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第34話 没落令嬢と染まりきれない悪


【分解】の力で中心のパーツを失った【偽・無限工房】アタノール・アニマはそのまま崩壊。

両翼、左腕、レーザー砲……マザーコンピュータを中心に回っていた輪っかさえはがれ落ち、暴れまわった痕跡が生々しくのこるフィールドへ、おびただしい量の部品として降り注ぐ。

まさに崩落のシンフォニー。

ちゃんと余裕のある時に見ればそれなりに壮観だったんだろうけど……


「ふんっ、ふぬぬぬぬぬ……お、おもい……!」


「うわああ、がんばってがんばってキュウ!」


結局にっちもさっちもいかなくなって、気絶したドクターと一緒に運んでもらってるこの状態じゃあ、飛んでくるパーツに撃墜されちゃいそうで気が気じゃない!


もうちょっとなんかなかったのかって思うけど……!

床におりても大きなパーツによる衝撃が怖いし、意識のないドクターを動かす余裕なんかきっとない!


「うわあん! 【スーサイド】・オンからブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツーー!!」


結局──ホバリング的に浮かせつつ半狂乱まがいにマシンガンを放って。

ぶつかり合って軌道を狂わせながら飛んでくる部品を撃ち落としていくしかなくなったのでした……。



そんな、激闘の後にしてはあまりに締まりのない脱出劇からややあって。

ようやくしっかりとした床に足をつけることのできた私たちは、そのありがたみを享受するかのように座り込んでいた。


「地面が揺れないって、サイコーね……」


ボスバトル中は基本飛び回っていたし、腕とか頭の上とかとにかく揺れて大変だったもの。

今回はキュウのおかげでどうにかなったからいいけど、命綱なしで何度もやりたいものじゃあない。


「…………」


そのキュウはというと、だ。

ばらばらになってしまった【偽・無限工房】アタノール・アニマに何か思うところがあるみたいで……先ほどから【分解】によって積み上げられた残骸の山の前で立ち尽くして、ぼーっと見上げてしまっていた。


「キュウ、どうかしたの?」


「いや、たいしたことないんだ……ないんだけどさ」


なんだか歯切れの悪い言葉を繰り返し、再度キュウは残骸の山へ視線を戻す。

──すごい量の【キカイ】部品の山に。


私のひとまわりもふたまわりも高く積みあがった、もはや丘なんじゃないか? ってくらいの量は、もちろんキュウの比じゃない。

驚くのはこれが、巨大ロボのいち部分……マザーコンピューターの分だけでしかないってところだ。

両腕のぶん、両翼のぶん……全部を合わせたら文字通りの山が出来上がっちゃうんじゃないの?


「ねえリーズ」


ドクターの執念が垣間見えるそのありさまに、あらためて圧倒されたところで……ようやっとキュウが口を開いた。


「ドクターは、本気だったのかな……【フクロウの一族】が残した遺産を、本気で復讐のために使ってしまうつもりだったのかな……?」


「そこのところはドクターにしかわからないわ。少なくとも、これだけたくさんの部品を使って兵器を作って……『本気』では、あったと思う」


「うん……」


言い切ったところで、キュウは明らかにしょげてしまったのが見て取れた。

まあ、キュウからしてみればショックか……ずっとそばで見ていたはずのドクターが、復讐ひとつのために何もかもを使いつぶしてしまうほどに狂ってしまっていたら、『止めれたはずの自分は何をしていたんだ?』ってやるせない気持ちにもなろうってものだ。


「けれど、もし本当にそうなら疑問なのよね……。なんでわざわざドクターは【無限工房】アタノールをモデルに兵器を作ったのかしら?」


キュウはここで首を傾げた。


【無限工房】アタノールがそれだけすごいから、じゃないの?」


そう、【無限工房】アタノールの蓄積データを使えば簡単に兵器を量産できる。

騎士団や私たちプレイヤーを相手取って、この【リヒターゼン】をめちゃくちゃにしたいのなら、これほど頼れるものはないでしょうね。

けど──。


「……だからこそわからなくなるのよ。これだけ資材があったのになんでドクターは【無限工房】アタノールを直接兵器に改造せず、わざわざレプリカを作ったんだろうって」


「なっ──!?」


キュウは思いっきり目を見開いた。

正直、ありえないことを言ってる自覚はあるのだけど……ドクターがそれにたどり着かないとは思えないのよ。

いくらすごいからって、それの再現に多大な手間がかかるのなら、その『再現に必要なコスト』を使って別の何かをした方がいいもの。


「だけど、ドクターはそうしなかった。 目の前の本物を使わず、どんな手間もいとわず模造品を作ることを選んだ。あの量より質のドクターがよ? だから……いうほど復讐しようって意思には染まり切ってないんじゃない?」


「………! そっか……そうかもね!」


所詮は他人から見た所感、気休めでしかないけれど納得してくれたらしく、キュウの顔に笑顔が戻ってきた。

うんうん、やっぱり子供にしょげてるのは似合わない。


「さ~てと、いい感じにまとまったところで……どうしよっかな」


キュウを慰めてやったついでに休憩終わり!

