次の日のランチタイム前、予定通り壁にこれからのランチ企画についての告知を貼り出した。
相沢はこの日もランチタイムに顔を出したが、時間は12時50分くらいだった。ランチも一段落した頃だったが、昨日話した手前、新企画の様子が気になったのだろう。この日は他の客もいたので、来店時に話をすることはできなかったが、相沢は店内を見渡し、テーブルの埋まり具合などを見ていた。
オーダーはこの日も日替わりだったが、小鉢については複数から選べるということで、昨日とは異なったものを注文した。夜のメニューでいつも相沢がオーダーする煮込みだが、よほど気に入っているようだ。ランチのプラス一品がいつも酒の肴にしているものになるとは思っていなかったが、そういうことなら昨日、煮込みを出せば良かったと思った。
「すみません、昨日は配慮が足りませんでした」
私は料理をテーブルに運んだ時、相沢に謝罪した。
「いやいや、かえって俺の方こそ昨日は気を遣ってもらい、すまなかったね」
逆に少し恐縮している様子だったが、他の客もいるのでこれくらいしか言えなかった。
相沢が食べ終わった時、ランチのために来店していた客は全員帰っていた。以前なら、この後からも少し来店があったのだが、宣言解除初日だからといってもすぐに元通りというわけにはいかないのだろう。私は食べ終わったタイミングを見計らい、水を注ぎに相沢のところに行った。その時、相沢が私に言った。
「昨日の今日だけど、ランチ、どうだった?」
店のことを心配して、相沢が尋ねた。あえて遅めに来店したのは様子を尋ねたいという思いがあったのだろうが、そういったちょっとした配慮が嬉しい。
「はい、今日解除ということですから、実際にお越しになったお客様は昨日までと同じでした。でも、新企画については評判が良く、それぞれの好みに合わせたチョイスをされていました。今は無料にて提供させていただいていますが、告知期間が終わり、有料になった時にどうなるか、というところですね」
私は今日の様子を伝え、1週間後の懸念についても話した。
「店長、自分の店の味に自信を持ちなさい。もちろん、お客様の財布の事情はあるけれど、ランチ用の小鉢については少し価格を下げるということだよね。他の店のランチの価格と比べ、その数字を上乗せしても高いとは思わないし、それで自分の好きなおかずを並べてランチを楽しむ、ということを希望するお客様もいる。お客様すべてに満足していただくということはできないので、自分が自信を持っているところについては無理のない範囲できちんと主張し、それを個性としていったほうが良いと思うよ。商売には差別化というところが必要だし、それによって夜の部とは異なったファンが増えるかもしれない。コロナの関係で読めないところあるけれど、自分が信じた方針は貫いたほうが良い。もちろん、無理と思ったら方針転換する勇気も必要だけどね。俺も夜だけでなくランチにも時々顔を出すから、また話ししてよ」
思わぬ相沢の提案に驚いたが、こういった方をランチでも増やしていけば良いのか、ということを改めて思った。相沢の今までの経験をうまく活かせれば、これまでマイナスだった分を取り戻せる、そういった思いが強くなっていた。