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第27話

「おい、急げ。他の奴らに見つかったら面倒な事になる。」


 アルバはそう言いながら、二段ベッドを調べている。僕の横でヒカルはクローゼットを調べていた。


「こういうのって許可を取ってからの方がいいんじゃないの?」


 僕はアルバに問いかけた。ここは騎士団が生活している寮の中、ノエルとその同僚の部屋にいる。早朝、アルバが僕の部屋に押しかけてきたかと思えば寝ぼけている僕を無理やり引っ張り、この部屋に連れてきたのだ。


「騎士団には僕たち研究員を馬鹿にしている奴らが多い。そんな奴らに頭を下げるなんて御免だね。」

「ステファンに頼めばいいんじゃ…」

「もっと駄目だ!いいから早く探せ!あいつらが朝の訓練で寮を空けているうちに、ノエルと転移魔法の関係するものを見つけるんだ。」


 僕は渋々、ノエルの持ち物だと思われる机や引き出しを調べることにした。引き出しを上から順に開けていくと三番目が鍵付きの引き出しだと気づいた。鍵がどこかにあるはず。他の引き出しを一つ一つ丁寧に調べる。

 一番の上の引き出しの奥にクシャクシャになった封筒があった。封は破られていて、中身を読んだ形跡がある。勝手に人の手紙を読むことに少し抵抗があったが、ノエルについて何か情報があるかもしれない。僕は心の中でごめんなさいと謝り、思い切り封筒の中の手紙を取り出した。それはノエルが書いたものではなく、ノエルの両親からの手紙だった。内容を簡単に要約すると「ノエルもいい歳だから結婚して子供を作れ」という内容だった。

 やっぱりこの世界でもそんなことを言う親はいるのだなと僕は思った。というか、この世界だから当たり前かと納得してしまった。元の世界では、世継ぎがどうとかなんて問題は薄れつつあった。結婚も子供もすべて本人たちの選択次第、結婚がすべてではないことが浸透しつつある世界だ。それに比べて、この世界は男尊女卑も政略結婚などが当たり前のファンタジー全開の世界だ。

 ノエルは両親に結婚を急かされていた。その手紙がクシャクシャにされて引き出しの奥にあった。それだけでノエルが結婚というものを嫌がっていたことが分かる。


「あ、鍵がある。」


 クローゼットを調べていたヒカルがノエルの服のポケットから小さな鍵を見つけた。その大きさは鍵のついた引き出しの穴にちょうど良さそうだった。僕はヒカルから鍵を貰い、鍵穴に差し込む。予想通り、カチャンという音がした。開いた引き出しの中には手帳と分厚い本が一冊入っていた。


「やっぱりこいつが持っていたか。」


 アルバが分厚い本を取り出して、そう呟いた。僕がその本について聞くとアルバは「転移魔法の本だ」と答えた。


「転移魔法の本だけが無いとは聞いたときから、ノエルがパクったんじゃないかって思ってたんだ。」

「なんで?」


 アルバの持っている本を覗きながらヒカルは質問した。


「ノエルは消える数日前から図書館に通うようになったって、同室の奴が言っていただろう。図書館の事務員に聞き込みをしたら、魔法の本棚のところから動かず、魔導書を読み続けていたらしい。図書館に入ることが出来るのは、僕たち研究者と王族、臣下、そして王族の従者のみだ。」

「それだけで本を盗んだなんて決めつけるの?」

「…ヒカル、最後まで話を聞け。図書館の本は持ち出し禁止だ。本にも盗難防止の魔法がかかっている。」


 この世界には魔法が存在する。それはファンタジーそのものだけど、盗難防止とか近距離の物の位置を変えるとか実用的なものが多い。実際、生活していく中で異世界のような魔法は髪の毛の色を一瞬で変えた魔法だけだった。なんだか夢が無いななんて考えている間にもアルバは喋り続けている。


「お前たちが来る少し前に図書館の盗難防止魔法の更新と本棚の整理が行われたんだ。あれだけの量の本に魔法をかけるなんて一日じゃ出来ない。そのため図書館は三日間立ち入り禁止になったんだ。その間は、本にかかった盗難防止魔法は解かれている。つまりこっそり持ち出し可能だ。」

「その期間を狙って本を盗んだってこと!?でも、本棚整理しているならなくなったことバレるんじゃない?」

「偽物の魔導書を用意したんだと思う。本棚の整理は半年に一回、それは中身は見ずに本がタイトル順に並べられているかを見ているだけなんだ。表紙とタイトルさえ合っていれば誤魔化せると思う。本の内容まで整理するのは一年に一回だからそれまでに返せば問題にならない。実際、転移魔法の本は無くなっていたしね。」

