「いや、まぁ、確かに、ちょっとはそうかもしれませんが、人は中身ですよ!! アイツはとんでもないド変態卑猥野郎で!!」
「そうかしら? マルクエンさんって優しくて誠実そうに思えるけど?」
ニヤニヤと笑うアレラを見て、嫌いではないが苦手なタイプだと思ったラミッタ。
「そ、それはそう見せかけているだけで、心は野獣みたいなもんですよ!?」
「あら、男性は皆そんな所あるわよ? マルクエンさんに優しくされた事は無いのかしら?」
そう言われ、ラミッタは少し旅を思い返す。真っ先に思い浮かんだのは、直近の山小屋で起こったことだ。
「い、いや、その……」
「ふふ、まぁいいわ。これから長い旅になるでしょうし、後で教えて貰うことにするわ。イジワルしちゃってごめんなさいね」
やっぱりイジワルだったのかとラミッタは少々ムッとしていた。
男部屋では、マスカルがマルクエンに話しかける。
「マルクエンさん。単刀直入にお伺いしたいのですが、ラミッタさんの事をどう思っていますか?」
問われてマルクエンは目を泳がせた。
「ら、ラミッタですか……」
うーんと考えて答える。
「そうですね……。出会いは戦場でしたが、その時から『別の形で会っていれば良き友になれたろう』と思っていました。今では仲間だと、勝手に思っています」
「そうでしたか」
うんうんと頷いてマスカルは話を聞いてくれた。
「つまり……。つまりはその、お二人はただのお友達、と言うことで良いのですね?」
「えっ? まぁ、はい」
マルクエンの言葉を聞いてマスカルは胸を撫で下ろす。
「聞けてよかった……」
頭の中にクエスチョンマークが浮かぶマルクエン。剣士のゴーダはため息を付いていた。
次の日の朝。ライオの街を十分見物し終わる前にマルクエン達は出発となる。
ホテルのロビーで集合し、預けた馬車に乗り込んで街を出た。
「アムールトまではここから3日です」
馬車を運転している剣士のゴーダが珍しく言葉を口にする。
その日は延々と馬車に揺られ、夕暮れ近くになってきたので野営の準備を始めた。
マスカル達が用意したテントの設営をマルクエンは手伝う。
「それじゃゴーダ。今日も美味しいお料理よろしくね?」
アレラの言葉にマルクエンは驚く。料理当番は、なんとゴーダらしい。ラミッタは自分も手伝おうかと声を掛けた。
「私も手伝いましょうか?」
「いえ、お任せ下さい」
口数の少ない彼は、見事な包丁さばきで野菜を切り、手際よくスープを作る。
「お待たせしました」
そう言ってゴーダは盛り付けた料理を皆に配った。
「ありがとうございます」
受け取ってまじまじと料理を見てみるマルクエン。いい香りが立ち上るスープとパン。それに、こんがりと焼けた大きなウィンナーが3本。
「美味しそうですね、イタダキマス」
全員に料理が行き渡ってから、マルクエンはスープを掬って口をつける。
「むっ、美味しいです!!」
「どうも」
マルクエンの言葉にゴーダは短く礼を言う。
「ほんと、美味しい……」
ラミッタも思わず言葉を漏らした。
「ゴーダの料理はいつも美味しいわねー」
ふふっと笑ってウィンナーを噛じるアレラ。
「お料理はいつもゴーダさんがしているのですか?」
食事をしながらマルクエンはゴーダに話しかける。
「いえ、アレラと交代で、ですね」
「私も、お料理は作れるんですよ?」
アレラがニコニコと言うので、マルクエンは関心した。
「そうなのですか、私は料理が全然出来ないので尊敬しますよ」
言われてアレラはクスクスと笑う。
「それじゃ、今度ご一緒に作りませんか?」
「良いのですか!? 是非教えてください!!」
勇者チームに溶け込み始めているマルクエン。ラミッタは何だかちょっとした疎外感を感じながら美味い料理を食べていた。
「今までの旅ではラミッタさんがお料理を?」
「えぇ、まぁ」
マスカルが話を振るとラミッタは短く話を返す。
その後も他愛のない話をして、夜は
「本当に見張りは必要ないのですか?」
寝る支度をしながらマルクエンが尋ねると、アレラが答えた。
「えぇ、魔物避けの結界は張ってありますし、万が一半径50メートル以内に人や魔物が来たら音が鳴り響きます」
「便利ですね……」
火の始末をしてそれぞれ男女別にテントへ入る。マルクエンは寝袋に入るとあっという間に眠ってしまった。
次の日の夜。今日はアレラが張り切っている。
「それじゃ、今日は私とマルクエンさんで作るわー」
「よろしくお願いします!」
ニコニコ笑顔のアレラとマルクエン。ラミッタは脳天気なマルクエンを見てはぁっとため息を漏らす。
「じゃあマルクエンさん。野菜の皮むきをお願いしますね」
「任せて下さい!」
人参やらじゃがいもの皮むきをするマルクエン。刃物の扱いは慣れているのか、中々上手に剥けていた。
「あら、マルクエンさんお上手!」
「ありがとうございます」
照れながら笑うマルクエン。そのまま野菜の炒め方や煮込む順序を教わる。
「はい、私とマルクエンさんの合作料理です」
野菜が不揃いではあったが、中々に美味い料理にラミッタは悔しがっていた。
(イラスト:夜桜みる先生)