目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第15話

「お前、俺が待ってること完全に忘れてただろ」

「……面目ない」


 バートラムは苦笑を失敗して笑い出してしまった。


「否定しとけよ、一応」


 すみません、本当。いや、忘れてたわけじゃないんだけどね。

 ちょっと頭の隅っこに言っちゃってたって言うかね?


 ごめん。本当は忘れてた。

 楽しくパラメータ上げに勤しんでました。


「で、どうなんだよ首尾は」

「上々ですとも! えっとですね――」


 大蝙蝠オオコウモリについてまとめたノートを得意げに見せると、バートラムは、今度こそ苦笑した。


「お前、本当優等生なのな。普通ここまでやらないぞ」

「いやでも、纏めて置いた方がわかりやすいですし、ミスも少なくできると思うんですよ」


「それはそう。でも面倒だろ。普通はやらない。偉いな、お前」

「お褒め頂き恐悦至極」


 バートラムはまた笑った。

 さておき、作戦立てないとね。


「――というわけでして、まずは住処から追い出さないといけないと思うんですよね。次いで忌避剤とか使用して、戻って来るのを阻害すると」

「王道だな。ていうか他に無いだろ。全滅させるとか流石に後味悪いし」


「いや、大量殺戮はちょっと……」

「お前の氷結呪文ぶっ放せば全滅できそうだけど」


「すごい簡単に言ってくれますねえ?」

「いやでも、広域魔法でイケるだろ。ここ」


 書いてあるところを指先でトントンと叩いて、バートラムは頷く。


殲滅せんめつじゃなくてさ。流石にマズいぞぐらいのレベルに落としてさ」

「あー、氷結じゃなく、吹雪くらいに威力落して、広範囲で押し出すように?」


 押し出す仕草をしつつ、バートラムは頷いた。


「そうそう。で、後ろからどんどん追い掛けて」

「押し出し押し出し。範囲外に出たら防御結界張って」


「トドメに忌避剤いとけば完璧じゃないか?」


 私はしばらく考えて、頷く。


「良いと思います。早速行ってみます?」


 乗り気な私に、バートラムは苦笑した。苦笑ばっかりさせてるな、私。


「さすがにアイテム足りないだろ。忌避剤とか」

「作り置きありますけど」


 先程作った忌避剤を取り出してみせる。

 バートラムの顔が歪んだ。あら、面白い顔。


「お前この短時間でそんだけ作ったのか?! 何なんだお前!!」

「学年首席の特待生です」


「……程度問題って知ってるか?」

「やだなあ、バートラム。そんな褒めないでくださいよ」


「誉めてねえよ、呆れてんだよ」


 バートラムと漫才するの楽しいな。いかんいかん。

 ロゼッタはそんな女の子じゃないんだ。もっと健気で可愛いんだ。軌道修正しなきゃ。


「ともかく」


 両手をぱんと打って、強引に話しを進める。


「材料もあるし、大蝙蝠の活動時間にはまだ間に合います。私たちの気合も充分。――ということは?」


 バートラムは苦笑しつつ頷いた。

「善は急げ」

「それです」


 指を立て、頷いて。

 大蝙蝠駆除へ、一路。


 とはならなかった。

 私のお腹が鳴ったのだ……。お昼忘れてた。チェックミス。


 バートラムが忌避剤分ということでサンドイッチをおごってくれた。

 ついでに冷たい飲物も。


「遠慮なく頂きます」

「食べろ食べろ。へたばってられたら俺も困る」


「ですね。すみません」

「慌てて食べるなよ。のどに詰まる」




 そして。腹ごなしに一仕事。

 と簡単に言っているけど、実際そんなに簡単でも無かった。

 さすがに数が多い。

 追い出しても追い出しても湧いて出る。

 頭に来て、一回氷結強力バージョンぶちかましたので、バートラムが凍る所だった。


 さすがに怒られた。

 当たり前ですごめん。


 駆除し終えてわかったことだけど、ここ、呪いが関係してるわ。

 バートラムが、結構深刻そうな顔して、ぶつぶつ調べてた。


「血統魔術のたぐいだな」


 血統魔術っていうのは、その家系というか血統に、代々受け継がれる術式なのね。

 有名どころだと、レティシア王家の光魔法なんだけど。

 他の貴族も薄まりつつも、何だかんだ継承しているところが多い。

 知らずに継いでて、でも何代も発現しないで、突然発現した末裔がびっくりするっていう事態も、時々起こる。


「なんだってこんな場所にヴェリタス公爵家の痕跡が」


 思わずびくりと反応してしまった。

 ヴェリタス公爵家といえば、当然のこと、セラフィナ様のご実家であられる。

 私がすごい反応をしたからだろう。バートラムが顔を引き攣らせた。


「どういうことですか」

「いや、近い近い! 落ち着け! セラフィナ嬢がどうとかじゃない!」


 思わず胸倉掴み上げる勢いだった。ちょっと落ち着こう。

 でもどういうことなのよ。


「ヴェリタス家の血族魔法所縁ゆかりの呪いが掛かってるんだよ。それを守らせるために大蝙蝠オオコウモリが居たって言うか、近寄らないようにさせていたって言うか……いや、わからないけど。まだこの段階じゃ、俺から言えることは無い」


 私は思いっ切り眉を寄せてしまった。

 ヴェリタス公爵家所縁ゆかり――血縁の者――の仕業かもしれない

 これ、伏線だ。

 たぶん、どうにかするとセラフィナ様に繋がって、彼女を悪役令嬢たらしめる、が出て来る。

 私がいち早く察知して、握り潰すのが最上の策。でも――

 ロゼッタが下手に首突っ込んで、大事おおごとに拡大させてしまうのだけは、困る。

 なり兼ねないんだよね。主人公補正は大きいから。


 でも、バートラムが調査した結果、ヴェリタス公爵家に関係する物証が出て来て、アルバート様から王家に情報が流れるのは、困る。

 ヴェリタス公爵家が、あるいはセラフィナ様が断罪されてしまう。

 公爵家に類が及ばないように、セラフィナ様を敢えて人柱に立てて――って線も、考えたくはないけど、成立しないことはない。


 バートラムと協力してこの謎を追うと、たぶんバートラムルートが確定してしまう。

 それは困る。


 難しい顔をしていたんだろう。バートラムが軽く頭の上で手を弾ませて。

 ぽんぽんと、優しく叩いてくれる。


「たぶん大したこと無いから、安心しろ。顛末は教えてやるから」

「――わかりました」


 勿論、自分でも手を尽くすけども、まずはパラメーターが足りないと、何もできないどころか事態を悪化させるっていうね!

 仕方ないから、とにかくこの夏休みは何が何でもパラ上げるぞ。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?