「なるほど!」


 アルバの推理にヒカルは感動しているようだった。


「でも、なんで本が無くなったのに騒いでいるようには見えなかったけど…」


 僕に疑問にアルバは顔色を変えずに答えた。


「先生が裏で動いていたに決まっているだろ。魔導書一冊消えたなんて王に知られてみろ、打ち首だぞ。幸い、追跡魔法で本は騎士団の寮にあるって分かったからよかったものの、城の外に出ていたらどうなっていたことやら。」

「この部屋に本があるって分かっていたの!?」


 驚いている僕にアルバはため息をついた。


「話聞いてた?騎士団の寮に転移魔法の本はある。転移魔法の本を持ち出す可能性があるのはノエル。つまりノエルの部屋にあるってことでしょ。一回で理解してよ。面倒くさいな。」

「ご、ごめん。」


 謝る僕の事なんて気にせず、アルバは部屋の扉を開けた。


「探し物は見つかったし、早く部屋から出るよ。あいつら戻ってきそうだし。」


 そう言って、アルバとヒカルは廊下に出た。僕は急いで引き出しの中の手帳を取って、二人の後を追った。

 廊下を歩いていると、奥の方から複数の人の声が聞こえた。騎士団の人達が戻ってきてしまったのだ。僕たちはどこかに隠れようにも廊下には花瓶一つもない。


「クソッ。もっと訓練してろよ。」

「アルバ、口の悪さ加速してない?」

「無駄口叩けるなら、この状況どうにかしてくれない?」


 アルバを僕のことを睨みつけるが、ヒカルを見てぎょっとしていた。


「ヒカル!何してるの!?」

「何って、ここ一階だし、この窓から外に出られるじゃん。」

「はあ!?一階だとしても結構高さあるんだけど!」

「でも、引き返してもどんどん人来ちゃうからさ、ここから逃げた方がいいよ。」


 ヒカルの突飛な提案にアルバは開いた口が塞がらなかった。しかし、声はこちらに迫って来ている。僕は窓を開けて、片足を窓にかける。そして、思い切り窓を乗り越える。想像以上に高さはあったが、二回窓から落ちている僕にはこんなの低いほうだ。


「何してんだ!」


 寮の中からアルバは僕に向かって、小声で叫んだ。僕は小声で答える。


「大丈夫!僕が下で受け止めるから!それにそんなに高くないよ!」


 僕の言葉にアルバは納得がいっていないようだった。そんなアルバを他所にヒカルは窓の縁に座り、ぴょんっと飛んだ。着地する寸前で僕はヒカルの体を抱きとめる。怪我をすることなく、ヒカルは逃げることが出来た。あとはアルバだけだった。


「アルバ、早く!」


 ヒカルはアルバに手を差し出した。早くしないと騎士団に見つかってしまう。彼らに見つかることを一番嫌がっていたのはアルバだった。アルバは覚悟を決めたのか、縁に足をかけて僕とヒカルに「絶対に落とすなよ!」と言って、飛んだ。

 アルバのいる場所は一階、普通に窓からゆっくり下りれば怪我もしないほどの高さだ。しかし、アルバは飛んだ。自ら怪我をする確立を上げていた。驚いている僕に反してヒカルは、アルバが着地するであろう場所に走っていた。すぐ後ろは草木が生い茂っている。僕が振り返っていた時にはアルバは、地面に着く寸前だった。僕は咄嗟に体をねじったので体のバランスを崩して茂みに倒れ込んだ。そこにアルバとヒカルも倒れていた。

 僕たちが茂みに倒れ込んだ音で、そこにいた鳥たちが一斉に飛び立った。その騒がしさに数人の騎士団が窓の外を見た。


「なんだ?急に鳥が飛んで行ったぞ。」

「縄張り争いか?」

「お前の笑い声が大きすぎて、ビビったんじゃないか?」


 そんな事を言いながら、彼らは視線を戻し歩き始めた。僕たち三人は、葉っぱを体中に付けて安堵した。ちょうど、草の茂みで見つからなかった。

 そのあとは、廊下に人がいなくなるのを待ち、研究棟に戻った。僕たちの姿を見て、ステファンは紅茶を淹れ、「お疲れ様でした」と言うだけだった。経緯を説明すると、アルバが窓から飛んだ話を聞いてステファンは驚いていた。アルバは高所恐怖症だったのだ。それを聞いた僕とヒカルは驚いた。すぐにアルバに謝ったが、アルバは終始放心状態だった。そんな僕らを見て、ステファンはクスっと笑っていた。


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