ランレイ・フレートンは目を丸くしていた。
「馬鹿な……」
見覚えのない白い肌の外人。
見るからにアマゾーナではない文明圏の少女が、想像をはるかに超える戦士だった。
感覚としては三段保有者の剣士の可能性を疑ってはいた。
しかし、人造怪物オブスクーラ二型がああも、無惨に葬りさられるとなると話が変わってくる。
もしかして、四段保有者?
なぜそんな高等な剣士がこんな村に?
「ランレイ卿、も、もしや、あの娘は……」
「あの狩人の仲間? そうか、なるほど……」
剣術だろうが、魔術だろうが、段階三まで至れる者はごく一握りだ。
そして、その先の段階四となると、その数はごくごく限られてくる。
類稀なる天才な領域。そうと呼ばれている。
それこそ、四段保有者の剣士など狩人協会から声がかかり、日夜怪物と死闘を繰り広げているに違いない。
強くて当たり前だ。
「ランレイ卿、いかがなさいますか?」
「はは……ふはは……ふぁーーはっははははははははははははは! いいぞ、いいぞ、素晴らしいじゃないかね!」
ランレイは歓喜した。
「相手にとって不足なし! そんなに守りたいのなら、お前の力で守ってみせろ!」
ランレイ黒手で腰から杖をぬいた。
「3等級の高級品だ。こいつを試してやろう!」
ランレイが先日都で買ってきた小杖。
3等級、コトルアの杖。
霊鳥コトルアの尾羽を芯にすえて作られた杖だ。
「死して礎となれ
──《ボラ》」
紫光が煌めき、闇の魔力が放たれる。
光弾は異様に速く、短い愛称も相まって、咄嗟の避けることが叶わなかった。
ジュブウバリの少女戦士が光に撃たれる。
ふわっと吹き飛ばされた。
カティヤはすぐさま駆けだし受け止めた。
「大丈夫か?」
カティヤはまだ幼い少女に問いかける。
血は出ていない。
撃たれた箇所も傷ついた様子はない。
カティヤはホッとする。
しかし、ふと、少女の表情が固まっていることに気がついた。
少女は瞬きをしていなかった。
苦痛に歪み、涙を流したまま──息絶えていたのだ。
カティヤは目を見開く。
「エクセレント。どうだね、素晴らしい力だろう? これが死の魔術だよ」
「死の、魔術……?」
アンナはその恐るべき威力に戦慄する。
当たれば、死ぬ?
そんなデタラメな魔術が存在する?
「私も美しい娘を殺すのは心が痛むだが、それも仕方なのないことだ。
死して礎となれ──《ボラ》」
再び紫色の光が放たれる。
アンナは剣で斬り払った。
大丈夫、冷静に戦えば対応できる。
そうアンナが思った瞬間、紫色の光が4つ同時に発射され、4つの命が奪われた。
5人の闇の魔術師全員が、死の魔術をつかえるのだ。
「殺す」
冷たい声でつぶやく。アンナは飛びかかる。
闇の魔術師が次の魔術を唱える前に、首が宙を舞った。
「っ、やはり速い! 距離を取れ! あとはオブスクーラで掃討する!」
ランレイの号令で闇の魔術師たちは空へ逃げていく。
「逃がすわけないでしょ」
アンナはツリーハウスを繋ぐ吊り橋を切り落として、ツタを手に取った。それを剣の柄に圧で固定、鉤縄のごとく振り回して、空飛ぶ闇の魔術師の背中へぶん投げて、突き刺して、力任せに引きずり下ろす。
ランレイは殺意の波動に目覚めたとしか思えない残酷な攻撃を繰り出すアンナへ、死の魔術を放った。
アンナは闇の魔術師を盾にして防ぐ。
屍になった外道を放り捨てて、再び鉤縄のように投げて魔術師の撃ち落とした。
獣を狩る狩人の俊敏さ。
状況への適応能力。
「やはり狩人……、やはり古代から怪物を相手にしているプロなだけある……。オブスクーラぁあああ!!」
絶叫にも似た声でランレイが咆哮をあげる。
それは人の声帯機関ではない。
喉に植えつけられた狼の声帯と近いものであり、その響きは遠吠えさながらだ。
アンナは
だが、その瞬間、アンナの視界を何かが掠めた。
物凄い速さでせまる鋭利な爪。
アンナはとっさに場を飛び退いて、不意打ちを回避した。
「がしゅるるる」
荒い声が聞こえる。
巨大な影がいた、
アンナは異臭に眉根をひそめる。
4本足の四足獣だ。
そのケンタウロスのような獣には上体がついており、黒い刃を両手に持っている。
人間の子供ほどある大きな両手剣に目がいくが、より恐ろしいのは上体の背中から生えている無数の触手だろうか。
「ははは、これが我らの合成魔術の大傑作、人類の未来だよ!」
ランレイは高らかに笑う。
「さあ、殺し尽くせ! 闇に飢える者オブスクーラよ!」