「ううう……」
ヘッドギア端末を用いてのネット閲覧を終えた私は、枕の下にアタマを潜り込ませて、うめいていた。
ドクター・カリオストロ……!
騎士ですら強引なガサ入れで手がかりをつかもうとしてくるのだし、ロクでもないコトをしたのだろう……とは思っていたけれど。
「ちょっとこれは、ロクでもなさのスケールが違う!」
完全なるヴィラン──悪党の所業だ。
南区域が閉鎖されていることは私も知っていた。
今後のアップデートで何かありそうだなあ、もし開通したら真っ先に入って錬金術でバリバリクエストこなしてアドバンテージにぎってあははうふふ……なーんて想像、妄想?にふけっていたものだ。
まさか原因があのおじいさんだとは。
そんな彼が構えたアジトに、転がり込んでしまっていたとは。
アタマを抱えたくてしょうがない。
このままじゃホントのホントに……犯罪者の仲間入りだ!
「うううう……!」
やり場のない思いを紛らわせるように、自由に動かせる足をしっちゃかめっちゃかに動かし──そしてやめた。
ぱたりと力なく足をおろし、アタマからかぶっていた枕をどける。
「はあ、なっちゃったことを嘆いても仕方ない……か」
たとえどんな目に遭おうとも、停滞は許されない。
私は前しか向かないからね。
「じたばたするくらいならちょっと整理しましょ」
そのためにゲームを早く切り上げたんだから。
後悔だけで浪費しちゃうのは、あまりにももったいない!
さいしょ、ドクターはキュウを叱りつけながら「デリケートな時期」といっていた。
……ってことは騎士にバレたくない何かの開発はもう、あるていど進行していると見たほうがいい。
その完成がクエストのタイムリミットならば──どうにかしてやらなきゃだ。
もしまた街がめちゃくちゃになるようなことが起きたら、たまったもんじゃない。
ただ、どうやって阻止するのか? っていうのがイマイチ見えてこないのよね……。
「工房を脱出して、騎士たちに通報するのが一番簡単なんだろうけど……間違いなく下策よね」
そう思わせるのは──この世界における機械の扱われ方。
【キカイ】というモンスターの一種として認知されていることを考えれば、すこぶる悪いものだろう。
何も考えず騎士を介入させると、最悪
「通るべき段階を踏み倒してるんだから、そのくらいのリスクはしかるべきよね──じゃなきゃ、Chapterってついてる意味がないもの」
この【フォークロア・クエスト】なるものが他のクエストと一線を画したものであるとわかる部分がここだ。
Chapter、つまりひとつひとつ章として区切られたストーリーであること。
──さながら本のページをめくるように、段階を踏んでいく必要があるのだ。
何をもってすれば次へ進められるのか、いくつのChapterでできたストーリーなのかはようとしれないけれど……。
協力者なし、抜け道なし、タイムリミットあり。
これだけ厳しく縛りを入れてくるなら──ともすれば、あのチート工房が本当に手に入るかも!
「おンもしろい……やったろーじゃん!」
*
「起きた! おはよ、リーズ!」
「んー? ああ、そっか……そりゃ当然、こっちになるわよね」
「???」
万全を期して早寝をした翌日。
ログインして目を覚ましたのは私の工房ではなく、
イフオンはログアウトに必要な場所がベッド……『眠る場所』となっており、ログインしなおした際には最後に眠った場所からの再開になる。
知ってはいたのだけれど、いきなり暗い天井が見えたもんだからちょっと戸惑っちゃった……。
そんなホテルの朝のような気分の私を、ずっと待ち構えてたのか、ジャストで駆けつけてきたのか。
ベッドの傍らで、キュウがこちら覗き込んでいた……というのが今の状況だ。
「体は大丈夫?」
「ん、ばっちりよ……さっそくだけどここの案内、頼んでもいいかしら?」
「にひ、もっちろん!」
嬉しそうな返事から始まったのは
ツアーガイドさんよろしく先導するキュウについていく形で、
内訳としては私たちの出てきた仮眠ルームに始まり、素材倉庫、資料室、格納庫、ギルド監視ルーム、発着場(私たちが落とされたとこ)などなど、あるとうれしい場所から、なんかキナ臭いところまで盛りだくさん。
「なるほどねえ、そりゃ見せたくないわけだ」
どれも現状を成り立たせるのに必要不可欠なものばかり。
もし私が同じ立場だったら、初見さんには同じことをしただろう。
タテマエ的には来客だけれど敵か味方かわからないもの、情報漏洩は防ぐに越したことはない。
「さーて、この道を真っすぐ行けば
ぷしゅう。
後ろで自動ドアが閉まる音を聞きながら、駆け出したキュウの後を追う。
ツアーもいよいよ大詰め……このアジトの本丸、
まあ一度見たところ……それに今後めちゃくちゃ使い倒すつもりであるので、ルートだけ聞いてこの辺で本題にはいってもらおうかな?
──そう思っていたところで、違和感のある出来事が起きた。
「リーズ、どうしたの?」
ぷしゅう。
……このアジトは【毛細地下水道】の真下に作られた場所であるので、幅の狭い道がいくつも出てくる。
部屋のドアはすべて自動式なので、今キュウがやっているみたいに、通り抜けるだけで用もないのにトビラが開いてしまうこともしばしばあったのだけれど……。
その中にあって唯一。
今私が前に立っているこのトビラだけは、まったく開く気配がないのだ。
「ねえキュウ……この部屋、紹介してもらってない気がするんだけど」
「ああ、そこはドクターの部屋だよ、ドクターが用事で呼ぶとき以外は近寄るなって、ここだけカギを閉めちゃうんだ……おこられちゃうかもだから、リーズもあんまり近づかない方がイイよ」
……ほほう。