわけ?

どんなシステムになってるのよ。

まあ、そういう細かい事はこの際、どうでもいいわ。


「オリビアの助手として適切な人材を選別するのよ。護衛の人選はハーラン。貴方に任せるわ」

「俺ですか?」

「天才騎士なんだもの。剣を交えれば、その人となりは分かるんじゃないのかしら?」

「まあ、ある程度は…」

「じゃあ、そう言う事でよろしくお願いします」

「面接は来た者からにしましょう。私がいる時は参加するけれど、基本はオリビアが選んで頂戴」

「私がですか?」

「だって、貴女の助手を決めるんだもの。相性もあるでしょう。どう選ぶかはオリビアしだいよ」

「分かりました。ソフィア様がそうおっしゃるなら」

「ひとまずは求人を大量に張り出すところから始めなきゃ」


サイ辺りに頼めば、速やかに街中に広がるだろう。


「さて、忙しくなりそうね」

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