眩しい日差しが眠っている私を刺激し私は目を覚ます。
今日は学園があるんだったっけ?
どういう訳か私の身体は酷く気だるく、許されるならこのまま二度寝……。
「──ハッ!?」
眠ってしまう前のことを思い出し無理矢理身体を起こす。
見慣れた私の部屋と隣には呑気に眠る白猫であるシロムの姿と……ベッドを枕にして突っ伏しているミレッタの姿。
「……ん、ん~、ま、マリア!」
私が起き上がったせいで目を覚ましてしまったのかミレッタは立ち上がり眠そうに目を擦っていると私が目を覚ましたのに気付いたようで嬉しそうに私に飛びつく。
目元は赤くなっていてきっと寝落ちするまで泣いていたのかな。
「お、おはよう、ミレッタ。心配掛けてごめんね?」
「ううん! マリアは悪くないです。悪いのはあの魔物だと思います!」
「そうだ。あの、く……魔物は?」
危ない危ない。お嬢様の設定なのにクソって言ってしまいそうになったよ。
でもそれはゴウとの決闘でメッキが少しずつ剥がれてはいた。
だけどクソなんて言うのはレディとしてどうなのかと疑問に思う。
「覚えてないんですか? マリアが倒したんですよ」
「……そっか、私が倒したんだ……倒せたんだね」
魔物がどうなったか訊ねると私を抱きつくのを止め、首を傾げて訊ね返されたがすぐに答えを私に伝える。
私は何処を見る訳でもなく視界は上に向かう。
ヒックさんの力添えもあったからこそ倒せたのでしょうけど。
今思い返せば目を何個も潰していたのでくそ花からは沢山の紫色の血が吹き出していたんだし出血多量で倒せたのかな。
その時の光景を思い出し、今更ながら血に畏怖を覚え下を俯き右手で左の二の腕をギュッと抱きしめる。
「お腹は空きませんか? いえ、空いてなくても食べなくちゃダメですね。今持ってくるので待っててください!」
私の動作に何も不審がらずそれよりご飯を食べて欲しいのか有無を言わせずミレッタはすぐさま私の部屋を出て行ってしまった。
確かにお腹も空いているし持ってきてくれるのは有難い。
お陰で恐怖心は薄れてきたし。
「まさか園内に魔物が出てくるなんて思いもしなかった。助けに行けなくて済まない」
ミレッタが部屋を出て行ってすぐにシロムは起き上がり私に向かって頭を下げる。
「ほんとだよ! 全く、何処で何をしてたんだか。大変だったんだからね…………って言いたいところだけど大事に至らなかったし大丈夫。それよりシロムのお陰でゴウに勝てたよ、ありがとね」
右手を軽く握り唾が出てるのではないかと大声でシロムに訴えるが、もう済んだことだし問題ないこととシロムの作ってくれた木剣のお陰でゴウに勝ったことを伝えたが──
「……口に出している時点で意味が無いような気もするが……勝てたなら良かった」
数秒間、シロムは口を開けぽかーんと私を見てからさも同然にツッコミを入れる。
だけど私が勝ったことを嬉しそうにしているのが分かった。
「お待たせしました。マリア?」
私がシロムをじっと見つめていたからか不思議そうに見つめられる。
三階から一階を行き来していると言うのにミレッタはとてつもない速度で帰ってきた。
気付けばベッドの隣にはいつの間にか小さなテーブルが増えていて、ミレッタはその上にトレイを置く。
トレイには美味しそうな香りのするご飯とおかずが並ぶ。
「シロムにどうして助けてくれなかったのか、って言ってたところだったの」
「マリアは白猫さんと会話が出来るのですか? 中には自分の使い魔と会話が出来る人も居るみたいです」
私はシロムの頬を軽く小突きながらミレッタに言うと、ミレッタは使い魔と会話が出来る人も存在することを教えてくれる。
小突かれたシロムは丸くなり気だるそうにしていた。
「そうなの? 私は魔法も得意じゃないからそんな高度なこと出来そうにないなぁ」
使い魔だからシロムと会話が出来ている訳ではない。
シロムが特別だからだ。
かと言ってそのことをミレッタに教えることも出来ないので自分は魔法が得意じゃないから使い魔と会話が出来そうにないと呟く。
果たして魔法と関係があるのか分からないけどね。
「それより栄養はしっかり摂ってください。私が食べさせた方が宜しいですかね?」
「う、ううん! 大丈夫だよ。わざわざ持ってきてくれたり診てくれてありがとね。もう私は大丈夫だからミレッタも休んできて欲しいかな」
使い魔と会話が出来る出来ないよりも私の身体を気遣って自分がご飯を食べさせた方がいいのかトレイに乗っているご飯を見て考えていた。
この歳になって誰かに食べさせてもらうだなんて恥ずかしいし、身体はいつも通りに動かせるので食べさせてもらう必要もない。
それよりはずっと私のことを診てくれていたミレッタの方が心配だった。
「私よりマリアの方が心配です」
真っ直ぐ私を見つめて放たれる言葉。
きっと何を言っても今は私が優先されてしまうのだと悟ってしまったよ。
「わ、分かったよ。それじゃあ行儀が悪いかもしれないけどご飯を食べながら私が気を失った後のことを教えてくれるかな?」
なのでご飯を食べながらその後を教えてもらうことにした。
セシリーとミオの部屋が何処にあるのか分からないのでその後はどうなったのか聞きに行けないだろうし、私が部屋から出るのをミレッタが許してくれなそうだしね。
「はい!」
嬉しそうに返事をしていた。
花の魔物が倒されてから遅れて他の先生や王都に住む騎士団の人達が駆けつけてくれて私に治癒の魔法を掛けたりなんだりをしてくれたそう。
ミレッタの話によるとあの魔物は王都では見たことがなく、騎士団の人たちや学園の先生ですら知らなかったらしい。
なので魔物の残骸を袋に詰めて植物系の魔物を研究している施設に送ったのだとか。
「そう言えばレナ先生は大丈夫そう?」
「はい。バーン学長さんが治してくれてました」
「そっか。それなら授業も──」
私は一瞬、冷凍保存されてしまったかのようにカチカチに固まる。
「マリア?」
どうしたんだろう、と私を覗き込むようにして心配されてしまう。
そりゃそうだ。誰だっていきなり固まってしまったら心配もする。
──だがそれよりも今の私は自分のことで精一杯だ。
「あれっ!? 今何時!? 授業は!? 私の制服どこぉ!?」
「きょ、今日はお休みですよ? ちなみに明日もお休みです」
ガタンとベッドから飛び上がりとてつもなく取り乱し部屋のクローゼットを漁る。
だがそんな私を一瞬で収まらせる魔法のような言葉「お休み」が炸裂する。
「よかった~」
空気の抜けた風船のように萎んでベッドに再び座る。
つい大学生だった頃を思い出してしまい単位が足りなくなってしまったらどうしようかと焦ってしまったよ。
「病み上がりですからあまり無理に身体を起こさないでくださいね?」
なんてまるで母親のように言われてしまい、今日もそして明日も自分の部屋で安静にせざるを得なかった。
何故ならずっとミレッタが私の看病をしてくれたからね!
背中まで流そうとしてきたのは全力で止めた。
流石に夜は一人にしてくれたけどこの世界に来てからと言うもの砂遊びくらいしか趣味らしい趣味が存在しないので部屋に居ても寝ることしか出来なかった。
これは次の休みには趣味を探しに街に行かねばならないね。
心の奥底でふつふつと闘志を燃やしていた。