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64話:堪えるアルカネット

(自分で自分を褒めてやりたい。よくぞ堪えました)


 そうアルカネットは心の中で呟くと、くっきり隈の浮き出た顔で前方の空間を睨みつけてベッドを降りた。

 カーテンの隙間から漏れる爽快な朝陽も、ただただ鬱陶しく感じる。

 すぐに洗面所へ行くと、歯と顔を洗って髪を整え軍服に着替え鏡の前に立つ。身なりをチェックして険しい表情はそのままに部屋を出ると、向かい側の部屋のドアをノックもせずに勢いよく開いた。


「さあさあ朝ですから、さっさと起きてください!」


 いつもよりも大声で怒鳴るように言い、ベッドの傍らに立ってベルトルドを忌々しげに見おろした。


「五月蝿いやつだな全く。もうとっくに起きている」


 アルカネットに背中を向けた格好のまま、身じろぎもせず呆れたようにベルトルドが答えた。


「まだ寝入ってそんなに経ってないんだ。もうちょっとゆっくり寝かせてやれ。どうせ今日はすることがない」


 腕の中で小さく寝息を立てる少女を愛おしむように見つめ、ベルトルドは息をついた。

 そんな様子をさらに憎々しげに見やり、アルカネットはますます表情を険しくした。


「リッキーさんにおやすみいただくのは一向に構いませんが、あなたはさっさと起きてください。そしてとっととリッキーさんから離れなさい!」

「どうせ俺もすることがないし、一緒にもうちょっと寝る」


 なおも言い募ろうとするアルカネットに、


「あとは任せた。これ、命令」


 と、すっとぼけた口調でさらっと釘を刺した。


「ぐっ………」


 命令と言われてしまうと、さすがのアルカネットもそれ以上反撃できなかった。

 これが軍に入る前なら、命令と言われても「聞く耳持たず」でよかった。現在は軍所属の身である。そしてベルトルドは上官なのだ。

 両手を固く握り締めてなんとか自らを抑え込み、アルカネットは無言で部屋を出ていった。

 アルカネットが出て行ったあと、ベルトルドは苦笑を浮かべて口の端を歪めた。

 意外と律儀なところがあるので「命令」と言えば言う事を聞くのは判っていた。


「せっかく2人きりなんだからな、邪魔されたくない」


 つぶやくように小さな声で言うと、腕の中の少女を見つめた。

 騒々しいアルカネットの声にも目を覚まさず、ぐっすりと眠っている。泣きはらして目元が少し赤らんでいるのが、痛々しく見えた。


(どんな夢を見ているのだろうか)


 せめて夢くらいは楽しいものを見て欲しいと、願わずにはいられなかった。

 親を亡くしたり生き別れてしまうことも、とても悲しいことだ。しかし、捨てられて、捨てられた理由を知っていることもまた同様に悲しい。

 キュッリッキの場合はそれだけではなく、片方の翼が奇形で今もまともに育たず空を飛べない。本来飛べるのが当たり前の種族に中に生まれていながら、それが生まれた瞬間から無理なのだ。そしてそのことで迫害を受け、誰ひとりいたわってくれる者もおらず、孤独の中を生きてきた。

 唯一の心の支えは、アルケラとフェンリルだけだったと言う。

 召喚〈才能〉スキルを持たない者には無縁のものである、神々と幻想世界の住人たちが暮らすというアルケラ。

 人間ではなく、そんな人外のモノが支えだったことが、キュッリッキのこれまでが孤独だったことをより物語っていた。

 ベルトルドは以前、ルーファスとメルヴィンに向かって、


「貴様らを心の中から徹底排除し、リッキーの中の一番はこの俺が取る! 俺だけを望み、俺だけを求め、俺に全てをさらけ出すくらいに教育してみせるぞ!」


 と、宣言したことがある。

 今もその気持ちは寸分も変わっていない。キュッリッキの心の中を自分のことでいっぱいに満たしたいと思っている。

 それなのに。


「どうしてメルヴィンに惚れたりしたんだ、リッキー……」


 まさか慕う程度が初恋に急展開するなど、予想外のことだった。それも超激鈍なメルヴィンにである。


「メルヴィンはまあ顔も性格も良いと俺も思う。そこは認めてやる。しかし恐ろしい程鈍いんだ、色恋沙汰に関することには徹底して」


 あれほど目の前で顔を赤らめたり挙動がおかしかったりすれば、気づいて意識するだろうと。そして髪型や顔つきが変わっていれば、何か心境の変化があったと気づいていい筈なのに。


