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第16話 宮廷魔術師の元に

 ゼスオジとの食事を終え、何度目かのくそ女神様の肖像画を通り、私とエル、それに食欲を満たしたくそぽっちゃりとお目付け役としてゴルデスマンさんが同行してくれて宮廷魔術師様とやらが居る宮廷魔術師専用の建物へと向かっている。


 殺意が湧くので本当はくそ女神様の肖像画を見たくないので背を向けて歩きたかったが、不審に思われそうなのでただまっすぐ前を見つめて歩いた。


「オイラもいつかは獣人~。獣耳、尻尾、ワンゴロン~」


 城の敷地内ということで、くそぽっちゃりは咎められることはなく、私の目の前で楽しそうにオリジナルソングを歌い、ゆっくりと手足を上げて歩いていた。

 それでも一歩一歩が大きいので私よりも速く歩けている。


「あ、あれも魔法なの……?」


 つい、そんな言葉を口に出してしまう。


「あれは兄さんのポテンシャルです。獣人のことになると目がありませんからね。それが分かったのもごく最近なんですが……」


 隣に居たエルに聞こえたようで苦笑いをしながら答えてくれる。


 ポテンシャル……ね。

 一つのことにそれだけの情熱が注げられるのは大変素晴らしいことではあるのだけど、人によってその価値観は違う。

 私の場合、譲渡できるもんなら今すぐにでもこの獣耳と尻尾を彼に与えたいくらいだ。


 なんてことを思いながらも私たちは歩き進め、城内を出て離れにある一階建ての青い家が段々と視界に入り、それに近づいて行く。


「ここだ」


 ゴルデスマンさんがその家の前で立ち止まり、私たちに振り返ってそう教えてくれる。

 一体どんな人なのかな。


「邪魔するぞ」


 ゴルデスマンさんが先陣を切って家の中に入っていく、私たちはその後に続く。

 中は薄暗く家の中に光が入らないようにカーテンで締め切ってあった。

 初めに目に付いたのは緑色にグツグツと煮える大きな釜とそれをかき混ぜている人の姿だった。

 紫色のローブに身をまとった金髪のショートヘアにエメラルドグリーンの瞳、彼がヒックさんなのかな?


「おや、ゴルデスマンじゃないか。そろそろ来る頃だろうと思ってたよ」


 彼とゴルデスマンさんは知り合いのようで気さくに話し掛けていた。


「連絡はしてないとは思うのだが」

「して来なくても分かるさ。獣術のことで聞きに来たんだよね?」


 ゴルデスマンさん怪訝そうに細めでヒックさんを見つめる。

 反対にヒックさんは柔らかな笑顔でそう答えた。


「知ってるんですか! あっ……私はマリア・スメラギと言います。先日は助けて下さりありがとうございました」


 獣術のことを知っていそうだったので早くそれを聞きたかったが、致命傷から救ってくれたお礼を言うのを忘れているのを思い出し、自分の名前を名乗ってからお礼を言い頭を下げる。


「これはこれはご丁寧にどうも。ボクはヒック。王都のしがない宮廷魔術師さ。それだけ元気なら大丈夫そうだね」


 私に向かって手を振り名前を名乗る。

 ゴルデスマンさんとも気さくに話しをしていたので私にも気さくに話し掛けてくれた。

 何ともその仕草はサーカスに居るピエロのようだった。

 白塗りに赤い鼻が似合いそう、そんなイメージを植え付けられる。


「なぁ、早速オイラに見せてくれよ!」


 脇を締め両手を握り前のめりになり興奮気味にくそぽっちゃりはヒックさんに駆け寄りお願いをしていた。


「ボクも丁度試してみたいと思ってたんだ。でも何が起こるか分からないから外でやろうか」


 釜の火を止め、壁に立てかけてあった木の杖を手に持ち、外へ向かっていく。

 もちろん私たちもその後に続く。

 くそぽっちゃりほど興奮してはいないが、エルも口を綻ばせ、楽しみにしているのは伝わった。

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