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第186話 新メンバー問題

 その後も、ギルド加入希望者と、面接という名の雑談を何度か繰り返したが――今の仲間達のように、このアナザーワールドの世界で「命を預けられる」と思えるほどの人には、結局出会えなかった。

 まぁ、当然といえば当然だろう。

 なにしろ、彼女達とは積み上げてきた時間も密度も違う。

 初対面の人に同じものを求めること自体、無茶な話だということもわかっている。

 結局のところ、「何も知らない人を、いきなりギルドに迎える」――その前提に、無理があったんだ。

 しかも、今回の配信をきっかけに興味を持ったような人たちばかりでは、なおさらだった。


 たとえば、シアやミネコさんがギルド加入を希望してくれたのなら――俺は迷わず二つ返事で受け入れただろう。

 でも同時に、彼女達は今いるギルドを、そう簡単には抜けないことも知っている。そんな人達だからこそ、仲間にしたいと思うのは、なんとも皮肉なものだが……。


 ――そんなこんなで、俺はみんなをいつも食堂の個室に呼び出した。


「今日は、ギルドの新メンバーについて話したくて集まってもらった」


 自然と口調が固くなる。

 重い話だと自分でも感じていた。


「いい人でも見つかったのか?」


 メイがどこか楽しげな顔でそんなことを言ってくる。

 彼女なりに新メンバーを楽しみにしていたのかもしれない。その期待に応えられないことが口惜しい。


「――いや、そうじゃないんだ。クマーヤのこの前の配信以降、ギルドマスターとして、この『三つ星食堂』への加入を希望するプレイヤーと話をしてきたんだけど――やっぱり、俺は安易にメンバーを増やしたくないと思ったんだ」


 ゆっくりと、けれど正直に話す。


「クマーヤ目当て、配信登録者数目当て……そんな人が多かったっていうのもあるけど――情けないことに、改めて考えると、俺はねーさんみたいに何十人ものメンバーを束ねられるような器じゃないってわかったんだ。クマサン、ミコトさん、メイ、この三人くらいなら、何かあってもすぐ駆けつけて、全力で守ることができる。でも、俺にできるのはせいぜいその人数くらいだ。下手にメンバーが増えたら――きっと俺の手から零れてしまう。だから、俺に大役を任せてくれたみんなには申し訳ないが、これからは新規加入の希望者が来ても、募集はしていないと言って断ろうと思う。いずれは、『ヘルアンドヘブン』や『異世界血盟軍』に対抗できるような大規模ギルドになることを期待していてくれたみんなには、すまないと思うが――これが今の俺の想いなんだ」


 話し終え、俺は一息つく。

 これが今の俺の飾らない本音だった。

 ギルマスとして、がっかりされたかもしれないが、これが今の俺の器だと思う。

 俺はつい伏していた顔を上げ、みんなの顔を見渡した。

 失望した顔が並んでいることを覚悟していたが――みんな、いつもの顔だった。それどころか、どこか嬉しそうにさえ見える。


「そんなことだろうと思ってたよ」


 さっき「いい人でも見つかったのか?」なんて言っていたメイが、口角を上げて、あっけらかんとした笑みを浮かべる。


「ショウさん、誰も『ヘルアンドヘブン』みたいな大規模ギルドになるなんて思ってませんよ。誰がそんなこと言ったんですか?」


 ミコトさんが冗談めかして笑う。

 ……確かに、よく考えたら誰もそんなことは言ってないし、望んでるなんてことも聞いたことがなかった。

 実はそんな理想を持っていたのは、むしろ俺の方だったのかもしれない。


「……ショウが俺達のことをどう思っているのかは、よくわかった」


 毛で表情の読み取りづらいクマサンは、どこか照れてるように見える。

 ……そういえば、勢いでいろいろなことを口走ったような気がするが、自分でも何を言ったのかあまり覚えていない。変なことを口走っていたらまずいが、今のクマサンを見る限り、そう心配することもなさそうだ。


「でも、みんな。だからといって、いつまでもこの四人だけのギルドでいいと思ってるわけじゃないんだ。知らない人をどんどん迎えるつもりはないけど……俺達が『この人と一緒に戦いたい』って思える相手がいたら、こっちから声をかけていくつもりだ。だから――もし、みんなにもそう思える人がいたら、ぜひ推薦してほしい」


 俺はゆっくりと、三人の顔を見渡す。

 この四人は、かけがえのない仲間達だ。みんなと一緒にいるのはとても心地いい。

 でも、だからといって「ここで終わり」だとは思わない。

 少しずつ、広げていけばいい。

 やがていつか――ねーさん達とも渡り合えるようなギルドに。


「わかった」

「はい。いい人がいたら推薦しますね」

「了解。……まぁ、私はずっとこの四人でもいいけどな」


 三人の笑顔に、胸がいっぱいになる。

 ――この仲間達となら、どこまでだって歩いていける。そう思えた。



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