数日後の新企画スタート初日、私は今回のことが実際にはどれくらいの反響になるのだろうと思っていた。ランチタイム企画についても、スタート時には期待と不安を抱えながらだったが、今回もそれに近かった。この企画は少しでも売り上げアップにつながれば、と思ってスタートしたわけだが、それによって実質値上げと受け取られ、客足にマイナスに作用することを懸念していたのだ。
だから、スタート時の来店の状況の含め、オーダーの様子に注意を払っていた。
サイドメニューの場合、夜の部でも出しているものばかりなので、仕込みのところで少し多めに用意することで用は足りる。あとは客の好みとなるが、あらかじめメインのメニューにセットになっているものではなく、自分の好きなものをチョイスできる、というところにオーダーのしやすさがあると考えていた。
それが当たったのか分からないが、思った以上にサイドメニューをオーダーする人がいた。価格帯としては150円と200円台が多かったが、これなら合計しても1000円を超えない。そういうつもりで考えたわけだが、一定のラインを超えないという微妙な設定も良かったかもしれない。もちろん、選んだメニューによっては合計1000円を超えるような場合もあるが、いずれも夜の部の単品メニューよりは安く設定している。量的に調整していることもあるが、お得感を出すためにはそういった見えない部分でのコントロールも必要になる。そういった心理的なことが幸いしたのかこの日のピークタイムは6割以上がサイドメニューまで注文していた。
午後1時を15分くらい過ぎた時、相沢が来店した。これまでのことから、新企画が気になったのだろう。私が水を持ってテーブルに行った時、さっそくその話が出た。
「店長、どうだった? 新企画の手応えは」
相沢は心配と興味が入り混じったような不思議な表情だったが、目はまじめだった。
「ありがとうございます。まだランチタイムは終わっていませんが、ピークタイムの様子を見ていると6割以上のお客様がサイドメニューまでオーダーしていただきました。男性・女性で傾向が分かれたのはお試し期間中と同じでしたが、売り上げアップに貢献できるような結果になったと思います。まだお客様の絶対数はあまり変わっていませんが、こんな感じであれば、以前のような流れになることで必ずプラスに作用する、という期待を感じました。もっとも、実質的に今日がスタートなので今後は未定ですが、少なくとも良いスタートだったと思います。いつもご心配いただいて恐縮です」
私は相沢に深々とお辞儀をし、謝意を示した。
「いやいや、俺はこの店のファンなので、気になるのは当然だし、この味なら、という思いがある。だから、コロナの騒動が終われば、これまでの盛況が取り戻せると思うよ。ということで、今日は日替わりとサイドメニューは本日の魚の生姜煮にしようか」
「ありがとうございます。少々お待ちください」
私すぐに厨房にオーダーを通した。