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第二十二話 最強と最狂 Ⅲ

「うわぁ!」


 先を急ぐレイが声を出して壁に寄りかかった。カルナック達の戦闘により洞窟全体が揺れていた、階段を下りているレイ達四人もその振動を受け体のバランスを崩す。揺れが収まることは無くひどくなる一方だった。


「なんっつぅ戦いだ、こんなの人間同士の戦いじゃねぇぞ!」


 その後ろ、アデルも流石に経験した事の無いコレを異常事態だと予想する。あの時、無策に飛び掛かったはいいが相手が本気で殺しに来ていたら今頃自分はどうなっていたのか、考えるだけでも冷汗が流れる。


「剣聖と互角に戦える人間がいるなんて聞いてねぇぞ!」


 文句を言ったのはガズルだ、彼もまたこの振動で足元を掬われて転びそうになっている。初めてカルナックと出会った時の印象から先ほどの彼を同一人物と認識することに抵抗を感じていた。いつも沈着冷静なカルナックが殺意を剝き出しにし感情に任せて刃を振るう姿を見た事が無かったからだ。


「エレヴァファル・アグレメントだ、昔カルナックのオジキと一緒に四竜を討伐した仲間の一人だ。話だけは聞いたことがあったがカルナックと交流を持つ奴ってのは大体化け物ぞろいだなまったくよ!」


 一番後ろにでしりもちを付いているギズーが喚く、彼等四人は揃ってこの振動の中動くに動けずにいた。一刻も早くレイヴン達の後を追わなければならないのだがこの揺れの中階段を下れというのが無茶な話である。


「四の五の言っても仕方ない、みんな一気に下るよ」


 先頭にいたレイが三人に呼び掛ける。するとこの揺れの中足元の階段を蹴って一気に下り始めた。一段一段降りていては確実に追いつくことが出来ないと悟ったレイは先の見えない下り階段を飛び降りる様に飛んだ。それに続いて残りの三人も同様に飛ぶ、そうやって四人は一気に階段を下りきると明かりが見えてきた。その明かり目がけて最後の跳躍を四人はした。

 階段を下りきるとそこは空間が広がっていた。二十メートル程の段差がありその下には平な地面が広がりその向こうは更に崖になっている。その崖の手前に人影が二つ見えた。レイヴンとシトラだった。最終階層に降り立った彼等はすぐさま異常を感じた。先ほどまで寒いほどの温度だったがここだけなぜか以上に熱い。その正体は直ぐに分かった、溶岩だ。崖の奥から溶岩が噴き出している。真っ赤に焼ける岩石が解けてどろどろの溶岩を作り出している。まさに地獄のような場所だった。あまりの暑さに四人の額からは汗が噴き出している。


「レイヴンっ!」


 アデルが叫んだ、その叫び声は空間の中で反響しレイヴンの耳へと届く。気が付いたレイヴンとシトラは振り返ると不敵な笑みを浮かべてこちらを見た。


「意外と早かったじゃないかアデル君、シトラから話は聞いているよ。剣聖結界を取得できたんだってね」


 細い目が静かに開くと何とも冷たく冷酷な視線が彼等四人を襲う。思わず竦んでしまいそうな視線だった。その隣でシトラも笑顔でこちらを見つめている。二人は互いに自分の獲物を幻聖石から取り出すとそれを四人へと向ける。次にレイヴンとシトラはそれぞれ剣聖結界を発動させ、レイヴンは炎、シトラは氷が足元から広がる。


「しかし一足遅かったですね、まもなく瑠璃は姿を現し私達の物になる!」


 叫ぶレイヴンの後ろで噴き出した溶岩は天井にまで登り、ゆっくりと落ちていく。その中、ひと際輝きを放つ巨大な宝石が姿を現した。不気味に光り輝く巨大な宝石、神苑の瑠璃だった。


「これが神苑の瑠璃、『幻魔宝珠げんまほうじゅ』! なんと素晴らしい輝きだ!」


 その宝石はレイヴンとシトラ二人の間に下りてくると再び怪しい輝きを放つ、レイ達四人は一瞬で感じ取った。その感じた事の無い変質なエレメントを。いや、エレメントと呼べるものなのか。そして彼らは察する、この宝石を巡る戦いが始まると。

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