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第14話

「えーっと、害獣除け、害獣除け……まずは農業魔法の棚からかな」


作物を守る結界とか、その辺があるかもしれない。

それから魔法薬学。匂いで追い払う忌避剤とかはたぶんここ。

あとは魔獣生態の辺かな。大蝙蝠の行動パターンが分かれば、丁度いい手段が打てる。

裏を返せば、行動パターンを読んでおかないと、二度手間三度手間になる可能性が高い。


害獣除け結界。応用編か。なるほど。

猪系に鹿系、狸系……鳥……蝙蝠は鳥か?獣か?

あ、普通に蝙蝠系であった。よかった。


ふうん。結界のカタチ自体はともかく、編む魔法が結構違うんだ。なるほど。

せっかくだから全系統覚えておこう。何かの役に立つでしょ。

……害獣除けに竜系まであるの!?

ドラゴンって畑襲うの?! てか、それは討伐とかそっちの方じゃないのか??

ま、まあ、いいや。覚えておくに越したことは無い。いずれ戦う相手だし。

害獣に分類されてるのはびっくりしたけども。


「あ、そっか。竜は竜でも眷属か。トカゲの大きいのとか、飛竜の小さいのとか、蝙蝠に近いか。そうかそうか」


知識パラメーターがガンガン上がる。これはいい。楽しいし。

鼻歌を歌いそうなくらいに機嫌よく調べものをしていたら、生物学のモランデル先生に褒められた。


「良く学んでいますね。なにか助言できることはあるかな?」

「ありがとうございます、モランデル先生。実は大蝙蝠対策について調べているのですが、このほかに学んでおいた方が良い分野はありますか?」

「大蝙蝠……なるほど。大体網羅してありますね。良いと思います。個人的には広域魔法の応用編を推薦しておこうかな」

「広域魔法ですか。……そうですね。なるほど。ありがとうございます。参考になります」


モランデル先生はにこにこと髭を引っ張る。


「熱心なのは良いことです。頑張りなさい」

「はい!」

「ロゼッタ・クラヴィス」

「はい、モランデル先生」

「君は学ぶことが好きですか?」


私は満面の笑みで応える。


「はい!とても!」

「……よろしい」


ぴろりん、と好感度が上がった音がした。

先生たちにも好感度レベルあったっけ?隠しパラメーターかな?


呪い関係の書籍もちょっと関係するっぽくて、禁書ギリギリのものをちょっと覗いてみた。

魔力汚染の項目に、ヴェリタス公爵家の名があって、どきりとする。

セラフィナ様の家系、ヴェリタスにまつわる話。


そう。セラフィナ様は最終局面で、ロゼッタに呪いを掛ける。

それは血の誓約が関係してて、特定の血族で無いと使えない呪いだ。

……ゲームだと、ロゼッタがセラフィナ様を追い詰める一手になる、知識。

持っておかないと、生死に関わる。

わかってるけど、ちょっと、辛いな。


思い出さないようにしていたなんてことは無いんだけど、やっぱり無意識で遠ざけていたかもしれない。

ロゼッタとセラフィナ様は対立関係にある。

わかってるけど、キツイ。




はい。落ち込むのここまで。

気分替えろ。落ち込んでてもステータスは上がらない。

あがるんならいくらだって落ち込むけども。

忍耐レベルとか上がればいいのに。そんなパラメーターないけど。


知識としては仕入れたから、あとは実践レベルを上げるための訓練を積んで。

調薬室で忌避剤も調合してみないとな。

最初から良いものはできないだろうから、材料は多めに仕入れて……と。


購買で基礎的な材料は買えるが、幾つかは植物園で調達しないといけないな。

薬草学のアンブロス先生か、ハルツハイム先輩が居ないと困る。

勝手に採る訳にはいかないだろう。それは泥棒だ。

ゲームだと会話して、選択して、貰うっていう簡単な手順なんだけど……ちなみに無料。


「ハルツハイム先輩!」

「クラヴィス嬢。ごきげんよう、今日は何が入用かな?」


カサンドラ・ハルツハイムは薬効植物研究部の部長で、先生にも一目置かれている才媛だ。

既に何度かお世話になっている。


「ラズリミントとウルフィナ花、レインスビルム苔を分けて頂きたいのですが」

「ふぅん、ふむふむ。大蝙蝠除けの香灰かな?」

「流石先輩。ご名答です」

「伊達に部長では無いからね。君なら心配無いだろうけど、一応予備も持って行きたまえよ。何事も予測不能なことは起こるものだ」

「ご配慮痛み入ります」


深々と礼。本当に、本っ当に、助かるんだ。

ありがとう先輩!!


次は調薬室。

イェルク・バッハマン先輩が居る。これは絶対居る。ゲームだと生息場所が調薬室だもん。


「バッハマン先輩、いらっしゃいますか」

「いらっしゃいますよ~。どうぞ、クラヴィス嬢。今日は何を作られるのですか~?ふふふ」


この人は本当になんというか、調薬を愛してる人で、何を聞いても先生レベルで答が返って来る凄い人だ。


「今日は大蝙蝠除けの香灰を作ってみたいと思いまして」

「なるほどなるほど。ですが初心者には少々難敵ですね~。まあ、見ててあげますから、まずはやってごらんなさいな」

「はい!宜しくお願いします!」


火と風の魔法で乾燥させたラズリミントの葉を、同じく乾燥させたレインスビルム苔の粉末と混ぜる。この辺は乳鉢でごりごりしちゃえばいいので、とにかく丁寧に潰す。

ウルフィナ花は花弁を一枚一枚剥いで、その上に先程混ぜた粉末を乗せて、巻く。

仕上げに水魔法と土魔法を掛けて……。


「――できあがりました、が……」

「んー。四〇点。初めてにしては良い出来です。はいもう一度」

「はぁい」


それを何度か繰り返し。


「できたっ」

「うん。良い出来です。これなら売り物になりますね。どうします?買い取りましょうか?」

「いいえ、これはこれから必要なので、今回は」

「そうですか。大蝙蝠相手に大立ち回りの予定ですか。頑張ってくださいね~」


バレてる。

ロゼッタ・クラヴィスがアルバイトに精を出しているのは、今や公然の秘密のようなものだ。

いや、別に全然まったく秘密にしてるわけじゃないんだけど。

クラヴィス家、没落してるからなあ、と生温かい目で見られるのがちょっと、アレなだけで。

うん。がんばる。お金貯める。


そんなこんなで、バートラムが呼びに来るまで、ずっと。

私はパラメーター上げとアイテム作りに勤しんでいた。

超楽しい。


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