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33. 迷いの森


 国墓ダンジョンを踏破した俺たちは、今度は迷いの森というフィールドに向かっていた。


「ここが迷いの森」

「うん、まあ」

「普通の森とは違うんですか?」

「それが、迷いやすい、らしい」

「そうですか」


 ハズキさんと漫才みたいな会話をする。

 別に抜けてるわけではなく、これは確認なのだ。


 少しジメジメしていて、鬱蒼としげった森はいささか不気味だ。

 この前の国墓ダンジョン前の森も少しだけ不思議な感じだったが、こっちのほうが不気味度は上かな。

 濃い色の葉っぱを茂らせた木々がぐわっと迫っている。

 地面には落ち葉が敷き詰められ、隙間からは草がたくさん生えていた。


「なんというか、ちょっと不気味」

「うん」


 ハズキさんが腕を胸の下で組む。

 肌寒いというか、悪寒がするというか、雰囲気の問題だとは思う。

 VRゲームはわりと気候に関して、温暖というか過ごしやすく設定されている。


「これは、薬草みたいだよ」

「ふむ」


 妹がその辺に生えてる草を取って、鑑定している。

 青い小さな花をつける特徴のある草だ。

 なるほど、こういう草が狙い目なのか。

 もしレア草だったらお金がたんまり貰える。


「ゴブリン!」

「お、おう」


 ゴブリンが出てきたので倒す。

 これくらいはだいぶ余裕だ。


「コボルトかな」

「よし、いくぞ」


 コボルトもそんなに強くない、犬顔の亜人だ。

 髪は青で背丈も比較して小さい。

 武器は槌を持っていることが多いようだ。

 服装は例によって腰ミノだ。


「ふぅ、倒した倒した」


 そんなこんなで迷いの森の攻略を進めていく。

 一度、街に戻ってきた。


「うぎゃあ」

「あああ……」


 マーケットを見ている人の何人かが絶望の表情を浮かべていた。


「どうしたん?」

「見てみればわかるぞ」

「お、おう」


 急いでマーケットを確認すると、あらまぁ。

 ゴブリン鉄が大暴落していたのだ。

 なるほど、メイン層がゴブリン狩りに到達したのだ。

 その圧倒的人数でゴブリンを狩り、ドロップを販売した。

 その結果、ゴブリン鉄が大暴落を始めたと。

 思ったより遅かったかな、というのが俺の印象だった。

 中には安いゴブリン鉄を買って高値で再販売するいわゆる、セドリ的行為をする人もいたので、長いこと値段が高かったのだが、それも限界に達したということだろう。


「俺たち、これからどうしたら」

「あーあ、仕込んでたのに、大損だ」


 何人かやらかしてしまったらしい。

 俺たちは普通にドロップを売っているだけなので、そういう損はしないのが楽なところだった。

 多くのプレイヤーもそうだろう。

 しかしドロップで生活している人はちょっと困るのだろうな。

 収入がこれから激減してしまうし。


「みんな、エールでも飲んで、一杯やろうぜ」

「ああ」


 このゲーム、お酒はあるのだけど酔うことができない。

 酔うのは脳へそういう働きかけが必要なのだが、フルダイブ装置のそこまでの干渉が許されていなかった。

 だから酔っぱらえないのだ。

 でも、ほら、そこは雰囲気の問題だから……。


「よし、みんな、酒場へいくぞ」

「あーいくか」

「おっし、たまには飲むぞ」

「酔えなんじゃあなぁ」

「そう言うなって、ノンアルもまぁ悪くないぞ、肉食え肉」

「そうだな、美味いもん食うのもいいな」


 大暴落事件はこうして一部の人の財産がごっそり減ったが、おおむね平和だった。

 俺たちは再び迷いの森へと戻る。


「ゴブリン、コボルト、それからグラスホッパー」

「うむ」


 グラスホッパーは要はバッタだ。

 五十センチクラスの緑か茶色のバッタだった。


「バッタさんだぁ」

「ハイジ、そんなに面白いか?」

「うん、こんなに大きい」

「まあ近所の空き地のバッタとかも好きだったもんな」

「そうだよぉ」


 これで食用になって美味しいとかなら、俺も興味があるが、そういうものでもない。

 いや、イナゴ食べる人はいるか? いやいやしかしな、こんなにデカいのは無理だろ。


 バッタをバッタバッタとなぎ倒していく。

 うっ……なんでもない。


「次は、お、新しいのだな」

「キラースパイダーですね」


 名前は頭の上に出ているので、それをハズキさんが読み上げてくれる。

 黒紫の一メートルほどの蜘蛛だ。

 殻はかなり堅そうで、これ、剣が効くのだろうか。

 木の上からスパイダーシルクで吊り下がっていて、上下反対になっていた。

 そして、やっかいなのが、俺たちの後ろ側に出てくる、つまり背後を狙ってくるところだった。

 そのため、暗殺者、キラーという名前がついているらしい。


「こいつ、倒すのか?」

「え、はい」


 まあ、やるしかあるまい。

 キラースパイダーに剣、そして火魔法で攻撃を加えていく。


「いえやー」

「えいっ」

「ファイアーアロー」


 命中はしているので、ちょっとずつHPが削れていく。

 キラースパイダーは木の上に登って、そしてまた違う場所から降りてくる。

 なかなか高機動で手ごわい。


「はぁはぁはぁ」

「なんとか、倒せました」


 それでも何回も攻撃を加えることで、倒すことができた。


 そしてまた次のキラースパイダーと戦闘を続ける。

 しかし今回はちょっと様子が違った。

 最後、倒してしまわず、俺たちはそのキラースパイダーを助けたのだ。


「だいぶダメージを受けています」

「これなら、テイムできるかもしれませんね」


 テイム可能のHP残量は数パーセント以内とけっこう厳しい。


「テイム!」


 とりあえずテイムと唱え、キラースパイダーの様子を見る。

 すると木から降りてきて、俺たちの前で座ったのだ。


「え、もしかして成功!」

「みたいですね」


 こうしてキラースパイダーのテイムに成功したのだ。


「お前はそうだな、クモクモね」


 ピピ!と応える。

 俺にネーミングセンスなどというものはない。


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