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第三十話 消えた巨人と消失の謎 Ⅲ

 その日、朝の騒がしさ以外特に目立った出来事は起きなかった。

 街の中では住民全員の持ち物検査等が行われたがやはり誰も怪しい物は持っていなかった。もちろん外部からの侵入者等も記録には無い。夕暮れ時になりFOS軍のアジトでは翌日出発するための荷造りが着々と行われていた。 


「そういえば、おやっさんと会うのもアレ以来になるのか」


 アデルが部屋の中で適当に詰めた荷物と格闘しながらボソッと呟く、相部屋のガズルは荷造りを終えて一服をしている。椅子に腰かけてコーヒーを飲みながら愛用の煙草に火をつけている。


「あぁ、もうそんなになるのか。結構近く何だけどな剣聖の家……いや、今は剣老院か」

「近くって言っても徒歩で丸二日だ、遠いと言えば遠いさ」

「でも今回の移動はどうすんだ? あの貧乳達も一緒なんだしそこまでスピードもだせねぇだろ? またスカイワーズ使うとか言い出すんじゃねぇだろうな俺達のリーダーは」


 半年前に初めて乗ったスカイワーズ、登場分配の配慮に欠けていた当時の事を思い出してガズルは拒絶反応を起こす。点火ブースターの二段使用だけでガズルのエーテルはほぼ底をつきかけていたのだ。


「今回は俺にしがみ付いてればいいさ、ブースター点火時のエーテル消費でその日まともに動けなくなるようじゃまだまだだぜ?」

「馬鹿野郎、何が悲しくてお前アデルに長時間もしがみ付いてなくちゃいけねぇんだよ。俺はお前と違ってホモじゃねぇぞ」

「誰がホモだよ誰が!」

「お前だよこのホモ野郎!」


 二人の会話は隣の部屋にまで聞こえる程大声だった、右隣の部屋にいるギズーは二人の痴話喧嘩に苛立ちテーブルに置いてあるシフトパーソルに手を伸ばそうとしたが、そのすぐ隣で紅茶を飲んでいるレイに止められた。


「手ぇ退かせレイ、一発ぶっ放してやらにゃウザったらしくて仕方ねぇ」

「まぁまぁ……喧嘩するほど仲が良いっていうじゃないかギズー。どうせ何時もの事なんだから直ぐに収まるだろうさ、何をずっとカリカリしてるんだよ」

「イライラもするわ、俺はまだ認めた訳じゃねぇからな。テメェがあいつ等の肩持つって言うから大人しくしてんだ」

「大人しくしてるっていう割には僕に銃口向けたよね?」


 レイは苦笑いしながら昨日の事を思い出しながらギズーを少しだけ責める、本人もまた痛い所を突かれて気まずそうに視線をそらした。そしてシフトパーソルから手を放して近くのティーカップを取った。


「悪かったよ……俺もあん時は頭に血が上ってて」

「大丈夫だよ、アレだってギズーなりに僕達の事を守ろうとした結果だろ? それぐらい分かってる」

「……っち」


 レイにはきちんと分かっていた、不器用な性格なりにギズーが自分達の事を必死に守ろうとした結論があの行動だという事を。確かに昨日の事を考えれば分からんでもない気がする。突然現れた身元も不明な人間があれほどの戦闘力を持ち合わせている、これが自分達の敵だとしたら? 真っ先にその考えが浮かんだギズーの行動だ。特にギズーはレイの事となると判断力が鈍ってしまう。唯一の親友であり、初めて自分の事を認めてくれた仲間だからだ。


「それより、移動はどうすんだ? あいつらのいう通りスカイワーズでも使うつもりか?」

「いや、今回はスカイワーズを使うつもりは無いよ。そもそも台数が圧倒的に足りない。仮に一台につき二人搭乗したとしてもあるのは三機だけだし、七人も乗れないよ」


 アデル達の考えは隣の部屋で直ぐに否定されてしまった、だがその言葉が彼等の元へと届くことは無い。今もずっと二人の罵倒が続いていてこちらの声は耳に入っていないだろう。それ故にギズーの苛立ちは引く事無く継続している訳だが……レイの顔を立てるつもりで今もまだ堪えて居る。本当は今すぐにでも壁越しにシフトパーソルをぶっ放したいだろうに。


「んじゃぁどうすんだ? 馬も今は居ねぇし走っていくってのか?」

「まさか、そんな疲れる事しないよ。今回ばかりは名案があるんだ」


 ニッコリと笑うとレイは口元にティーカップを運んで一口啜った。

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