地に足がつけることにいつまでも浸ってないで、次のことを考えなきゃだ。


一連のごたごたでキュウはフラフラ、部屋はボロボロ、ドクターは気絶。

正味クエスト進行も気分転換も、脱出すらままならない……となれば果報は寝て待て。寝るしかないか。


「ごめんけどキュウ、私少し休むわね──ドクターの様子を見といてちょうだい!」


カロリーキツめのボス戦もして、いい加減私も疲れてきたし……ここらがやめ時ってやつだろうしね。

その旨を伝えて仮眠室へ向かおうとした矢先のことだ。


「まてい」


ふいに、しわがれた声が横から響いてきたんだ。


「はあ……何よドクター、起きてたの? ならひとつくらいリアクションしてくれてもよかったのに」


何もできないようにロープでぐるぐる巻きにし、ハムみたくなっている彼の返事は鼻息ひとつだった。

私のことは許したわけではなさそうだけど、さすがにキュウに殴られてから時間が経って、頭に登った血が下がったらしい。


「なぜワシを生かした、騎士どもに身柄をひき渡せば金をせびれるからか?」


「んなわけないでしょ、ドクターって、ほんっと―に人の感情に疎いわよね、あんたをこうやって生かしたままにしてるのは……キュウのためよ」


「なんじゃと?」


「その首にかけられてる賞金300万エン、ほしいことにはほしいけどさ……じゃあ、いざ騎士団に差し出して首尾よくお金を手に入れたとしたら、今度はキュウがひとりぼっちになっちゃうじゃない……それじゃあだめでしょ」


そうしてかかわる人間から不幸上等で奪い取るようになっちゃったら……会社や家にあったもののほとんどを差し押さえて、持って行ってしまったあいつらと変わらないものになってしまう。


ほかの何がどうなってもいい。後ろ指をさされてあることないことだって言われても構いやしないけど、それだけは死んでも嫌なんだ。


「戦っているときにも言ったけどね、私はあんたと似たようなもんなのよ……つまらない足の引っ張りにみんな巻き込まれて、落ちぶれて……そこから私はお金をたくさん稼いでぜんぶ取り返すことを選んだ」


「お前……」


そんな私に何を思ったか。

まじまじと見つめるようなドクターだったけど、はっとしたかと思えばぶるぶると首を震わせる。


「はん! ならば思ったろう、その足を引っ張った連中に仕返ししてやりたいと!」


速攻で首を横に振る。


「ほうじゃろうほうじゃろう……なんじゃと!?」


思わないでもなかったけど、そういうのはすぐに消えちゃった。

家を飛び出してから、そういうのをいつまでも心にとどめておくヒマなんか一切なかったもの。


「ちょっとまていキサマ! まさか、これで復讐なんて何も生まないとか、ベッタベタの3流芝居めいたことをいうんじゃないだろうな!」


「言わないわよ!」


言わないけどさ……。

けっきょく復讐ってさ、その時の恨みを常に頭に残しておかなきゃ続かないものなのよ。

私たちの場合は、つまらない足を引っ張ってきた人たちになるわけだけど……。


「そんなつまらない人間たちのことを片時も忘れず、手放さないで生きるのって……やっぱりつまらないじゃない?」


「──!!」


ゴーグル越しだから彼がどんな表情をしているかは、イマイチわからない。

けれど、まんじりとも顔を動かさず石膏のように固まってしまったあたり、ひどく驚いて、二の句を出せなくなってしまってるんだろうな、とはうすうす感じる。


「リーズ! どうしたのさ……って、ドクター!」


「さてと! これ以上何も言えないなら、私はここでお暇するわね。しばらくふたりとも、水入らずで話し合ってなさい!」


「な、ちょっとまてい! キュービックとふたりきりじゃと! ちょっとキサマも残って仲裁のひとつでも……!」


「あのね、ドクター! おいら──」


さっきの記憶も新しいせいか、慌てだしたドクターをよそに。

運よくレーザーでボロボロになっていた扉から抜け出し、私はひとり仮眠室へと向かうのでした……。



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【無限工房のフォークロア Chapter.2】クリア


特殊条件

NPCキュービックおよびNPC Dr.カリオストロが生存した状態でボスバトルを終了させる

の達成を確認。


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「……あーーはいはいはいはい」


いい加減眠いんだってば……!

スケスケウィンドウなんか無視して、そのまま仮眠室へ直行!


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