濡れた唇がゆっくりと離れていく。だけど、手だけはお互いの身体に引っ付け合ったまま離れなくて、ふふっ、と笑いがもれる。
「離したくないな」
「うん」
「帰したくない」
「それは困るな。明日も会社だし、今日は帰らなきゃ」
「なんでそんな余裕あるの?」
不貞腐れた顔をして私の首筋に顔を埋める歩くんが愛しい。
「僕だけみたい。欲しがってるの」
「そんな事ないよ、私だってずっと一緒にいたい」
「なら、」
「でも、明日会社あるんだよ?」
「やっぱそれ?」
「今日はとりあえず帰ろ?」
「じゃあ彩葉の家に僕も行きます」
「えっ!?」
驚く私の唇を歩くんがさらっと奪う。
「ムリ。こんなの無理だから今日はずっと一緒にいます」
「……歩くん」
私だってずっとずっと一緒にいたい気持ちはあるから、歩くんの強い意思に引っ張られてしまう。
「そんなに言うなら、……来てもいいよ?」
「はいっ!」
「でも着替えとかないからね?」
「大丈夫、始発で帰って出勤します」
「うん、分かった」
了承に頷く私を満足気に見て歩くんはもう一度、その濡れた唇を私に重ねると、嬉しそうに微笑み、私の手を取った。
指と指の間にお互いの指を重ね、初めての恋人繋ぎに胸がどうしようもなくときめく。
嬉しくて緩む頬はどうしたって止められなかった。
*
家に着き、玄関を開けて歩くんを中へ促す。
「散らかってるけど、どうぞ」
「お邪魔します」
靴を脱ぐまでは紳士だった歩くんが、靴を脱いだ途端に私をぎゅうと抱き締めた。
「ちょ、っと、ここ玄関だから」
「無理、待てない」
諫めるものの、私も嬉しいから鞄を床に放して愛しい背中に腕をまわす。
「彩葉」
好き、と言いながら落ちてくる唇に、私の中の好きが溢れる。
「私も好き」
そう返せば、角度を変えて何度も何度も求められるので、私も懸命に応える。割りいって来る舌を受け入れながら、背中を撫でられる手のぬくもりを感じていると、その手付きが徐々にいやらしくなる。
「ん、……待って、」
「待てない」
「でも、汗かいてるし、……シャワー、」
「気にしない」
「気にしてよ」
そこでやっと二人の動きが止まる。
じっと見下ろす歩くんの視線を受け入れて微笑むと、少し拗ねたような顔をされた。
「彩葉から手が離れない」
「え!?」
「離したくないんですけど、シャワー浴びるなら一緒に入ります?」
「ちょっ!?」
私の焦る顔を見て、にやりと笑う歩くん。
「ははっ、いいですよ、ちゃんと待ってますから、早く入って来てください」
「もう〜〜〜」
「ほら早く! 遅いと僕も入っちゃいますからね!」
「え、待って、ほんとちゃんと待っててね!」
急かされながらも、そのやり取りさえ楽しんで私は熱いお湯で汗を流すと、この後の展開を想像して隅々まで綺麗に洗った。