「何故あそこまで鈍くいられるのか、正直不思議でならん。こんなにリッキーに想われているというのに、度し難くケシカラン!」


 ベルトルドは大いに不満だった。


「女のことに関しても鋭すぎる俺ではなく、鈍ちんなメルヴィンに惚れるとか、リッキーもまだまだ子供というわけだ」


 拗ねた声で皮肉を言うと、キュッリッキの細い顎に指を添える。


「俺は、男なんだぞ?」


 メルヴィンには異性として意識し、ベルトルドには父親のように慕いなつく。それが悔しくてたまらない。

 ”男”として見て欲しいと切に願っているが、”父親”のように慕ってくれているからこそ、こうして無防備に身をあずけてくれるし甘えてくれる。額や頬にキスもさせてもらえるし、ハグしても頬ずりしても許される。

 だがここで押し倒して無理矢理抱いたりしたら、心底嫌われてしまうだろう。口も聞いてくれないなどというレベルでは済まない。

 ベルトルド自身の一時の欲望は満たせても、そのあとは地獄を見るのは明白。今以上に心も傷つけてしまう。


「でも、一度くらいはいいよな?」


 ぐっすり眠ったままのキュッリッキの顎を指でクイッと上げ、ベルトルドは顔を近づけた。

 愛しい少女の柔らかな唇の感触をもう一度味わいたくて、お互いの息が触れるところまで顔を近づけた。


「………いや、ダメだダメだ」


 慌てて顔を離すと、はやる気持ちを鎮めるために長く息を吐き出した。


「こういうのはフェアじゃない」


 どうせならキュッリッキが目を覚ましている時に、堂々とキスしたい。舌を絡ませ合い、濃密な大人のキスを教えてやりたかった。しかしそれを考えると余計悶々としてきて、煩悩を消し去るように頭を振る。

