「(ふざけ、ないでよ…………)」
…………ふざけないでよ。
「(なによ………………)」
何を言い出すかと思えば…………なによ。
「(ねぇ………………)」
………………ねぇ
ふざけたこと言ってるんじゃないよ。
そんな、馬鹿みたいな大怪我してまで。
ねぇ、なんで。
なんで、どうして。
どうして、そんなことをいま。
こんなところで言い出すのよ。
パパのくせに…………。
うるさくて、いつもいつもいつもいつも。
ほんとうに、鬱陶しくて…………ウザったいパパのくせに……。
ねぇ、なんで……。
なんで、そんなことを言おうとするの。
…………パパのくせに。
パパのくせに、パパのくせにっ……!!
カッコ悪くて、どんくさくて意地悪で。
いつも怒鳴ってばっかりで、急に殴ってきたり、急に担いだり。いつも人のことを子どもみたいに扱って。
なのに……なによ。そんなにボロボロになってまで、酷く情けない顔して。
いい歳した大人が酷い泣き顔でクシャクシャになって。
魔術は好きか、だなんて。
そんな、そんなことを聞き出すなんて。
どうして。
どう、して…………。
どうして…………そん、な……こと、聞く……のよ…………!
こんな時にまで、急にママの話なんかしたりして。
いい生まれだから何だ、才能があるから何だ、戦争に巻き込みたくないからってなんだ。
いつもいつも、ひとの言うことなんか聞こうとしないくせに。
そうやって勝手になんでも決めつけようとして。
ひとが何かをしようとするたびに首を突っ込んで、横から変なこと言い出して。
昔から、研究室に入り浸っていたら家に帰ってこいとか、舞踏会に参加しろだとか、しまいには勝手に婚約者なんて決めつけようとまでして。
家のことがなんだ、わしの将来のことがなんだっ……。
なんなの、なんなのなんなのだっ!!
わしには…………ザフィロには関係ない、全部ぜんぶどうでもいいことなのに!
魔術が好きか……?
いまさらなんなのだっ……!
どうして……どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてっ…………!
どうして分からないっ……どうして分からないっ!!
わしはレグノ王国魔法士部隊部隊長のツェデック・ザフィロだぞっ!!!!
魔術を求めて何が悪いっ! 魔術に没頭して何が悪いっ!!
毎日魔術のいろはを研究して、いろんな魔術書を読み漁ってっ!!
ザフィロがザフィロの目的のために生きようとすることの何が悪いっ!!!
ザフィロはただ…………ザフィロは、ただ……。
ただ、ザフィロはパパに…………。
もう一度…………。
もう一度、あの頃みたいに笑って欲しかっただけなのに…………。
…………ふざけるな。
ふざけるなっ……!! ふざけるなっ……!!!!
あんなに毎日笑っていたパパがどっかに行ってしまったからっ……!
だからっ……!! だからザフィロがパパを笑顔にしようとしたっ……!!
だけどっ……! なにを見せても、何を創ってもっ……!!
パパはザフィロのことなんか見ようともしないで、あしらってどこかに行ってしまってっ……!!
ママがいなくなったから、ザフィロがなんとかしなくちゃってっ……!
ザフィロがママの分もパパを元気づけさせようと思ってっ……!!
何を上げたら喜んでくれるのかっ!
何を創れば満足してくれるのかっ!!
何をこの世で成し得たらば、やっとあの頃のように笑ってザフィロを見てくれるのかって!!!!
あの日からっ……あの日の夜から毎日毎日考え続けてきたのにっ……!!
どれだけの高みを目指せばいいのかっ……!
どれだけ世間から認められればよいのかっ……!!
何を以ってしたらっ!!!!!!
パパはあの時のような笑顔を、なんの
「………………ねぇ」
…………ねぇ。
あの時の、三人幸せだった時のパパの笑顔は…………。
ママもいなきゃ…………ザフィロだけではもう、帰ってはこないの……?
『相変わらず…………パパはザフィロに嫌われてるなぁ……』
…………ちがう。
『けれど、ザフィロにはどれも……ぜんぶ嫌なことだったよなぁ…………』
…………分かってる、ぜんぶわかってる。
『パパは……ザフィロにとって…………役立たずだったみたいだなぁ…………』
だれも……一度だってそんなこと、思ったことなんてないのに…………。
どんなに周りから認められようとしても、パパだけはザフィロを見て笑ってはくれなかった。
パパが急に、エルフの国に出向になるって聞いて、その空いた席にザフィロが座ることになった時でも、パパは……ううん。笑って喜んでくれるどころか、あのレム王の側近のユスティにまで怒鳴り散らかして大反対した。
分からなかった……わからなかった…………。
どうすれば、どうすればザフィロが……何をしたらパパが喜んでくれるのかって。
パパの言う通りに、魔術士を辞めて軍を出て行って、御家に帰ってどこかの貴族と結婚すれば喜んでくれるのか……?
パパがさっき言ってた通りに、家庭を築いて平和に静かに暮らしていれば、パパはあの時みたいな笑顔になってくれるのか……?
…………ちがうよ。
たとえ、その道を選んだとしても……パパはそうはならないと思う。
…………だって。
だって、パパはママがいなくなってからずっと。
ずっと、哀しそうに、淋しそうにしていたから――。
ねぇ、パパ。
ザフィロがいるよって。
ザフィロがいるからさ……いい加減に、もう元気になってよ……。
買って欲しいものなんてない。
連れて行って欲しいところなんてない。
逢瀬の人だなんて……いるわけないし、持つわけない。
ザフィロはただ……パパに。
また、あの時みたいに笑って欲しかっただけだから――。
『”深淵”などというくだらないものに、いい加減拘るのも辞めなさいっ!!』
…………深淵。
王都の研究室の奥底でボロボロになっていた魔術書に書かれていたもの。
どんな魔術でもパパが喜んでくれなかったから。
ザフィロは“深淵”というものを追うようになった。
深淵という存在を知ってしまってから。
誰も、歴史上において会得したことのない、夢幻のような存在を。
ザフィロが会得できたらきっと。
きっと、その時には。
パパも、昔ママが居た時のような、あんなに幸せそうな笑顔を見せてくれるはずだって。
そう、ずっと思っていたから――。
「………………ねぇ」
…………ちょっと。
「………………ちょっと、パパ」
…………ねぇ、パパ。
「…………そこ、動かないで」
…………いつまでも寝てないで。
「…………魔技」
…………アイツに見つかる前に
「“
…………ここから、外に出るよ