「こほん!それでは改めて……ようこそ、人の子らよ。私が伏見稲荷大社の主祭神、全国の狐と稲荷の頭領たる
荼枳尼天狐によるたっぷり一時間ほどのお説教が終わった後、気を取り直して
幼い姿と少し涙目に見える瞳が相まって、彼女はとても庇護欲を沸き立たせるが、流石にルルドゥのように抱きかかえる訳にもいかないので狛はムズムズする気持ちを抑えているようだ。一方、子ども好きな猫田は彼女から感じられる強力な神気に圧され、何やら落ち着かない様子である。見た目とのギャップに戸惑っているのかもしれない。
そんな狛達の思いなど知る由もなく、
それは時間にすれば数十秒だが、あまりに見つめられすぎて、狛はたまらず声を上げた。
「あ、あの…私の顔に、何か……?それに、お友達って…」
「ああ、すみません、失礼でしたね。あなたとようやく会えたものですから…人間風に言えば感慨深いと言うのでしょうか?あまり神が個人に肩入れするものではありませんがね……それと、狐と狸という間柄か、彼とは縁がありまして。神と妖怪という違いはあれど、隠神刑部とは旧い友人…顔馴染みなのですよ」
「よ、ようやく…?」
いまいちピンと来ない返事が来て、狛は更に困惑している。流石の狛も稲荷の親玉に知り合いはいない。犬神家は商売もやっているので、商売繁盛のお詣りくらいはしているかもしれないが、その割に傍にいる拍にはそこまで思うところはないようだ。
どういうことなのかと狛が考えを巡らせていると、
「ふふ、私は隠神刑部のことがなくても、あなたのことをずっと見ていたのです。あなた達がここに来ることもずっと前から知っていました。…まぁ、予定外のことはあるようですが」
そこで話を聞いて猫田が、何かに気づいて口を挟んだ。
「未来視か…?或いは予知か。どっちにしても神の得意技だな。何で狛を見てたのか、理由はわからねーがよ」
「ええ、その通りですよ、猫田。その訳は後々お話しますが…そう言えば、あなたと話をするのは二度目でしたね。いつぞやは失礼しました」
「ああ?お前なんて知らねえ……いや待てよ、その声…もしかしてあの狐使いの」
「そうです、あの時は狐太郎が粗相をしましたね。あれは腕前こそ良いのですが、どうも粗忽な所がありまして……よく言い聞かせておきましたから、もう同じ失態はさせません」
そう言って笑う
「狐太郎さんって…大寅先生の事?あ、そう言えば大寅先生って確か……」
狛も気付いたようだが、二人が言っているのは、神子祭で猫田とカイリ達が囚われた狛たちを助けようとした際、悪さをする妖怪と勘違いされて戦う羽目になった時の事である。
思い返してみれば、あの狐太郎は
そんな猫田の顔を眺めて
「さ、さて、そろそろ話を始めるとしましょう。……その前に、猫田、その呪符を出しなさい」
そう言うと
「呪符って、そんなもの持っちゃいねーぞ…?なんかの間違いじゃねーのか?」
「いいえ、持っていますよ。それ、そこに」
「それが呪符だって?それはアイツが餞別にくれたお守りのはずだが……」
「アイツ、とは?」
「アイツは…あれ?待てよ。名前が出て来ねぇ……っていうか顔も思い出せねぇぞ…?そもそも、
「…覚えていないのは当然でしょう。これをあなたに与えたのは、曲がりなりにもれっきとした神の一柱ですから。そう言った事に長けているのです、あの疫病神という者は……」
「や、疫病神だって!?」
「ええ、人間にも馴染み深い神でしょう。悪神の類いとはいえ、神は神ですからね。貧乏神と言ってもいいのですが、あれは家人に悟られることなく家へと入り込み、その家と人に不幸をもたらす者。恐らくそう言った特性から、認識を阻害する術を持っているのです。例えそれが妖怪相手であっても、その力は通用するようですね」
そんなバカなと呟いて、猫田は絶句してしまった。しかし、言われてみれば思い当たるフシは確かにある。ここまで言われてようやく思い出してきたあの男……
そうして確かめるような仕草を見せた後、
「…この呪符があったから、あなた達に不幸が降りかかったのです。狛の兄……名を拍と言いましたね、どうですか?狛を憎む気持ちはまだありますか?」
「は?あ、いや……いや…まさか……っ!?」
拍は頭を押さえて、狼狽している。自身の心境の変化に耐えきれず、パニックになりかけているようだ。そんな拍の様子に、猫田は胸の内で唸りながら納得していた。あれだけ狛を溺愛していた拍が豹変した事は、猫田にとっても信じられないものであったのだ。それが本当に疫病神こと…
そして、気付いた事がある。新しい支隊によるくりぃちゃぁへの襲撃……それもまた、