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第63話 いつかは、また

「聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ?」


 いつものようにミレッタとシロムの二人と一匹で夜ご飯を済まし、自分の部屋に戻りいつものようにベッドにゴロゴロしながらシロムと二人きりになると私はお昼ご飯を食べている時に話していたことを思い出し、シロムに訊ねることにした。


「今の時代じゃ魔道具を作る人って存在しなかったりする?」

「さぁどうだろうか。少し前まではハイネでも作る者はおったと思うが……思えばここ最近では聞かなくなったな」


 私が訊ねると猫らしからぬ仕草である顎に手を当てて考え込みながらゆっくりとそう答える。

 シロムの言うここ最近とは一体何百年前のことなのだろうか。


「私、魔道具作れそう?」

「……未知数、だな」


 それよりも私は誰のサポートもなく魔道具を作ることが出来そうなのかシロムに訊ねてみるが、私をじっと見つめ絶対無理、と言いたげな顔をした後に目を閉じて未知数なんて無責任なことを言い放った。


「そっか。じゃあなんで魔道具を作る人が居なくなっちゃったのかな? 理由は獣術と同じだったりする?」


 シロムのその一言でもう魔道具を作るのは諦め、どうして魔道具を作る人が居なくなっのか訊ねた。

 昨日は私が質問されっぱなしだったので今回は少しばかり訊ねさせてもらうからね。

 でも自分の意見もちゃんと入れる。

 今思えばターシャさんが魔道具について教えてくれていたけど受け答える形式だったのはシロムに何かを教える時はそうしていたのかな?

 お陰でシロムもそんな喋り方なんだよね。


「あくまでワタシの考えだが概ね同じだろう。それに魔道具を作らなくてもいいように便利な物が出来た」

「便利な物?」


 光を照らすなら魔石じゃなく懐中電灯があったりとか?


「エンチャントだ。わざわざ光を照らすのに魔道具なんて必要なかろう? 装備にエンチャントを施せば済む話だ。だがエンチャントもそこまで万能ではない。数年で使い物にならなくなる。まぁ魔道具も長持ちはするが使い過ぎると壊れるがな」


 答えは単純明快。

 エンチャントをすればいいだけの話だった。

 自分の意思で発動出来るらしいので、わざわざ魔道具を使って片手が塞がる、なんてことは避けられるよね。


「そっか……だからゴウの鎧はあんなにピカピカしてたんだね」


 あのピカピカは夜道のためだったんだね。

 それと目眩しにも使えるから理に叶ったものではあった……目立つけど。


 何故か眩しいから音が連想され、ターシャさんが持っていた鈴を思い出しピカーんと閃く。

 多分このピカーんが音を連想させる要因となったのだと思う。


「あ、でも前に住んでいたとこで共鳴する鈴を使ってたんだよね──ってことは!!!」

「おそらく故郷に戻れば魔道具を作る者が居るということだな」


 シロムだけではなくみんなには私がグラダラスに住んでいたことを教えていないし、グラダラスの出身でもないのだが、シロムは勝手に故郷だと思い込み、帰れば魔道具を作れる人が居ると推測した。


「まぁこの件は追々、だね」


 私、グラダラスに入れないし今はまだ学生の身分だし。

 そんな状態で帰っても捕えられるのは明確だし、私のためにお金を出してくれたゼスオジに申し訳ない。


「あ、そうだ。じゃじゃーん!」


 私はポケットに入れていた紙切れを思い出し、それを取り出してシロムの前に出す。


「なんだこれは?」

「ターシャさんのお店があった場所が売土地になってたから買ってきたんだよ。またターシャさんと会えるかどうか分からないけど会えるといいなぁ」


 何を意味する紙なのか一瞬見ただけではピンと来ていないシロムにこれはターシャさんのお店があった場所の土地を買った紙だと言うことを教えた。


「そうか」


 紙が何かわかると短く答えるだけ。


「何だか複雑な顔をしてるね? そう言えばどうしてターシャさんと離れ離れになっちゃったの?」


 どうして離れ離れになってしまったのか理由を訊ねた。


 もう会いたくはないのだろうか? 

 だから魔法陣から出てこなかった?


 だけどターシャさんとアリアちゃんが消えてから血相を変えて出てきたので後者は違うね。

 前者は絶対に違う。本当は会いたいに決まってる。


「ちょっとしたすれ違いだ。あっちはちょっとだと思っているかどうか分からないがな」


 私と目を合わせたくないのかシロムはベッドの上で丸くなる。

 これ以上話を聞いて欲しくなかったり、話を終わらせる時は毎度シロムは決まって丸くなる。

 なので今回も無理に話そうとは思わなかったが、このまま気持ちまですれ違ってしまったままなのは釈然としない。


「分かった。ターシャさんがそのことでまだ怒ってると思ってるんでしょ?」


 なので丸まったシロムに向かって私はニヤリと笑う。


「だから会うのが気まずい、と? 流石にもう何百年前のことを怒ってるだなんて思えないよ。だからターシャさんにシロムは捻くれ者って言われるんだよ」


 ニヤ顔を維持したまま腕を組んで私は名探偵さながらの推理を読み解く。

 それに加え、ターシャさんが言っていたことを思い出しそのままシロムに伝えた。


「何っ!? ターシャがそんなことを……ターシャもターシャでどれだけ捻くれていたことか……こちらが気を悪くしていたのが馬鹿馬鹿しくなってきたぞ!」


 私の言葉に初めて見る驚きを見せ、威嚇をする猫のようにピンと尻尾を立たせ前のめりになり、ターシャさんとの日々を思い出したのかシロムもシロムでターシャさんに対する鬱憤を口にしていた。


 私から見ればシロムもターシャさんも捻くれている。


「その意気でいいと思うよ? でも、もし今度会う機会があるのなら手は出さないでね?」


 どちらが良い悪い、お互い様だとしても今のシロムの意気込みならばターシャさんと会っても普通で居られるはずだよね。

 手は出してないとか言いながら魔法の応酬だったら困るけど。


「善処する。数日に渡って……いや、何百年とあの場に姿を隠すようにして存在していたのだからまたひょっこり現れてもおかしくないだろうな。アーティファクトならばそれくらいのことは容易にやってのけよう」


 私の言うことは善処するらしく、シロムは再び丸くなりはするが今度は私を見つめている。

 まだ話を聞いてあげよう、そんな視線を感じる。


「アーティファクトってそんなに凄いものなんだ?」


 なのでずっと気になっていたことを訊ねる。

 魔道具とアーティファクトの境界線がイマイチだからね。


「物によっては死者を蘇らせた、なんて言い伝えられている程だ」

「そっか、じゃあ──」

「ターシャを生き返らせようとなど考えない方が良いだろう。数百年前に亡くなったんだ、そんな人が生きていると分かれば世界の理が崩れ兼ねん」


 死者を蘇らせることが出来るのならばターシャさんを蘇らせることことも可能なはずだ。

 なのでシロムにそのことを伝えようとしたが見え透いた考えだったようでシロムにターシャさんを生き返らせることを止められてしまう。


「そういうものなのかな?」

「そういうものなんだ」


 まるで実体験でも言いたげなように真っ直ぐ真剣に私を見る眼は私を縦に首を振らせるように何かしらの魔法が掛かっているようにも思えた。


 それよりも明日からまた学園が始まるのでさっさとお風呂済まし、明日に備えて私たちは眠りについた。

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