翌日、早めに会社に行くものの、松岡くんはなかなか出勤して来なかった。
まさか体調でも悪いのだろうかと心配になって、それが自分のせいだと思うとまた胸が痛む。
「はあ」
「月見里チーフ?」
「ああ結城さん、おはよう」
「元気、……ないです?」
「ううん、そんな事ないよ。さ、今日も頑張ろうか」
結城さんは納得してない顔で、抽斗からチョコを出して三つも私にくれた。
「月曜は憂鬱ですよね、1週間頑張りましょうね!」
「ありがとう、いただくね」
結城さんの優しさに慰められ、ちょっぴり溜め息が軽くなった気がする。
そして始業のギリギリに来た松岡くんに、声を掛けるが、すげなく返されてしまう。
「今日はすぐに外回りに出ます。行ってきます」
「え、待って……」
「月見里ー! ちょっとこっちお願いー」
それどころじゃないんですけど、久保田課長ー! と思ったが、久保田課長もそれどころじゃないという顔をしていた。
私があたふたしている間に松岡くんはさっさと外回りに出てしまう。
明らかに拒否されている……。
その事が私の心を重くした。
「月見里ー、早くこれ見てよ!」
そんな私の心情なんて関係ないと言わんばかりに久保田課長は、早く早く、と私を呼んでいた。
避けているのが分かるほどに、松岡くんは外回りから帰って来ない。
しかもゴウとの待ち合わせ時間も迫っていたので、仕方なく会社を出る。まさか松岡くんに一言も話し掛ける事が出来ないなんて思ってもいなかった。
相当嫌われてしまった、と考えるべきだろうか。
昨日から少しも解決していない、……どころか事態は悪化しているのかもしれない。
そんな私の顔を見てゴウは開口一番に、大丈夫か、と眉をひそめた。
「なに、仲直り出来なかったの?」
「うん」
「そっか。……好きなんだな、あの彼の事」
「えっ、いや、あのね」
私、松岡くんの事を好きな人だなんてゴウに言っただろうか?
言ってはいないと思うのだが、でも多分ゴウにはバレている。
「俺ずっと彩葉のこと心配だった。でも彩葉に好きな男がいて安心したよ」
「なんで、今更そんな事。私ずっとゴウを待ってたのに」
「こんな連絡も寄越さない男を待ってたの?」
「そうだけど、悪い?」
「ごめんな」
「ううん」
「俺は色んな国を行ったり来たりして、帰って来たと思ったら、またすぐに別の国に行く。そんなの彩葉寂しいだろ? だから俺は一人気ままがお似合いなのさ。彩葉は、彩葉の側でずっと一緒に居てくれる男の方がいいんだよ。寂しがりだからね」
「そうだね、寂しかったよ。でも今は一緒に居たい人が見つかったんだけど、……ほんとどうしよう。私……」
もう駄目かもしれない。
もう話も聞いてくれないかもしれない。
手を繋ぐ事もなく、おしゃべりする事もなく、素っ気ない態度でからかわれる事もないのだろう。
寂しいな。
ゴウがいなくなった時よりも、もっと寂しい。
心にぽっかり空洞が出来てしまったよう。
その空洞を埋めて、心を満たして欲しい人は、実はお姉さんの事が好きだから、私の恋は初めから叶わない事は分かっている。
ただ、側にいることも、寂しさを紛らわせる事も、慰める事も、寄り添う事も拒否された私に残された選択肢は、諦めるという事。
重い溜め息を吐く私に、ゴウは何も言わずただ隣に座っていてくれた。