『あー、あーっマイクテス、マイクテス……』
無限に続くかと思っていた地下水道。
案内役をかって出たキュウに導かれるままつき当たりに差し掛かったところで、とつぜんノイズ交じりの声が響きだした。
「ドクターの声だ……!」
いかにもマッドサイエンティストですってカンジのする、しわがれたおじいさんの声が一帯に響く。
どこからこんな音がするのやらと目を向ければ、左右それぞれのカドに小さい三角形の何かがぶら下がっていて、そこから出てるようだった。
……まるで、というかもろにスピーカーだ。
『キュービック! 貴様どこへ行っておった!』
「あ……! ごめんドクター、オイラお金を稼ごうとおもって街に」
『このデリケートな時に街じゃと~!? 騎士どもに見つかりでもしたらどうするんじゃ貴様ッ!』
「ひ、ひええっ……! ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」
『おまけにヘンな奴まで連れてきおってからに……そいつは何者じゃ、答えい!』
ヘンな奴とはご挨拶ね……。
ドクターと呼ばれた声の主はどうにもご立腹な様子。
このやり取りからして何も言わずに外へ飛び出したんだろうから、さもありなんだ。
けれどこのまま、子供を叱る親めいた図を眺めているだけというのも、あまりいい気はしないので──しょうがない、助けてやるか。
「ふえ、リーズ?」
『あん!?』
おびえるキュウの前にでて、注意を向けさせる。
そしてキュウの方には目くばせをしてやって、また1歩前へ出た。
『なんじゃ小娘……ワシはそこなキュービックに聞いてるんじゃ、後にせんか!』
さて、問題はこのドクターだ。
こんなダンジョンに居を構える、ヘンクツな犯罪者のおじいさん。
ヘタなことをすれば、即座にたたき出されて孤立無援のできあがりだ。
となれば──まずは彼をなだめつつ、こっちのペースに引き込んでやらなきゃだ。
いきなりのヘンな奴よばわりでちょっとムカッときたけど、そこは抑えて。
久々のアレ、やってみようか。
「お初にお目にかかります、ドクター……私の名はリーズ、街の一角で工房を構え【錬金術師】として活動している者です」
必殺・猫かぶりモード~式典仕様~。
パーティや発表会の席でパパに恥をかかせないよう作り上げた必殺のムーブだ。
これなら間違っても神経を逆なですることはあるまい……!
『ほう、【錬金術師】か』
よーし、食いついた!
『ではのう【錬金術師】、貴様なぜワシの助手であるキュービックを伴ってここに来た? ワシやこいつがどういう謂れをされておるか、知らんわけでもあるまい』
「それは……」
困ってるキュウに付き合ってたら巻き込まれました。
──なーんて言えれば楽なんだけども。
「……!!」
ちらとキュウの方をみやると、小刻みに首を振っていた。
しかたない、その辺りはボカしといてあげよう。
「
嘘は言ってない。
私は騎士だけじゃなく廃人どもからも追われてるからね。
この際だし、一緒くたにしてしまおう。
「キュービックは言っておりました。この街の地下に、世の全ての生産技術をおさめたスゴい人がいると」
『ほう』
「……若輩者ですが私とて【錬金術師】、ひとたびそんなことを聞けば好奇心に駆られるというものです、ですので案内してもらいました」
「そ、そうなんだ!」
言い終えるが早いかってところで、キュウも話題に入ってきた。
「リーズはスゴい【錬金術師】だよ! 突然とんでもないことするけど……きっとドクターの役にも立つと思う! だから匿ってあげようよ、オイラからも頼むよ!」
キュウの援護……援護?も入るのは予想外だったのか。
『そうか──お前がそういうのであれば、そうなのだろうな』
ほんの少しだけの沈黙の後、そんな声が漏れた。
『面白い! いいだろう、貴様の好奇心とやらとキュービックを信じて、しばらくの間我が工房に匿ってやろう!』
「ホント!? ありがと──」
『ただし! ワシは何もせん奴を匿ってやるほどおヒマちゃんでも余裕のヨッちゃんでもない! ワシの為に役に立ってもらうぞ、いいな?』
「……はぁい」
……流石に悠々自適にとはいかないか。
けれどもろもろの問題はこれで大丈夫そうだ。
『さあてそうと決まれば、じゃ──キュービック、お客さんを連れてきておやりなさい!』
「アイアイ、ドクター!」
「おわっ!?」
ドクターにふたつ返事で返したキュウは、そのまま私の背に飛びついた。
「ちょっとキュウ、いきなりなにするのよ!」
「えへへ、ちょっとね」
ちょっとって……!
断りもなく女の子に抱き着いたらふつう怒られるからね!?
「だいたい、入口ってこの辺なんじゃないの? そうじゃなきゃ、これみよがしにスピーカーを置いておく意味が分からないし……」
ぴったりと引っ付いて離れないキュウを振り落とそうとしつつ、あたりを見回す。
……それらしいところは1つもない。どういうこと?
そう首をかしげたところで、スピーカーからけたたましく笑い声が流れてきた。
『あ~ほ~! このワシがわかりやすい入り口をわざわざつくるかい、正解はここじゃ──【オートマチック】・オン!』
がぱっ。
「え」
スピーカーからしわがれた声が下水道に響いたかと思えば、急な浮遊感が足元からやってきて──。
「ええええええええええ!?」
──突然開いた床から、私は更に下へと落ちていったのでした……。
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フォークロア・クエスト
【無限工房のフォークロア Chapter.1】
が発生しました。
このクエストは強制的に開始されます。
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