「お前、俺が待ってること完全に忘れてただろ」
「……面目ない」
バートラムは苦笑を失敗して笑い出してしまった。
「否定しとけよ、一応」
すみません、本当。いや、忘れてたわけじゃないんだけどね。
ちょっと頭の隅っこに言っちゃってたって言うかね?
ごめん。本当は忘れてた。
楽しくパラメータ上げに勤しんでました。
「で、どうなんだよ首尾は」
「上々ですとも! えっとですね――」
「お前、本当優等生なのな。普通ここまでやらないぞ」
「いやでも、纏めて置いた方がわかりやすいですし、ミスも少なくできると思うんですよ」
「それはそう。でも面倒だろ。普通はやらない。偉いな、お前」
「お褒め頂き恐悦至極」
バートラムはまた笑った。
さておき、作戦立てないとね。
「――というわけでして、まずは住処から追い出さないといけないと思うんですよね。次いで忌避剤とか使用して、戻って来るのを阻害すると」
「王道だな。ていうか他に無いだろ。全滅させるとか流石に後味悪いし」
「いや、大量殺戮はちょっと……」
「お前の氷結呪文ぶっ放せば全滅できそうだけど」
「すごい簡単に言ってくれますねえ?」
「いやでも、広域魔法でイケるだろ。ここ」
書いてあるところを指先でトントンと叩いて、バートラムは頷く。
「
「あー、氷結じゃなく、吹雪くらいに威力落して、広範囲で押し出すように?」
押し出す仕草をしつつ、バートラムは頷いた。
「そうそう。で、後ろからどんどん追い掛けて」
「押し出し押し出し。範囲外に出たら防御結界張って」
「トドメに忌避剤
私はしばらく考えて、頷く。
「良いと思います。早速行ってみます?」
乗り気な私に、バートラムは苦笑した。苦笑ばっかりさせてるな、私。
「さすがにアイテム足りないだろ。忌避剤とか」
「作り置きありますけど」
先程作った忌避剤を取り出してみせる。
バートラムの顔が歪んだ。あら、面白い顔。
「お前この短時間でそんだけ作ったのか?! 何なんだお前!!」
「学年首席の特待生です」
「……程度問題って知ってるか?」
「やだなあ、バートラム。そんな褒めないでくださいよ」
「誉めてねえよ、呆れてんだよ」
バートラムと漫才するの楽しいな。いかんいかん。
ロゼッタはそんな女の子じゃないんだ。もっと健気で可愛いんだ。軌道修正しなきゃ。
「ともかく」
両手をぱんと打って、強引に話しを進める。
「材料もあるし、大蝙蝠の活動時間にはまだ間に合います。私たちの気合も充分。――ということは?」
バートラムは苦笑しつつ頷いた。
「善は急げ」
「それです」
指を立て、頷いて。
大蝙蝠駆除へ、一路。
とはならなかった。
私のお腹が鳴ったのだ……。お昼忘れてた。チェックミス。
バートラムが忌避剤分ということでサンドイッチをおごってくれた。
ついでに冷たい飲物も。
「遠慮なく頂きます」
「食べろ食べろ。へたばってられたら俺も困る」
「ですね。すみません」
「慌てて食べるなよ。のどに詰まる」
そして。腹ごなしに一仕事。
と簡単に言っているけど、実際そんなに簡単でも無かった。
さすがに数が多い。
追い出しても追い出しても湧いて出る。
頭に来て、一回氷結強力バージョンぶちかましたので、バートラムが凍る所だった。
さすがに怒られた。
当たり前ですごめん。
駆除し終えてわかったことだけど、ここ、呪いが関係してるわ。
バートラムが、結構深刻そうな顔して、ぶつぶつ調べてた。
「血統魔術の
血統魔術っていうのは、その家系というか血統に、代々受け継がれる術式なのね。
有名どころだと、レティシア王家の光魔法なんだけど。
他の貴族も薄まりつつも、何だかんだ継承しているところが多い。
知らずに継いでて、でも何代も発現しないで、突然発現した末裔がびっくりするっていう事態も、時々起こる。
「なんだってこんな場所にヴェリタス公爵家の痕跡が」
思わずびくりと反応してしまった。
ヴェリタス公爵家といえば、当然のこと、セラフィナ様のご実家であられる。
私がすごい反応をしたからだろう。バートラムが顔を引き攣らせた。
「どういうことですか」
「いや、近い近い! 落ち着け! セラフィナ嬢がどうとかじゃない!」
思わず胸倉掴み上げる勢いだった。ちょっと落ち着こう。
でもどういうことなのよ。
「ヴェリタス家の血族魔法
私は思いっ切り眉を寄せてしまった。
ヴェリタス公爵家
これ、伏線だ。
たぶん、どうにかするとセラフィナ様に繋がって、彼女を悪役令嬢たらしめる、
私がいち早く察知して、握り潰すのが最上の策。でも――
ロゼッタが下手に首突っ込んで、
なり兼ねないんだよね。主人公補正は大きいから。
でも、バートラムが調査した結果、ヴェリタス公爵家に関係する物証が出て来て、アルバート様から王家に情報が流れるのは、困る。
ヴェリタス公爵家が、あるいはセラフィナ様が断罪されてしまう。
公爵家に類が及ばないように、セラフィナ様を敢えて人柱に立てて――って線も、考えたくはないけど、成立しないことはない。
バートラムと協力してこの謎を追うと、たぶんバートラムルートが確定してしまう。
それは困る。
難しい顔をしていたんだろう。バートラムが軽く頭の上で手を弾ませて。
ぽんぽんと、優しく叩いてくれる。
「たぶん大したこと無いから、安心しろ。顛末は教えてやるから」
「――わかりました」
勿論、自分でも手を尽くすけども、まずはパラメーターが足りないと、何もできないどころか事態を悪化させるっていうね!
仕方ないから、とにかくこの夏休みは何が何でもパラ上げるぞ。