 自制心をフル出動してどうにか抑えると、ベルトルドの葛藤を知らず眠る少女の寝顔に再び触れる。


「俺という世界一素晴らしい男が、先に愛の告白をしたんだぞ」


 言い聞かせるように、ゆっくりと囁く。

 指先に感じる柔らかな肌の感触、それだけで愛おしさが奔流のごとくこみ上げてきた。


「初恋は麻疹のようなもの。すぐに俺の良さに気づいて惚れ直すさ」


 自分に言い聞かせるように何度も頷き、もっと自分のほうへキュッリッキを抱き寄せると、頭にキスをして目を閉じた。



* * *



「だ…大丈夫ですか、アルカネットさん」


 ルーファスは遠慮がちに声をかけるが、アルカネットは隈の浮き出た顔を、不機嫌に歪めたまま無言でスープをすすっている。

 朝食をアルカネットと食べながら、ライオン傭兵団の皆は生きた心地がせず、青い顔で無理に朝食を胃に流し込んでいた。

 昨夜のうちに朝食は仕込んであったようで、起きて食堂へ顔を出すと、人数分の朝食がしっかりと用意されていて恐縮した。

 なのでその朝食を回避することもできず、全身から冷気を吹き出す機嫌の悪いアルカネットと共に、静々と朝食を食べているのだった。

 食堂には霜が降りたような、冷ややかな空気が漂っていた。外は良い天気で、そろそろジワジワと暑くなり始めている。自然の熱をも寄せ付けないほどの、徹底的な冷気である。

 ルーファスの声にも反応を示さず、黙々と皿の中身を消化していくだけの作業を繰り返し、朝食を食べ終わると、アルカネットは無言で食堂を出て行ってしまった。


「ぷはー………味がしねえ」


 ルーファスは大仰にため息を吐き出すと、背もたれにだらしなくもたれかかった。


「美味しいんですが、何を食べても冷たく感じるのが怖いですね」


 ぬるくなった紅茶のカップを口に運びながらカーティスが呟くと、無言でシビルとメルヴィンが頷いた。


「ベルトルド様とキューリちゃんがまだ降りてこないけど、寝てんのかな?」

「キューリさんは普段早起きですが、どうなんでしょう」

「まさか………あのおっさん、ついに手を出しちゃったんじゃ…」


 肩をすくめてルーファスが言うと、


「それであんなに怒っているんですかねえ……?」


 カーティスが眉を寄せて渋い顔をした。


「いくらなんでも、そこまで節操無いとは思いたくありませんがっ」


 シビルが上ずった声で言うと、


「リッキーさんが、そんな軽はずみな行為を許すわけがありません」


 怒った声でメルヴィンは言うと、カップを叩きつけるようにテーブルに置いた。


「まあ、下世話な詮索もなんですから、ルーファス、ちょっと部屋を覗いてみてくれませんか」

「あいあい」


 ルーファスは目を閉じて意識をこらす。


「ベルトルド様はキューリちゃんをしっかり抱きしめて、2人共ぐっすり眠ってるー」

「ベルトルド卿は低血圧ですから、これ幸いに寝ているんでしょう。キューリさんは体調でも悪いのかな?」

「昨日散々寝かされてたから、それで寝付くのが遅かったんじゃないかなあ」

「体調が悪いんじゃなきゃ良いです。ただあまり寝すぎると、今日の夜も眠れないと困りますし、昼前には起こしにいきましょう」


 ルーファスとシビルが頷くと、カーティスはちらりとメルヴィンを見た。

 むすっと黙りこくって、空の皿を睨みつけている。その様子にカーティスは小さく苦笑を浮かべた。

 団の中でも良識で、よく気づいて相手のことを思いやることのできる男だが、何故だか恋愛に関しては疎い。激鈍すぎるとさえ思えるほど気づかない。

 それは他人のことでも、そして自分自身のことでも。

 キュッリッキがナルバ山で大怪我をしてから、ずっと彼女につきっきりできていた。その間にキュッリッキに想いを寄せるようになったんだろうことは、ベルトルド邸での不本意合宿が始まってからすぐに気づいた。カーティスだけではなく、他のメンバーたちもすぐに判るほど露骨に。

 それなのに、メルヴィンよりもあからさまに態度に出ているキュッリッキの想いに、少しも気づいていないのがどうしても不思議だった。


(メルヴィンが気づいてしまえば、2人は間違いなく相思相愛になれるというのに)


 そうなれば、万難――ベルトルドとアルカネット――を排してでも応援するつもりだ。

 ザカリーもキュッリッキに気があるのは判っているが、正直そちらは見込み薄だとカーティスは見捨てている。キュッリッキにその気が全くないのだから、応援などして下手な期待をもたせるほうが残酷というものだろう。

 キュッリッキほどの美少女は稀だし、どこか影のある、そして稀中の稀な召喚〈才能〉スキルを有した少女はとても魅力だ。可哀想なくらいペッタンな胸と、色気のない身体を抜かせば男が放っておかない。

 あまり団の中で、メンバー同士が色恋沙汰で揉めるのは好ましくない。それでも、不器用に相手を想い、恋心を膨らませる2人のことは、心から応援してやりたいとカーティスは思っていた。


