「…………なんだぁ?」
己が術によって、地上から針山へと落ちていく護とルーナを眺めていたキムラヌート。
だが、その最中。
突如、護の身体が重力に反して宙へと浮き、彼の左手から辺り一帯を真っ白に染める程の眩い光が顕れれば、キムラヌートはその眩しさに思わず顔を
“活動の間”を覆う光輝の色彩は、白から琥珀色へと変化して。
徐々に光は弱まりながら、地下のある一点へと収束していけば、そこには。
「…………っ! あぁ? あいつら……」
未だ、針山へとは落ちずに、宙へ浮き続ける護とルーナの、両者の姿があった。
「…………っ!?」
一瞬の、うたたねから目が覚めたかのように、意識を亜空間から”活動の間“へと戻された護。
「(戻って……きたっ!?)」
マルクトとの会話を終えた後、再び状況は地上から針山へと落とされている最中へと移されて。
「いやぁっ…………いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
身体全体の感覚を起こし、右手に感じる温もりから、叫ぶルーナの姿へと視線を移せば。
「(やれるん……だろうなっ!!)」
先ほどまでマナの実があったはずの。空いた左手に己が楯を急いで召喚し。
「おらぁっ!!」
思いっきり身体を反転させながら、手に持つ楯を針山めがけて投げ込んでいく。
「盾技っ!!」
そして、投げられた楯が、ちょうど、ルーナと針山の間に割って入った時。
「“
護の声に反応するよう、灰色の楯は白く輝きだし。
「「――っ!!」
一体の針山を覆い隠すほどの、巨大なドーム型の楯へと変化する。
「おいっ!
「――っ!」
楯が完全に針山を防いだことを確認した護は、次にルーナの名を呼ぶと。
「捕まってろっ!!」
「えっ……わっ!?」
彼女を両腕で素早く抱きかかえ、そのまま変化した楯の上へと着地し。
「“
再び技を唱えた瞬間。
「おらぁぁぁぁっ!!!!!!」
護の両足を受け止めた楯は、ゴムのような材質へと変化すると、そのまま深く沈み込み、ばねの力で二人を高く跳ね上げて。
「うぉらぁぁぁっ!!」
「きゃぁぁぁぁぁっ!?」
凶悪な針山が待ち構えていた地下空間から、一気に地上岩盤へと勢いよく舞う二人は――。
「……てめぇらぁ…………」
もうあとは、その身が真っ逆さまに落ちるだけで、己が望む光景が見れるのだと。そう、心から待ちに待っていたはずの、キムラヌートの前へと降り立ち、落命の窮地を脱するのだった。
「……なに、しやがったぁ?」
突然目の前に現れた、死ぬはずだった二人の姿を見て。
「なにしやがったんだ、てめぇ?」
激しい憤りで臓物を煮えたぎらせ、額に青筋を這わせるキムラヌート。
「おい、ルーナ」
「…………え」
しかし、そんなキムラヌートに、護はすぐさま反応を見せることはなく。
「……ここから動くなよ」
「は……? え、な、なにすん……」
両腕に抱えていたルーナをそっと、その場へと下ろして。
「…………じゃあ」
そう、一言呟きながら、深く息を吸い。
「やろうか」
ゆっくりと立ち上がり、僧帽筋から肩へかけて膨らんだ身体を、外へ吐き出される息とともに弛緩させて、ようやくキムラヌートへと身体を向かい合わせる。
「(い……いったい、なにが……)」
にらみ合い、静かに対峙する護とキムラヌートの両者を交互に見ながら、ここまでの間に起こった出来事に頭を混乱させるルーナ。
「(だって……さっき、アタシは……)」
いま先ほどまで、死の直前へと迫っていたはずが。気付けば彼に手を引っ張られ。突如現れた巨大な楯により、あっという間に地下から地上へと戻ってこられていた。
「(それに……)」
さらに、ここまで彼女が覚え続けていたある違和感は、目の前に立つ護から醸し出される様相からで。
「(さっきも……)」
護に名を呼ばれ、抱えられた際。彼女は地下に待つ針山側から大きな力が一瞬溢れ出したのを感知し、その途端、巨大な楯が現れて。なおもいま、その時に受けた力と似たようなものを、護の背中からひしひしと感じ取っていたのだ。
「なんでボロ雑巾みてぇになったガキが、こうも生き延びていられるんだぁ!?」
過去の記憶と結びつき。またしても、己が手によって。目の前の、かつての少年を殺せなかったことに、怒り、喚き散らすキムラヌートだが。
「…………いまに分かる」
対する護は落ち着き払い。
「“
淡々と、静かに術を唱え、地下を覆い尽くしていた楯を粒子状の物質へと分解させれば、今度は再び自らの手元へと、元の大きさの楯として構築させる。
そうして。
「おい、マルクト」
瓦解し、ボロボロとなったエレマ体の、胸に埋め込まれた小麦色のコアを握り締めて。
「
彼は、覚醒のコマンドを口にした。
――――――――刹那
「「――っ!!」」
辺り一帯に強風吹き荒れると同時。
護を中心に、巨大な十角形の幾何学模様が地面へと描かれる。
鮮やかに、小麦色に煌めく文様が、中心に立つ彼の姿を照らし出せば。
文様から溢れる土のマナは、急速に彼が装着するエレマ体へと集まり。
ボロボロとなった嵌装を修復し、易しく穏やかな光沢を放つ琥珀色の宝石へと姿を変える。
キムラヌートに立ちはだかる彼の姿を、強者の装いへと仕立て上げれば。
「真・盾技」
次に、護が唱えた瞬間。
「“
手に持つ楯は、眩い光を発し。
淡く桃色に、美しく咲く蓮華の花へと形を変える。
「来い、マルクト」
同時、彼の背後に琥珀色の玉座が顕れると。
「ちょっと、呼び出し方が雑じゃないかい?」
その玉座の上。
不敵な笑みを浮かべ、余裕の表情を見せたマルクトが召喚される。
「おい、キムラヌート」
「…………あぁ?」
マルクトとの契約を成した、彼の瞳に揺らぐものなどどこにもなく。
「お前は今から」
これまでの、想いの全てを果たすため。
「オレが、倒す」
彼は一人、凶敵へと立ち向かう。