国墓ダンジョンを踏破した俺たちは、今度は迷いの森というフィールドに向かっていた。
「ここが迷いの森」
「うん、まあ」
「普通の森とは違うんですか?」
「それが、迷いやすい、らしい」
「そうですか」
ハズキさんと漫才みたいな会話をする。
別に抜けてるわけではなく、これは確認なのだ。
少しジメジメしていて、鬱蒼としげった森はいささか不気味だ。
この前の国墓ダンジョン前の森も少しだけ不思議な感じだったが、こっちのほうが不気味度は上かな。
濃い色の葉っぱを茂らせた木々がぐわっと迫っている。
地面には落ち葉が敷き詰められ、隙間からは草がたくさん生えていた。
「なんというか、ちょっと不気味」
「うん」
ハズキさんが腕を胸の下で組む。
肌寒いというか、悪寒がするというか、雰囲気の問題だとは思う。
VRゲームはわりと気候に関して、温暖というか過ごしやすく設定されている。
「これは、薬草みたいだよ」
「ふむ」
妹がその辺に生えてる草を取って、鑑定している。
青い小さな花をつける特徴のある草だ。
なるほど、こういう草が狙い目なのか。
もしレア草だったらお金がたんまり貰える。
「ゴブリン!」
「お、おう」
ゴブリンが出てきたので倒す。
これくらいはだいぶ余裕だ。
「コボルトかな」
「よし、いくぞ」
コボルトもそんなに強くない、犬顔の亜人だ。
髪は青で背丈も比較して小さい。
武器は槌を持っていることが多いようだ。
服装は例によって腰ミノだ。
「ふぅ、倒した倒した」
そんなこんなで迷いの森の攻略を進めていく。
一度、街に戻ってきた。
「うぎゃあ」
「あああ……」
マーケットを見ている人の何人かが絶望の表情を浮かべていた。
「どうしたん?」
「見てみればわかるぞ」
「お、おう」
急いでマーケットを確認すると、あらまぁ。
ゴブリン鉄が大暴落していたのだ。
なるほど、メイン層がゴブリン狩りに到達したのだ。
その圧倒的人数でゴブリンを狩り、ドロップを販売した。
その結果、ゴブリン鉄が大暴落を始めたと。
思ったより遅かったかな、というのが俺の印象だった。
中には安いゴブリン鉄を買って高値で再販売するいわゆる、セドリ的行為をする人もいたので、長いこと値段が高かったのだが、それも限界に達したということだろう。
「俺たち、これからどうしたら」
「あーあ、仕込んでたのに、大損だ」
何人かやらかしてしまったらしい。
俺たちは普通にドロップを売っているだけなので、そういう損はしないのが楽なところだった。
多くのプレイヤーもそうだろう。
しかしドロップで生活している人はちょっと困るのだろうな。
収入がこれから激減してしまうし。
「みんな、エールでも飲んで、一杯やろうぜ」
「ああ」
このゲーム、お酒はあるのだけど酔うことができない。
酔うのは脳へそういう働きかけが必要なのだが、フルダイブ装置のそこまでの干渉が許されていなかった。
だから酔っぱらえないのだ。
でも、ほら、そこは雰囲気の問題だから……。
「よし、みんな、酒場へいくぞ」
「あーいくか」
「おっし、たまには飲むぞ」
「酔えなんじゃあなぁ」
「そう言うなって、ノンアルもまぁ悪くないぞ、肉食え肉」
「そうだな、美味いもん食うのもいいな」
大暴落事件はこうして一部の人の財産がごっそり減ったが、おおむね平和だった。
俺たちは再び迷いの森へと戻る。
「ゴブリン、コボルト、それからグラスホッパー」
「うむ」
グラスホッパーは要はバッタだ。
五十センチクラスの緑か茶色のバッタだった。
「バッタさんだぁ」
「ハイジ、そんなに面白いか?」
「うん、こんなに大きい」
「まあ近所の空き地のバッタとかも好きだったもんな」
「そうだよぉ」
これで食用になって美味しいとかなら、俺も興味があるが、そういうものでもない。
いや、イナゴ食べる人はいるか? いやいやしかしな、こんなにデカいのは無理だろ。
バッタをバッタバッタとなぎ倒していく。
うっ……なんでもない。
「次は、お、新しいのだな」
「キラースパイダーですね」
名前は頭の上に出ているので、それをハズキさんが読み上げてくれる。
黒紫の一メートルほどの蜘蛛だ。
殻はかなり堅そうで、これ、剣が効くのだろうか。
木の上からスパイダーシルクで吊り下がっていて、上下反対になっていた。
そして、やっかいなのが、俺たちの後ろ側に出てくる、つまり背後を狙ってくるところだった。
そのため、暗殺者、キラーという名前がついているらしい。
「こいつ、倒すのか?」
「え、はい」
まあ、やるしかあるまい。
キラースパイダーに剣、そして火魔法で攻撃を加えていく。
「いえやー」
「えいっ」
「ファイアーアロー」
命中はしているので、ちょっとずつHPが削れていく。
キラースパイダーは木の上に登って、そしてまた違う場所から降りてくる。
なかなか高機動で手ごわい。
「はぁはぁはぁ」
「なんとか、倒せました」
それでも何回も攻撃を加えることで、倒すことができた。
そしてまた次のキラースパイダーと戦闘を続ける。
しかし今回はちょっと様子が違った。
最後、倒してしまわず、俺たちはそのキラースパイダーを助けたのだ。
「だいぶダメージを受けています」
「これなら、テイムできるかもしれませんね」
テイム可能のHP残量は数パーセント以内とけっこう厳しい。
「テイム!」
とりあえずテイムと唱え、キラースパイダーの様子を見る。
すると木から降りてきて、俺たちの前で座ったのだ。
「え、もしかして成功!」
「みたいですね」
こうしてキラースパイダーのテイムに成功したのだ。
「お前はそうだな、クモクモね」
ピピ!と応える。
俺にネーミングセンスなどというものはない。