「ああ、そういえば、他のみんなはどのくらいでここへ到着するんでしょうね?」


 ふと思い出したようにシビルが問いかけた。


「今日明日には全員到着するんじゃね? 敵さんに襲撃されたりすることはないだろうしさ」


 ルーファスが頭の後ろで両手を組みながら答える。


「ギャリーやガエルは大丈夫そうですけど、若干一名、危ないのがいるのが……」

「あー…」

「確かに、激しく心配ですねえ」


 シビル、ルーファス、カーティスは揃って腕を組んで唸った。

 危険がなければあえて自ら危険に飛び込み、困難がなくても困難を引き連れてきて楽しむ、あの金髪の格闘バカ。


「ベルトルド卿が怒り出す前に、到着してくれることを祈りましょう」


 他人事のようにカーティスは言って、天井を仰いだ。



* * *



 ぼんやりと目を開く。すると妙に目が腫れぼったく、僅かに明るさが滲みる。視界も滲むようにして見えづらく、キュッリッキはごしごしと目をこすった。

 何度も目を瞬いて身体を動かそうとすると、身体はあまり動かない。


「……?」


 顔を上向けると、そこにベルトルドの寝顔が見えて、ようやく自分がベルトルドの腕の中に押さえ込まれていることに気づいた。

 無理に首をひねってベッドのサイドテーブルに置かれた時計に目をやると、針は午前10時を回ったところだった。


「やだ、もうこんな時間」


 早起きが常の習慣なのに、えらい寝坊してしまった。

 キュッリッキはベルトルドの腕から抜けようと試みたが、強固な檻のようにガッシリと身体を抱きしめられてしまっている。


「んもー、ベルトルドさん起きてえ」


 胸を小さな拳でポカポカ叩くが、ベルトルドの眠りは深かった。

 毎度のことながら「何故こうも起こすことが大変なんだろうこのヒトは」とキュッリッキは両頬を膨らませる。これではトイレにも行けない。

 行きたいと思うと、早く行きたくなるもの。さっさとベルトルドから解放されねば大変なことに。


「ベルトルドさん離して、漏れちゃう~~!」


 腕の力は緩まない。こんなところでお漏らしはしたくない。

 かくなるうえは!


「ごめんね、でも緊急事態だから!」


 キュッリッキは僅かに腰をひくと、思いっきり片方の膝を振り上げた。




 突然股間に激しい痛みが走り抜けて、ベルトルドは文字通り跳ね起きた。

 声にならない声を発しながら悶絶し、ベッドに突っ伏して痛みに耐える。

 一体何故こんなに股間が痛むのかベルトルドは訳も判らない。子供みたいに泣き出したいのを堪えて、身体を小刻みに震わせた。


「ふー、すっきりしたあ」


 ご機嫌でホッとしたようなキュッリッキの声が聞こえ、ベルトルドはベソをかいた顔を向けた。


「リッキー……」

「あ、ベルトルドさんおはよー」


 愛らしい朗らかな笑顔が向けられる。


「股間がな……猛烈に痛いのだが……」

「ごめんなさーい、ベルトルドさん中々起きてくれないから、思いっきり膝蹴りしちゃったの」


 てへっと首をすくめて、ぺろっと舌を出す。

 悪びれないその可愛い仕草もたまらないのだが、さすがにこれはキツイ。

 男の股間を蹴り上げる行為が相手にどれほどの苦痛を与えるかなど、キュッリッキには想像もつかない。


「ちなみに、こんな芸当をドコで覚えてきたのかな?」


 苦しげに微笑みながらベルトルドが問うと、


「ルーさんに教わったの。痴漢撃退方法でもっとも有効なんだって。男の人にはばっちり効果が現れるから、チョーオススメって言ってたよ」


 どこか得意げなキュッリッキに精一杯微笑みながら、ベルトルドは心の中で拳をこれでもかと握り締めていた。殺意がみなぎる。


(ルー………ぶっ殺す!)


