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32. 国墓ダンジョン2


 妹は元気いっぱいだ。

 でも、実はちょっと怖がりで、カラ元気だったりするのだ。

 声が震えているし。

 アンデッドは俺たちみんな苦手である。


 こうしてスケルトン、またスケルトンと倒していく。


「お、今度はレイスだ」


 こちらの部屋はレイス部屋らしい。

 薄いワンピースの女の子型幽霊だ。

 半実体というのか、ホログラムみたいに透けて見える。

 もちろん手で触っても感触はないのだけど、なんとなく部屋がひんやりしていて怖いのだ。

 この感覚は実際に体験して見ないとわかりにくい。


 妹の火魔法で一網打尽にしていく。

 いてうれしい、魔法使いさんだ。

 剣で斬って歩くのもけっこう骨が折れる。

 なんたって近づくのも怖いしね。


 そんなこんなで、最終部屋らしいところまで到着した。


「この先、ドアが豪華だ」

「というか、普通の部屋にはドアがないしな」

「そういえば、そうだね」

「さすがウルさんです」

「まあ、一応ゲーム慣れしてるし」


 とはいえフルダイブVRゲームははじめてである。

 豪華に装飾が施されたドアを開けて中に入る。


 中はほとんど暗くて見えない。

 左右の壁に燭台が並んでいて、順番に点灯していく。

 青白い炎がついて、それに合わせて部屋もそれ以上に明るくなっていく。

 光源は謎だが、まあゲームだと思うしかない。


「こいつがボスか」


 奥の中央、玉座の前に直立して動かないマントを被ったスケルトンがいた。

 手には魔術師の杖を構えている。

 そして目に火が灯る。


 歩くのかと思ったが、浮いたまますーと部屋の中を移動していく。


「浮くのか」

「まあ幽霊に近いのかな」


 妹がなにやら考察しているが、それどころではない。

 青い炎の玉をときよりこちらに飛ばしてくる。

 これに当たったら燃えてしまいそうだ。


「くっ、頑張って避ける」

「やってる」

「ウルさん、がんば」


 なぜか俺が主に狙われているようだ。

 そして部屋の中を移動していたボスが風か何かでフードがめくれた。

 スカルがまるまる見える。

 その頭の上には王冠が乗っていた。


「やはり、スケルトンキングか」


 こいつがボスなのはほぼ確定だった。

 俺たちはさっきから避けてばかりで攻撃できていない。


「ファイアー」


 そこに妹が火魔法をこちらからも叩きつける。

 スケルトンキングはそれに反応して攻撃を一時やめて回避に入った。


「よし、今だ。ハズキさん」

「りょ」


 ハズキさんが一文字だけ返事をして俺と共につっこんでいく。

 ガキーン。

 ハズキさんの剣がスケルトンキングの杖と交差する。

 その間に俺は横から剣を叩きこんだ。


「ぐおおおおお」


 よくわからないが俺の剣が効いたらしく、スケルトンキングが咆哮する。

 咆哮は危険のシグナルのことがあるので、さっと俺たちは引いて回避のポーズをとる。


「なっ」


 地面に魔法陣が浮かび上がり、再び火魔法が三連射された。

 俺たちは頑張って避ける。

 はっきりいえば、根性である。根性で避ける。

 避けなきゃ火だるまだ。


「うおおお」

「ほいっとな」

「よっと」


 みんななんとか避け切った。

 その後も、妹の火魔法を叩きこんで、その隙に攻撃するというのを繰り返した。

 このパターンが決まったので、敵のHPバーがだんだん減っていく。

 よし、いける。


 攻撃が決まるたびに減っていくHPバーをにらみながら、その時が来るまで踏ん張った。

 そしてついに。

 ガガガガガガ。

 スケルトンキングが歯を鳴らして、バラバラに砕けて散らばっていく。


「倒した、のか」

「やりましたね!」

「勝利だもん!」


 三者三様の喜び方をして、みんなで手を上げる。


「ふふふ、勝ちましたね」


 そう、ボスドロップである。


「俺はブラックマントだった」

「そうですか」

「ほーん」


 ちょっと装備して見る。

 黒いマントだ。なんか悪役っぽそう。

 俺にはちょいと似合わないかもしれない。

 まあ悪役プレイも悪くはないが。


「お兄ちゃんの柄じゃないね」

「そういうなよ」

「だってそうじゃん」

「ぐぬぬ」


 俺もそう思うので、脱いでアイテムボックスにしまう。


「ふぅ、ということで、おつかれさん」

「戻りましょう」

「はーい」


 俺たちは国墓ダンジョンを抜けて王宮に戻って街へと帰っていった。


 そうそう、このブラックマント。

 なんか魔法防御力が異様に高くてですね。

 ブラックマントは普通の露店やマーケットではなく、オークションに持ち込んでみた。


 そうしたら、なんというか……。

 三人のユーザーが競りだして、あれよあれよと値段が上がっていき、かなりの高額を叩きだしてしまったのだ。

 みんなでその瞬間をドキドキしながら見ていたのだけど、かなり心臓に悪い。

 そうして、一躍話題になったマントは売られていった。


 さらば俺のブラックマント。

 代わりにお金をたんまりいただいた。


  ◇


 その次の日曜日の夜。


「いらっしゃいませ~」

「大人三人」

「はーい、大人三名様ですね、お席はこちらでよろしいですか?」

「いいよー」


 俺と母親、それから妹のハイジ改め、本名は光ちゃんを連れて焼肉食べ放題にやってきた。

 この前のブラックマントが一万円を超える値段で売れたためだった。

 自分で稼いだ金で食う焼肉は美味い。

 きっと違いない。


「お肉~お肉~」

「よし、今日は肉いっぱい食うぞ」

「おー」


 今回はプレミアムプランだ。いつも焼肉するならリーズナブルプランだもんな。

 俺と光でプレミアムプラン限定の和牛カルビを次々焼いていく。

 赤い牛肉がじゅーじゅーといい音を立てる。

 程よく焼けたら、食われる前にさっと取って食う。


「うま、うま」

「おいち! お兄ちゃん、ありがとう!」

「お、おう」

「いやぁ、マント売れてよかったよねー」

「だな」


 焼肉、ビバ焼肉。

 ゲームも充実して、リアルも充実してくると思うこともあるな。

 マントが競りで値段がどんどん上がっていくときは、心臓バクバクだったもんな。

 あれよあれよと倍の値段になって、あっという間だった。


 さてリアルでお肉も食べまくって英気を養った。

 今度はハズキさんも一緒にお誘いしたいところだ。


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