目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

雪原

 剣を仕舞い、安堵するマルクエン。奥にあった扉が左右に開き、階段が待っている。


「それじゃ、行きましょうか」


 スタスタと歩くラミッタ。先程まで偽物の自分がやらかした事を考えないようにしていた。


 お互い会話もなく階段を登ると、次の扉が目の前に現れる。


 マルクエンが押し開けると、現れたのは、室内とは到底思えないような景色だった。


「何だこれは!?」


 広がるのは、辺り一面の銀世界。雪原だ。


「どうなってんのよこれ……」


 扉の前でも寒さが身に染みる。この中を歩いていけと言うことなのだろうかと、マルクエンはため息を付いた。


「私は、寒いのは苦手なのだがな……」


「私だって嫌よ!!」


 ラミッタは軽装備なので余計に寒いだろう。マルクエンは身を案じる。


「その格好じゃ寒いだろうな。どうする? 引き返すか?」


「これぐらい、魔法で断熱するわ。平気よ」


 そう言って歩みを進めるラミッタ。マルクエンも後を付いていく。


 薄っすらと見える道を30分ぐらい歩いただろうか、一向にたどり着く様子はない。


「あっ、あれっ!?」


 ラミッタが突然声を出す。


「どうしたんだラミッタ?」


「断熱の魔法が出来ない……。っていうか、魔法が使えないわ!!」


「何だって!?」


 驚くマルクエン。


「流石は試練の塔って所かしらね?」


 ラミッタは強がるが、寒そうだ。


「大丈夫かラミッタ?」


「平気よ」


 そんな会話をしていると、天候が崩れ、吹雪き始めてきた。


「これは……。まずいな……」


 いよいよ引き返すかと思っていた矢先、小さな山小屋が視界に入る。


「ラミッタ!! あそこに小屋があるぞ!!」


「罠かもしれないわよ?」


「中には私が入って確認してみる。この寒さじゃ先に体がまいってしまう」


 マルクエンは小屋の扉に手を伸ばした。鍵は掛かっていない。


 一通り山小屋の確認をするが、罠らしいものはない。


「ラミッター!! 大丈夫そうだ!!」


 外で待つラミッタは山小屋に駆け込んで扉を閉めた。


「うー、さぶさぶさぶー……」


 中で震えるラミッタに、マルクエンは1枚だけあった毛布を掛けた。


「何のつもり?」


「いや、ちょうど毛布があったからな」


「アンタはどうするの?」


「ラミッタは毛布にくるまっていてくれ、私は良いものを見つけた」


 マルクエンが見つけたのは、水と食料。薪木だ。


「ねぇ、都合が良すぎないかしら?」


 疑いの目を向けるラミッタにマルクエンは答える。


「試練の塔だから、命を奪うってわけではないのだろう」


「そういうモンかしらねぇ……」


 マルクエンは火打ち石を使って木くずを燃やし、たきぎに火を移した。


 赤く揺らめく炎と、熱が安心感を与えてくれる。


「後は私がやるわ、おぼっちゃまの騎士様に料理なんて……」


 そう言って立ち上がろうとするラミッタをマルクエンは制した。


「大丈夫だ!! 任せろ!!」


「任せろって……」


 火の近くで毛布に包まり凍えるラミッタは不安そうだ。


 マルクエンは鍋にナイフで細かく刻んだ干し肉と、にんにく、生姜。じゃがいもや大根、人参といった根菜を入れて、煮込み始めた。


 しばらくすると、いい匂いが山小屋の中に充満する。


「よし!! こんなもんか!!」


 マルクエンはスープを取り分けて、ラミッタに渡す。


「これって……」


「初めてラミッタの手料理を食べた時のスープに似ているな」


「やっぱり出来すぎよこんな展開!!」


「まぁ、良いじゃないか。食べよう」


 マルクエンはイタダキマスと言ってスープを口に運ぶ。ラミッタも同じ様に口をつけた。


「どうだ、味は? 中々じゃないか?」


「……、おいしい」


 ラミッタがボソッと言い、マルクエンは喜ぶ。


見様見真似みようみまねで覚えていたんだ」


「どんだけ私のこと見てるのよ、ド変態卑猥野郎」


 スープの優しい味と暖かさが寒い体に染み渡る。


「……、ありがと」


「ん? 何か言ったか?」


「べ、別に!!」


 ラミッタがふと、また呟く。


「アンタは寒くないの?」


「大丈夫だ!!」


「嘘ばっかり、震えているわよ」


 火のお陰で少しは暖かいが、まだ十分ではない。


「毛布、入る?」


 目を伏せながらラミッタが言う。大きめの毛布なので2人で入るには十分だろう。


「いや、えっと、嫌じゃないのかラミッタ?」


「何よ!! アンタこそ嫌なの!?」


「いや、嫌ではないが……」


 何故だか少しドキドキするマルクエン。


「雪中でこういう時は体で温め合うって、軍で習わなかったのかしら? これは……。そう!! 緊急事態だから!!」


「なら、仕方がないな。分かった」


 ラミッタの隣に座り、毛布に入ると、ラミッタの体温の温かさが伝わってくる。


「これで大丈夫か? ラミッタ」


「ん……」


 毛布で顔を隠すラミッタ。マルクエンはそうだと思い出した。


「しまった、こういう時寝たら死ぬんだったな!! まずいぞラミッタ!!」


「騒がしいわね……」


「何か寝ないようにしなくては……」


「話でもしてれば寝ないでしょ」


 それもそうかとマルクエンは何か話題を考える。


「そうだな、この世界に来て色々あったな」


「なにそれ、走馬灯みたいで縁起でもないわね」


「まぁ、そう言うな。それじゃこの世界に来る前の事でも話すか?」


「この世界に来る前……」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?