「さすがにもう起きてくださいな! 2人とも!」


 そこへ乱暴にバンッと扉が開いて、アルカネットが顔を出した。


「おや、起きていらしたんですね」

「おはよう、アルカネットさん」

「おはようございます、リッキーさん」


 キュッリッキに優しく微笑むと、ベッドの上でうつ伏せに悶絶しているベルトルドに冷たい視線を送る。


「おなかでも痛いんですか?」

「いや……ちょっと」

「アタシが思いっきり股間を蹴っちゃったから、泣くほど痛いみたい」

「………」


 その言葉に、アルカネットの表情が瞬時に同情的に塗り変わっていった。


「――蹴られたことは不幸なコトでしたね…。さあリッキーさん、昨夜のお部屋で着替えていらっしゃい。朝食も用意してあるので、ちゃんと召し上がってくださいね」

「はーい」


 キュッリッキは元気に返事をすると、パタパタと小走りに部屋を出て行った。

 その後ろ姿を見送って、アルカネットはベッドに腰掛ける。


「何をしたんですか」

「何もしとらん!!」


 ベソ顔で思いっきり怒鳴るベルトルドを、アルカネットは疲れたように見やって首を横に振る。


「回復魔法頼む」

「はいはい」



* * *



 ベルトルドが股間の痛みに涙を流している頃、ソレル王国首都アルイールにある王宮に仮設本部を築いて、ブルーベル将軍、第ニ正規部隊、リュリュらは陣取っていた。

 第ニ正規部隊の長アークラ大将は、ボルクンド王国首都ヘリクリサムで起こった暴動を鎮圧するため、自ら出向いて留守にしている。


「カルロッテ王女に指揮されたボルクンド軍は、だいぶ指揮が高まって、威勢が良いようですねえ」


 つぶらな瞳を真ん丸くしながら、ブルーベル将軍はため息混じりに肩を揺すった。


「そうなのよね。あの大年増に指揮官として才能があったとは、さすがにアタシでも思わなかったけど」


 両手を腰にあてながら、リュリュは呆れたように垂れ目を眇める。次々と寄せられる報告書に、2人はうんざりしていた。


「まあ、閣下のご指定の期日までには、配置も完了しそうですが」


 8月10日にソレル王国、エクダル国、ボルクンド王国、ベルマン公国の首都で一斉に狼煙を上げる予定になっている。

 7月29日から海上戦力、一部先行部隊、物資などの運搬は開始されており、8月3日には全軍が出撃していた。

 8月5日の現在、各国への移動はすべて完了していたが、敵国へ乗り込んでいるので陣を取るための場所の確保、偵察、情報収集、命令系統の調整、各部隊との連絡、連携など、やることがいっぱいあり、行けばすぐ開戦するというわけにはいかなかった。


「それに我が軍は、これほどの大規模な戦争の経験がないですからねえ。3年前とは比べ物になりません。そこが色々と心配です」

「現地での略奪、婦女暴行、無差別殺人、やるなと言ってもやるバカは必ずいるでしょうし。一応警務部隊と尋問・拷問部隊の連中を、各軍に配置しているから件数だけは減らせるかもね」

「綺麗な戦争などというものはありませんが、出来るだけ余計な怨念は振りまかないように心がけたいものです」


 ブルーベル将軍の言葉に、同意するようにリュリュは頷いた。


「ところで閣下のほうは、つつがなく進んでおるのでしょうか?」

「ええ、無事小娘と合流してフェルトに着いたようだし、ライオン傭兵団の連中も数日で全員揃うと思うわ」

「閣下とご一緒なら、あの可愛らしいお嬢さんも大丈夫でしょう」

「あら、将軍はあの小娘が、だいぶお気に入りのようね」


 ちらりとリュリュは大きな白クマの将軍を見る。

 ブルーベル将軍は愛嬌たっぷりの笑みを浮かべ、大きく頷いた。


「なにせあんなに嬉しそうに、トゥーリ族に抱きついてくるアイオン族などいませんからな。それに、あのお嬢さんは間接的に、ワシと浅からぬ縁があるのです」

「あら?」

「お嬢さんが所属しているライオン傭兵団に、ガエルという男がおるでしょう。あれはワシの親類なのですよ」

「まあ、それは驚いたわ」


 本当にびっくりしたように、リュリュは垂れ目を見開いた。


「ワシの妹の息子なのです」


 にこにこと嬉しそうである。そんなブルーベル将軍を見やって、リュリュも微笑した。


「お嬢さんのほうは遺跡でしたね。相当厄介な遺跡だと伺ってますが」

「1万年も前のものだけど、完全な形で生き残っていて、機能の全てもまだ生きているから」


 そこを乗っ取り、立てこもっているソレル国王。


「でも、ベルとアルが一緒だから大丈夫よ」


 確信と自信に満ちた声でリュリュは言うと、妖しい笑みをより深めた。

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