挨拶を済ませた後、私は今朝のニュースのことを矢島と話すことにした。もちろん、ランチタイムの仕込みがあるので、作業をしながらになる。
「さっき、近所の全国チェーンの店長をやっている人と立ち話をしてきたよ。どこも大変だという生の声を自分の耳で聞くと、ちょっと気持ちも変わるよね。どこも大変な思いをしているというのなら、俺の場合、だから頑張ろうという気になった。さっき矢島君が言ったように、朝の時点では気持ちが少し凹んでいた。でもここで同じように落ち込んでいたら、そこから這い上がれない。みんな今、底にいる。同じように蠢いているだけでは抜け出せないと思う。ただ、今何ができるかといってもアイデアはないが、まず気持ちだけは腐らせないように思った。矢島君は人の顔色を眺める余裕があるようだから、それなりに思いがあるのだろうけど、君の将来の夢と合わせ、強い気持ちで何とか乗り切ろう」
抽象論で、しかも精神論だけではあったが、今後のことも合わせ、解除後にどうするか、ということも話せればと、ということで今日の営業が終わった後、少し残ってもらってミーティングの時間を設けることになった。
その時、矢島のほうから2号店の店長とチーフの中村も呼んだらどうか、という話が出た。以前、ランチタイム企画の時にも同じような感じで進めたので、そのほうがみんなの気持ちが一つになるのでは、ということだった。
今の時期、営業時間の短縮が要請されているので、いつもよりさらに1時間早め、午後7時閉店ということで1号店に集まってもらうようにした。
ただ、私たちは1号店なので時間は大丈夫だが、2号店から来るとなると、少し時間が遅くなる。だから、実際には午後7時半以降からのスタートになるわけだが、問題はない。
そう決まったら私はすぐに2号店に電話をした。電話に出たのは美津子だった。予定外の電話だったことに少し驚いた感じだったが、話を聞くとすぐに納得した。2号店もランチタイムの準備中だったので、短い電話ではあったが、話し込むようなことではなく連絡だけだったので、仕事への支障はなかった。
「中村君、今、1号店から電話があったけれど、今日の夜、何か用はある?」
受話器を置いた後、美津子が中村に尋ねた。
「ありませんが、何か?」
「デートの誘いじゃないわよ。今日、1時間早仕舞いし、1号店で今後のことについてミーティングをしようということになったの。それで確認したんだけど、いい?」
美津子はちょっと笑いながら尋ねた。中村はそのセリフに少し照れたような表情をしたが、内容は今の時期必要なことだし、二つ返事で了承した。