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第38話 え? 聞いてないんだけど!?

 昨日の晩ご飯を食べている時も今日の朝ご飯を食べている時も私とシロムはラウンジでは注目の的になっていた。

 同性の子は何人か話し掛けてくれたりしてクラスは違えど顔見知りにはなったし、異性の子には物珍しく見つめられるだけ。

 そんなこんながあっての王立魔法学園二日目、事件が起こる。


「はい。今日は昨日お伝えした通り一般クラスとの合同で魔法の実技テストを始めます。みなさん、私に付いてきてください」


 一限目、教壇の前に立つなりレナ先生は手を二度叩き自分に注目させると何やら聞き覚えのないことを呟いたかと思うとそそくさと教室を後にした。

 何も疑わずにみんなも普通に教室を出る。


「マリア、どうなさいましたの?」


 立ち上がることをしていなかった私を心配になったのかセシリーとミオが向かってきた。


「いやぁ。実技テストがあるだなんて聞いてなかったもので」


 後頭部を摩り苦笑いを浮かべてみた。


 一言で申し上げると、やばい!

 サラサラの砂しか出すことが出来ない私にとって緊急事態だ。

 表には出さないけれど内心冷や冷やしている。


「昨日の二限目に仰ってましたわ。早く行きますわよ!」


 それだけ言うとセシリーを筆頭に二人は教室を出ていってしまう。


 二限目ってことはゴウから逃げようと考えていた時かぁ……流石に聞いてないからと言って休む訳にもいかず、私はセシリーたちの後をつけ学園の裏にある芝生へと辿り着く。

 既に生徒が沢山居て見覚えのある顔がチラホラ存在した。

 その中にはもちろん。


「マリア!」

「ミレッタも実技テストやるの?」


 ミレッタの姿があった。

 私の顔を見るなり三つ編みを揺らし犬のように走ってきたのがこれまた可愛い。

 でもミレッタもセシリー同様に私が凄い魔法を使えると勘違いしてそうだよねぇ。

 使い魔であるシロムは私の肩に乗ったまま呑気に居眠りをこいているし。


「全員参加ですから」


 魔法に自信がないのか下を俯きながら答える。


 多分だけどミレッタよりも私の方が酷いと思うよ?

 余りに酷すぎてセシリーもミオもミレッタでさえ相手にしてくれなくなったら嫌だな。


 なんて不安を抱えながら自分のクラスの人たちの元に向かっていく。

 すると既に実技テストが始まっているようで五十メートルほど離れた距離にある的に向かって魔法を放っている人が何人かいた。


 その中に見覚えのある姿が。


 ゴウだ。


 彼はまるで格闘キャラか戦闘大好きな民族よろしく両手でボールか何かを挟んでいるのではないかと思わせるポーズを取り、みるみるうちにボールではなく火の玉が出来上がる。


「ファイアーボール!」


 そう彼が叫ぶと揺ら揺らと火の玉は的に目掛けて飛んでいく。

 だがしかし、速度が恐ろしく足りず火の玉は線香花火の最後のようにぽつりと地面に落ちた。

 ちょうどゴウと的の中心で落ちているので二十五メートルくらいだったのかな。


「ふっ。こんなもんだろう」


 踵を返し的とは反対方向へと歩いていった。

 格好つけてるつもりなんだろうけどダサい。

 だけど私は真似出来ない程威力があるんだよねぇ。

 きっと当たったら一溜りもない、火傷では済まされないよね。


「次は、わたくしの番ですわね!」


 近くに居たはずのセシリーがいつの間にか居なくなっており的を魔法で倒そうと息巻いていた。


「当たりなさい──ウォーター!」


 彼女の縦ロールから水魔法が! なんてことはなく、右の手のひらを的にかざし、そこからうねるようにして水の渦が放出される。

 ゴウの使った火の玉とは比べ物にならないほど速度が速い。

 確かに速度だけ見れば申し分はないのだが、的外れとはこのことか水は的に当たることなく上へと上がって霧散してしまった。


「セシリーはコントロールが苦手」


 隣に居たミオがそっと教えてくれる。

 どちらも威力は凄いがコントロールは苦手のようだ。

 それを聞いて少し安心するけど私はみんなに絶対笑われる自信があるんだよねぇ。


「次は私が行ってくる」


 脇を締め自分を鼓舞するかのように気合いを入れたミオはセシリーと入れ替わりで的に向かっていく。

 逆にセシリーは少し不満げな表情をして私に話し掛ける。


「今日はたまたま調子がよくありませんでしたわ」

「そういうのあるよね。仕方ないよ」


 そう。そういうのがあるのだ仕方ない、と私はセシリーに言い聞かせているのではなく自分に言い聞かせるようにして言っていたのだ。


「ウィンドカッター!」


 てっきり髪が青いから水魔法を使うのかと思っていたのだがミオが使ったのは風魔法。

 いくつもの風の刃が的に向かっていく。

 速度も照準も悪くない。威力は低いものの的に命中し、切り裂かれたような跡がついた。


「及第点かな」


 満足とも悔しいともとれる表情を浮かべてミオは戻ってくる。


「最後はマリアだよ」


 戻ってくるなりそう言われた。

 気付けば他の生徒も実技テストを終え、みんながみんな私に注目していた。

 レナ先生ですらまじまじと私を見ている。


 そりゃそうだよね。

 転校生ってだけで目立つのにハイネでは有名な白猫のシロムと契約したんだから尚更だ。


「はぁ、魔法は苦手なんだよね」


 と言うか前世で魔法なんて使えないし、そんな概念もなかった。

 少しだけでも使えるのは喜ぶべきなのだろうが、こんな大勢の生徒が注目する前で使うのは気が引ける。


 魔法を使うのに邪魔だと思ったのか、シロムは肩から降りて距離を取り見守っていた。


「──サンド」


 魔石を右手で軽く握り魔石を媒介にして砂を貯め、届く訳もない砂の塊を的に向かって投げつける。

 当然だが砂の塊は的に届かない、それだけでなく運悪く向かい風が吹き、砂が私を襲った。


「う、うわぁ!? ぺっぺっ」


 砂が目に入り口に入り、的には当たらず踏んだり蹴ったりだ。


「フハハ、フハハハハ! 白猫と契約したからどんな魔法を使うと思ったがとんだ落ちこぼれだな! こんなやつ婚約破棄だ!」


 腹を抱えて笑ったかと思うと腰に手を当て高らかにゴウは私を見下し落ちこぼれの烙印を押されてしまう。

 そして婚約をしたつもりは微塵もなかったのだが破棄とかほざいてる。

 まぁそれはこちらとしても嬉しい。


 だが私のことを期待してくれていたセシリーは口を開けたまま動かなくなってしまった。

 ミオはそれをどうにかしようと必死だったのが申し訳なかった。

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