目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第14話 没落令嬢と【無限工房】


「ドクター、リーズを連れてきたよー! いるんでしょ!」


アジトの中はどこまで行ってもまっくらで、キュウのライトがなければ歩くこともおぼつかなかった。

どうやらブレーカーから落とされていたようで、道中見えたトビラに触ってみたもののウンともスンともいいやしない。


これが人為的なもので。

引き起こした本人はこの最奥で私の到着を待っているんだからたちが悪い。

つまるところ、カンペキに警戒されてるってことだ。


「……当たり前か」


純朴なキュウですらはっきり人間嫌いだと紹介するような人だ。

少なくともサプライズパーティーなんて、おちゃめな考えはないだろう。


その上で工房まで来いというのだから、その工房にはよほど自信があるらしい。

なら見せてもらおうじゃない。

すべての【生産道具】を扱える人間の工房ってやつを!


「ほーっほっほっほっほ! 案内ご苦労じゃったキュービック!」


キュウが呼んでからややあって、フロア全体に笑い声が響き渡る。

スピーカーから流れたのと同じ……ドクターのものだ。


「【オートマチック】、オン!」


声に合わせバチン、バチンとなにかのスイッチが入っていく。

すると部屋の四方から光が伸び、奥の一か所へ集約されていった。


いくつものライトを重ねて照らすそこはライブステージ──などではなく、例えば建物の工事現場で組まれているような仮設の足場キャットウォークだ。

そんな華やかさからはかけ離れた場所に、声の主は居た。


ゴーグルにでっかい鷲鼻、全体的にでっぷりとした体形。

見ようによっては身体を膨らせたフクロウにも思える、なんともひょうきんないでたちのおじいさん。


「貴方がドクター?」


「おういかにも! ワシこそが希代の天才科学者、ドクター・カリオストロである!」


どう考えてもアニメや特撮で聞くような名乗り口上をしつつ、ドクター・カリオストロは更に高笑いをあげる。


……うーん、ファラもかくやのコッテコテさだ。

悪役キャラってどうしてこうもわかりやすいのが多いんだろう。


「さてリーズ! ここに来るまでの間に少々調べたがな、貴様地上でずいぶんヤンチャしたようじゃのう! 騎士どもがお前の手配書をバラまいておったわ!」


「げ……!?」


「ほほほ! あの騎士めらは自分たちの面子メンツをたいそう大事にしよるからのう! ヨソ者に噛みつかれたのがよほど気に食わなかったとみえる!」


横のキュウと目が合った。

あぶない、こっちに転がり込んで正解だった!

くっそうあの騎士め、特権階級だと言わんばかりに好き放題しやがって……!


「だがワシらは違うぞ! 実力と理解力さえあれば是非は問わんし、必要な道具があるならそろえてやる!」


「……大きく出るじゃない」


「そりゃ、それだけの用意がここにはあるからのう……散れい!」


パキン!

言いながらドクターは指を鳴らす。

すると彼に集まっていたライトがばらばらに散り、この空間全体を駆け巡りだした!


「さあ見せてやろうぞ、偉大なる先人の大傑作を!」


ところ狭しと動き回るライトを目で追うと、チラチラと見えてくる。

太いパイプとかベルトコンベアとかケーブルとかそんな、機械の部品たちが。


……ちょっとまって?

知らない知らない、そんなものは。

私が知ってる限りの【生産道具】に、そんなパーツを持つものはない。


「……こりゃマズい、かな?」


頭によぎったのはここに来るまでに感じたイヤな雰囲気だ。

まるで自分を引き入れたいかのように置かれていた布石の数々……あれらが全部つながってきた。


甘かった……ちょっと匿ってもらって、ほとぼりが冷めてから何食わぬ顔で戻ってこよう、くらいに思っていたのに。


もしも、今ちらちらと見えているこれが工房なのなら。

私はもう、戻れないところまで来てしまっている!


「ライトアップ!」


ドクターの一声でライトたちはその動きを止めた。

そして部屋の照明が一斉に点灯し、その全容があらわになる。


「これは……!」


「どうだ驚いたか? 驚いたろ? 驚いたと言え! これがワシら【フクロウの一族】の遺産、すべての生産道具の力を備えし【無限工房】アタノールである!」


【錬金釜】はもちろん【裁縫道具】【金床】【フラスコ】──。

思いつく限りすべての【生産道具】がベルトコンベアやパイプといった機械のパーツで大型化、連結されている……!


更に目をひくのはドクターの隣。

彼が立つ仮設の足場が囲んでいるのは球体を中心にいくつもの輪が回転している、天球儀みたいな装置。

ふもとからそれぞれの【生産道具】へ伸びているコードと、手前にあるコンソールっぽい台座を合わせて、いかにもあそこから指令を出して動かしますってカンジだ。


おいおいおい……!

仮にも中世がベースの世界に、どうしてこんなものがあるのよ!

こんなの、工房なんて範疇に収まるものじゃない──!


工場だ……。

いち個人の意思で動かせる工場が、いま目の前にある!!


「すごい……!」


すごく……欲しい!

心の底からすこぶる欲しい!


だってそうでしょう!?

これを好きに使えたら、いったいどれだけのお金が稼げることか!

こんな世界の経済なんか、簡単に粉砕できるわよ!


「ほ、ほーっほっほっほ! なんか目が怖いが、この素晴らしさをわかっていただけたようで何より!」


そんな私に何を見たのか。

ドクターは若干引き気味ながらすっかりご満悦なよう。


「それじゃあ──」


「しか~し! この【無限工房】アタノールは世界唯一のモノ、ヘタに触られて、アクシデントなぞ起こされたらたまったものではない! スキに機能を使いたければワシに貴様の価値を見出させることじゃ……いいな!」


ちっ。


「はーい」


「いまなんか舌打ちしなかったか? まあいい──キュービック! 貴様はしばらくリーズについて回れ! 何かあったら逐一報告じゃ、いいな!?」


「アイアイ、ドクター!」


監視付きか。

いいわよ、やったろうじゃない。


「それじゃリーズ! まずはここを案内するね!」


「……ちょっと待った! 先にお休みしたいんだけどいいかしら?」


さっそくとばかりに、見学ツアーを始めようとしたキュウを手で制す。


このフォークロア・クエストとやら、一筋縄じゃいかない。

おおよその筋書きはタイトルに抜擢されている【無限工房】アタノールの謎に迫るお話なのだろうけど……。


紐解くカギになるだろう【キカイ】だの【フクロウの一族】は不明なところが多い。

掲示板やサイトでそれらしいところがないか、少し調べてしまいたいところだ。


「……そっか。なら仮眠ルームに案内するよ、休むのにおあつらえ向きだよ」


「ありがと」


ただでさえ先の見えないクエスト。

このまま続けてしっちゃかめっちゃかにしたらマズいからね。

余裕のあるうちにまとめてしまおう。


何もかもぜーんぶ解き明かして、この【無限工房】アタノールを手に入るんだもの、失敗なんてできないからね。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?