友梨さんと湊さんを見送った空港で、
松岡くんに伸ばした手が届かず、所在なげにふらりと揺れた。
「彩葉?」
私を追い掛けてきたゴウが横に立って肩を抱く。
「泣きたかったら、胸くらい貸すけど」
「ありがと、ゴウ」
でもゴウの胸は借りない。
そんな意思表示のように鞄からハンカチを出して目元を押さえた。
私が泣いてる場合じゃない。
「ごめん、ゴウ。今日はちょっと無理……」
「分かった。でも俺、明日の夜くらいまでしか時間ないんだ。明後日の朝にはまた向こうに帰るから。せっかく会えたから少しだけ話しがしたいんだけど、明日の夜ならいい?」
「分かった、明日の夜ね」
「彩葉の会社の近くの店でどこか予約しておくから」
「ありがとう」
「行くのか、さっきの男の所?」
「うん、私、彼に謝らなきゃいけない。酷い事しちゃったの」
「じゃあ早く行って仲直りしないとな!」
にかっと笑うゴウにもう一度、ありがとう、と言って走る。でもどこを探しても松岡くんは見つからず、電話を掛けても繋がらない。
「松岡くん、どこ?」
謝りたい。
でも、謝るなんて私が自己満足を得るだけかもしれなくて、松岡くんにとっては迷惑かもしれないと、気持ちがネガティブな方へと引っ張られる。
「やだなもう。私が弱くなってどうするの」
もしかしたら松岡くんは苦しんでいるかもしれない。気分を悪くしているかもしれない。
どこかで倒れたり、吐いたりしていないだろうか、と心配になってくる。
苦しい胸を押さえるが、苦しいのは私じゃない、松岡くんの方なんだから、と唇を噛んで苦しみを誤魔化した。
もう一度電話を掛けてみるが、やはり鳴り続けるだけで、電話の向こうで、もしもし、と誰も受話してはくれない。
「松岡くん」
私はなんて事をしてしまったのだろうか。
友梨さんが旅立つ別れの日に、追い打ちを掛けるように、彼を苦しめてしまった。
何もせず、隣にそっと寄り添ってあげれていれば良かったと、後悔があふれる。
*
最後の望みのように松岡くんの家を訪れた。
しかしチャイムを鳴らせど反応はなく、虚しい音だけが響いている。
部屋の中にいるの?
それともまだ帰って来ていない?
どちらも分からない。
もし部屋にいて、出て来てくれないのなら拒否されている。
だけど、ひょっこりと帰って来るような気もしてしばらく玄関の前で待っていたのだが、帰って来たのは隣人の男性だった。
「あの、どうかされました?」
「いえ、大丈夫です」
何となく、そこにずっといる事を阻まれている気がした私は、玄関に向かって、ごめんなさい、と頭を下げる。
もし松岡くんが許してくれるなら、私に謝る機会をください。
そう願うしかなかった。
それ以上は望まないから、ただ一言、貴方を傷付けた事を謝らせて欲しい。