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第11話 没落令嬢と地下水道



【毛細地下水道】。

かつて水路として使われていた街の地下部分に、後からモンスターたちが住みつく形で生まれたダンジョン。

長らく放置された結果、ほとんどの通路が浸水と泥でドブまみれになっており、移動しづらいことこの上ない。


「ヒヒヒヒヒヒヒ!」


そこに現れるは【ゴ-スト】をはじめとする幽霊のモンスターたち……!

それらに目をつむれるならなるほど、隠れ家を構えるには最適の場所だ!


「【ブリッツ】【ブリッツ】【ブリッツ】【ブリッツ】【ブリッツ】!」


私?

私はよゆーよ、ダテに火山のダンジョンを突破しちゃあいないわよ。

ドブに足をとられても、弾幕を張ってればいいんだから楽なもんだわ。


「ヒヒヒヒヒ!」


とはいえ地VSたい空、自由に飛び回る幽霊にはロクに当たらないけれど……。


それでいい。

せいぜい、悪目立ちした私を狙ってくれればいい。


「キュウ、任せた!」


「【インターセプト】!」


私は所詮おとりだから!

敵・味方の間に割って入る【インターセプト】のスキルで飛び込んできたのは、感情豊かな小悪魔風【キカイ】、キュービック!


「ヒ!?」


持ち味は背中のジェットによる空中機動と、鋼鉄のボディによる防御力だ。

その硬さたるや、振り下ろされた斧を軽々受け止めてしまうほど。


「どっりゃあああ!」


そんな【キカイ】特有のギミックは反撃でも役に立つ。

斧を押しのけてがら空きになったところへ──ジェットの勢いを乗せたサマーソルトを叩き込む!


「ヒ、ヒ~~」


がら空きだったアゴを思い切り蹴り上げられた人形の幽霊は天井に叩きつけられ。

……そのままポリゴンに分解されてかき消えたとさ。



━━━━━━━YOU WIN!━━━━━━━


モンスターの討伐成功!


EXPを120獲得!


レベルが25にアップ!


ステータスポイント5を獲得!


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





と、まあ。

根本から素直で純朴な彼は、いうことめっちゃ聞いてくれる上にバトルもすごく強い。

俗にいう、お助けNPCってやつなのだろう。


それはまあわかる。

ここまでの運びからして、騎士団を敵に回すくらいの悪党ロールをしなきゃ仲間にならないのだ、そのくらいじゃなきゃやってられない。


……のだけど、やっぱり釈然としないことがある。


「ステータス、キュービックの能力を開示」



〜〜〜〜〜〜NPC Status〜〜〜〜〜〜〜


キュービック


 レベル:47

 Next……13255exp


 種族:【キカイ】

 属性:雷


スタイル

【用心棒】


スキル

チャージ インパクト ブリッツ スパーク バリアント

鋼鉄ボディ 発電機構 ブロッキング インターセプト

魔導の才覚・雷

〜〜〜〜〜〜〜〜〜~~〜〜〜〜〜〜〜〜



ひたひたと湿った道を歩くさなか、キュービックのステータスを開いてため息をつく。

仮にも火山でドラゴンを倒したはずの私が、こんな小さい子にレベルでボロ負けしてるのはいかがなものか?


「そういうモンなのかな……」


「?」


物事がすべて数字で現れるという無常さ。

それを仕方ないじゃん、と言い聞かせる私に何を思ったか、キュウは首をかしげる。


「…………。」


ステータスからなにから──この子はだいぶトンチキな存在だ。


【キカイ】って、言っちゃえばロボットのことだと思うんだけど、どうにも感情が豊かよねえこの子……気になっちゃうな。


「オイラが感情豊かな理由?」


というわけで聞いてみることにした。


「そ、私の知ってる機械ってやつはもっと事務的で、泣いたり笑ったりなんてしないからさ……だからなんかギャップがね」


「そりゃ、フツーの機械とオイラたちを比べちゃだめだよ!」


どうやら心外だったらしい。

……というか、フツーの機械じたいはあるのか。


「オイラたち【キカイ】は、ニンゲンを作ろうとして生まれたトクベツな存在なんだ、だから泣いたり笑ったりできるんだって、ドクターも言ってたもん!」


「人間を……? 誰が、どうして?」


なおさらわからない。

モトを正せば機械も道具、それが必要になる経緯というモノがある。

だからこそ、こんなファンタジーもどきの世界で、人間を再現した機械が必要になるなんてことは、めったに起こらないはずなんだ。


だって人間が必要なら、表に出れば掃いて捨てるほどいるんだから──。


「どうしてかはオイラもよくわかんない。でもドクターはいっつも言うんだ……【フクロウの一族】ってすごい人たちがいて、その中のだれかにオイラたち【キカイ】は作られたんだって」


うーーーーん。

また新しいワードだ。

【フクロウの一族】……キュウの口ぶりから考えるに、技術屋さんの一族なのかな。


このへんについて詳しいことを知りたきゃ、そのドクターに直接聞かなきゃいけないのでしょうね。

でもそのドクターはヘンクツらしくて犯罪者で……かなりきな臭い。


「なんだかヤな感じ……」


とっかかりから続いて手がかりも目の前に置かれていて。

まるで2度と出られない深みへ、誘いこまれているみたい。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


以下の条件を達成しました

① 好感度60以上のNPC【キュービック】とパーティを組んでいる

② スタイル【禁忌に手を伸ばす者】を装備している

③ ダンジョン【毛細地下水道】にて特定のポイントを通過する


特殊イベントが発生します


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



けどそれでも後なんてないんだから……前に進むしかないわよね。

予告されていた特殊イベントの発生、どうにか状況は転がってくれたらしい。


もはや私の予定表はぼっろぼろだけど、穴さえ補修できればもとに戻せる。

さあさあおいでませドクターとやら、覚悟だけならしてるわよ!


『あー、あーっマイクテス、マイクテス……』


そう思っていた矢先の出来事だった。

キュウに導かれるままつき当たりに差し掛かったところで、とつぜんノイズ交じりの声が響きだした。




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