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第13話 没落令嬢と地下の底


「ぎゃあああああああ!」



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フォークロア・クエスト

【無限工房のフォークロア Chapter.1】

が発生しました。


このクエストは強制的に開始されます。


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悲鳴を上げてる真っ最中、毎度おなじみスケスケウインドウが現れた!


「──って、読んでるヒマないでしょバカーーッ!!」


落とされた穴の中はすがすがしいくらいに垂直だ!

命綱なし、ハシゴなし、途中から滑り台みたくなってるとかそんな優しさも一切なし!

お先まっくら、奈落の底までまっさかさま!


「うわーーーーん!」


ちくしょー、何が入り口よあのじじい(推定)!

これじゃあただの即死トラップじゃない!

こっちの言い分を聞き入れたふうだったのは、全部演技だったのね!


いいわよそっちがその気なら……!

キュウの手前で荒事とかしたくなかったけど、責任問題ケジメ責任問題ケジメ

老人だからっていたわってもらえると思うなよ!


とにかく、まずは生きてここを抜けなきゃだ!

持ってるもの、使えそうなもの……何でも使って落下を止めなきゃ!

例えば、例えばそうだなあ──。


「ぶつかる寸前に衝撃で相殺できたりしないかな!?」


やってみよう!

とにかく【ブリッツ】を撃ちまくって──!

そうして杖を呼び出して下へと構えた時、ふと違和感。


「……?」


……落下速度が、だんだん遅くなってるような。


この縦穴を作り上げている壁の溝。

視界でとらえたそれが、ゆっくりと上へあがっていったのがみえて。

そうやって周りから情報が入るようになると、違和感の答えもわかった。


「キュウ!」


穴に落とされる直前、何のつもりか背中に飛びついたキュウ。

その彼が背中のジェットと足のバーニアを稼働させ、私の落下速度を和らげていたのである。


「まったくもー、連れていくって言ったじゃんか!」


「あ、あはは……」


……ああ、そうだ。

こいつ、私よりずっと強いんだった。

私を持ち上げてそのまま下りるくらい、ワケないのか。


「このまま降りるからね、急に暴れたりしないでよ?」


「はーーい……」


迫る身の危険なんて初めからなかったんだと気づいた私は。

恥ずかし紛れに、さっき表示されたウィンドウを読みこむことにしたのだった。



「はーいっ、と! とーちゃーく!」


そこからややあって、穴の底へと無事に到着したらしい。

することもなくなって運搬される荷物ゴッコを始めた私を優しく地面へ降ろしたあと、軽く離れてからキュウも着地。

ホバリングの風圧で、砂か何かが軽く舞い上がった。


「ここがオイラたちのすみかだよ、オイラはいつもここから飛んで外に出てるんだ」


「ここが……って」


なんてキュウは言うけれど……うん、なーんも見えない。

前後左右、何だったら通ってきた穴すらまったくもって見えない。

そんなまっくらな中で、ゲームとして配慮したつもりなのかキュウの姿だけはっきり見える……そんな状態だ。

そりゃあ地下のさらに奥深く、光なんて届いてるはずないけどさ。


「ちょっとキュウ、明かりとかないの?」


「あれー? おっかしいなあ……ドクター!? リーズを連れてきたよー!? 明かりをつけてよー!」


キュウも困惑気味なあたり、いつもとは違う状態らしい。

けれど声を張り上げてもナシのつぶて、返事ひとつかえってこない。

やがて諦めがついたか、ため息ひとつで肩をすくめながらこっちに向き直った。


「ドクターったら、きっと奥のほうで待ち構えてるんだ──ヒトを工房に入れるのじたいはじめてだから」


「そんなサプライズパーティーじゃないんだから……! こんなに暗いんじゃあ移動もおぼつかないわ、カンテラのひとつでも準備しとけばよかった」


「だいじょーぶ、まかせて!」


キュウはそういうなりいち、にい、さん、と数をかぞえながら腕を回し始める。

ゆっくり大きく、ブンブンと。

まるで準備運動のようなそれを、じゅうと数えるまで続け、目を閉じた。


「せーのっ!」


次に見開いた瞬間、キュウの両目が点灯!

光源としてはちょっと心細いけど、夜の道程度の明るさになったのである。


「へへへ、すごいでしょ! 腕をブンブン回すと電気が出るんだよ!」


「うお、まぶしっ」


「あ、ごめん……うーん、目と連動しているからやっぱりやりずらいなあ」


それをそのままこっちに向けるものだから、光をもろに受けることになった。


なるほど【発電機構】。

ステータスを眺めてた時はなんのこっちゃと思ってたけど、原理的には手回し式……アンティークの発電機か。

コイルの中で磁石を回すことで電気を作り出すアレが、キュウの両肩には仕込まれているんでしょう。


それにしてもアンティーク機器、か。


「なつかしいわね……」


「へ?」


「知り合いにね、機械を集めるのが好きな人がいたのよ。ちょうどキュウのそれみたいなタイプもあったなあって、思っちゃってさ」


「へえ……! その人もドクターみたいに、機械を作る人だったりするの?」


「まあ、ね」


「へえー!」


どちらかというとその人の……パパの領分はプログラミングとか、データ作成の方面だけれど、まあ外見か中身かの差だし似たようなもんでしょう。


「それよりも早くいきましょ、その手回し……もとい腕回し発電機能、あんまり長くやってられないでしょ?」


「あ……! そうだった、オーバーヒートしちゃう前にドクターのところへ行かないと! こっちだよ!」


いや、結構危ないな!?



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