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64.行方を追って


 魔族の侵入を許してしまった、エルフ国フィヨーツ。


 各所情勢は激しく移ろいでいく中、フィヨーツの街中はもちろん。生命の樹内でも、マナの実を巡って人族とエルフ族、魔族間の争いは激化。人的被害は甚大な規模となってはいたが、水のマナが集いし”形成の間”では、右京瀧が守護者ネツァクの力によって魔族勢の一体であるツァーカムを撃破。続けて土のマナが集いし”活動の間”では、一時魔族オーキュノスとの交戦があったものの、その後は岩上護が守護者マルクトとともに、同じく魔族勢であったキムラヌートを打ち倒すなど、序盤の劣勢を跳ね返す勢いも見えた。


 だが、依然として予断を許さない状況は続いており。

 生命の樹、そしてフィヨーツの民を救うべく、引き続き、内外へと奔走する者達がいた。



 場所は”活動の間”から変わって、エルフ国フィヨーツ王宮宮殿内--。



「ここにもいない……」


 魔族がフィヨーツへと攻め入ってから暫くした頃。


「ラレーシェちゃん、ここ以外だとまだ見てない部屋はどれくらいありそう?」


「も、もうあと二つ三つぐらいしか……」


 空宙と別れたオーロとラレーシェの二人はその後、魔族との戦闘に備えようと、一度戦力を整えるため、街中へと散らばった他の召喚獣たちや、部隊長らと合流を図ろうとしていた。


「ラレーシェちゃん、やっぱりリフィータ王女様は……」


 それでもあの後、どうしても今一度、王宮の中に己の祖母がいないかと、一緒に探してほしいとラレーシェがオーロへと頼み込み、オーロも少しだけならと、ティガリスの先導の下で、王宮内のあちこちを探索していたのだが。


「お婆さま……お婆さま…………」


 二人が王宮内へと入った時には既に、王宮内は侵入してきたエセクと、王宮警護兵の争いによって酷く荒らされた状態となって。壁や柱は至る所が崩れ落ち、魔物や警護兵の死体もちらほらと見えていた。


「……お嬢、立ち止まらずに早く次へ」


 悲惨な様子に、辺りを見渡しながら何度も立ち止まりそうになる二人へ、前を歩くティガリスが、他の部屋へ促そうと声を掛けた時。


「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」


「「――っ!!」」


 突然、彼女らの行く先から、何者かのへ悲鳴が響き渡り――。


「ティガリスッ!!」


「分かっているっ!」


 その声を聴いた瞬間、悲鳴が上がった所へ向かうよう、オーロがティガリスへと指示を出し。

 命令を受けたティガリスは、床に落ちた瓦礫や死体を飄々と避け、奥へ奥へと進んでいけば。


「――っ!」


 ある廊下の角を曲がった先。


「誰かっ……! だれかぁっ!!」


「ギャハハハハハッ!!」


 そこには、一体のエセクに追われる一人の王宮侍女がいた。


「ギャアーハハッ! シねぇっ……! シねぇっ!!」


「い、いやぁっ……いやぁぁっ!!」


 ティガリスが目撃した時には、王宮侍女はエセクによって壁際へと追い込まれ。

 いままさに、鋭利に尖ったエセクの腕によってその身を狙われそうになった。


 そこへ――。


「ティガリスッ!! ”ブラストホロウ”ッ!!」


 ティガリスの後から駆け付け、追いついたオーロが大声で再びティガリスへと命を出すと。


「ガァァぁぁっ!!」


 受けたティガリスは、瞬間。大きく開けた口から、けたたましい咆哮と共に強烈な螺旋の風を放ち。


「ギッ!?」


 その風は、王宮侍女を巻き込まないギリギリの範囲で、襲い掛かろうとしていたエセクの身を捉えて。


「ギギャァァァァァァァァァッ!!!!!!!!」


 激突したエセクは、そのままティガリスが放った螺旋風によって、勢いよく反対側の壁へと吹き飛ばされてしまう。


「大丈夫ですかっ!?」


 壁際へ激突したエセクは意識を断たれ、そのまま床へとノびたところで、オーロがすぐさま王宮侍女の下まで駆け寄り、怪我はないかと声を掛けると。


「あ……あなた、たちは……」


 エセクに襲われそうになった王宮侍女は、この状況に混乱しつつも、意識はハッキリとさせ、目の前に現れたオーロとティガリスを交互に見つめるのだった。


「よかった……」


 それを視たオーロは、ほっと胸を撫でおろせば。


「さぁ、早くここから逃げて」


 すぐに王宮侍女を立たせては、王宮の外へと避難するよう促した。


 その時--。


「――っ!? ラレーシェさまっ!!」


 オーロの手を掴み、立ち上がった王宮侍女が、ティガリスの後ろへと隠れていたラレーシェの姿に気が付くと。


「ラレーシェさまっ! なぜこのような場所にっ!?」


 驚き、掴んでいたオーロの手を離すと、そのままラレーシェの下まで急いで向かい。


「あぁっ……! ご無事でなによりでっ……! なぜこの者たちと……まさか逃げ遅れて…………。他の侍女たちとは一緒に逃げられなかったのですかっ!?」


 彼女の頭上から足先にかけて。

 大事な王女の孫娘に怪我はないかと、酷く心配した表情を浮かべながら、細かく確かめていれば。


「ラ……ラレーシェは、大丈夫だから……」


 それを少し煙たがるラレーシェは、侍女の勢いに気圧されながらも、その手を掴み、自分の身体からゆっくりと引き離す。


「ねぇ、それより……」


 そして、侍女が落ち着いた頃を見て、今度はラレーシェが侍女へと話し掛けようとした。


 ――――――刹那


「――っ! お嬢っ!!」


 壁の向こう側で倒れるエセクの様子を監視していたティガリスが、突然血相を変え、オーロの名を呼べば。


「どうしたの、ティガリ……。――っ!」


 異変を感じ取ったオーロが、すぐさまティガリスの真後ろの先へと視線を移すと。


「へ、へへへへへへ…………」


 そこにはなんと、オーロ達が先ほど通ってきた廊下のほうから、大量のエセクが姿を現して。


「へ……? きゃぁぁぁぁあっ!?」


 遅れて振り向いた王宮侍女も、ジリジリと迫り来るエセク達に気が付き、途端に大声を上げて叫び出す。


「(まずいっ……! さすがにこの数はっ……!?)」


 現れたエセクの数は、一目見ても全く数えきれないほどのもので、オーロ一人でも対処は困難な上、ましてやラレーシェや王宮侍女も庇いながらなど、真っ向から戦える状況ではなく。


「お嬢っ! 乗れっ!!」


「――っ!!」


 すると、見兼ねたティガリスがその場でしゃがみこみ、純白の両翼を広げれば、そこから飛んで脱出する素振りを見せる。


「わ、分かったっ!!」


 それを見たオーロは、すぐさまティガリスの下へと近づき。


「さぁ、急いでっ!!」


 その勢いのまま、ラレーシェと王宮侍女の手を引っ張ると。


「え、えぇっ!?」


「わぁっ!?」


 無理やり二人をティガリスの背に乗せ。


「ティガリス、行ってっ!!」


「承知っ!」


 二人に続けてオーロも飛びつくように乗った瞬間。ティガリスへと合図を送り、ほぼ同時。ティガリスは返事をすると、すぐに両翼を羽ばたかせ。


「しっかり捕まってっ!!」


「きゃぁぁっ!!」


 迫り来るエセク達の手から辛くも逃れ。

 勢いよくその場から浮上すると、そのまま入り組んだ廊下を突っ切って、王宮の外へと脱出するのだった。


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