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第33話 没落令嬢と背負ったもの

「あ、ああ……」


私のスキル【分解】のエフェクトがあたりを走ったことにより、巨大ロボ【偽・無限工房】アタノール・アニマの崩壊が確定……私を止めようとしていたドクターはその場でくずおれてしまった。


それに倣ったかのように。

ガトリングにレーザー砲にバーナーに……およそファンタジーに似つかわしくない兵器をあんなにも振りまいていたロボもまた、その機能を停止する。


「──ほんの少し前までの暴れっぷりがウソみたい」


ロボットの心臓部たるマザーコンピューターに【分解】をしかけたのだから、異常停止してしまうのは当然といえば当然なのだけど。

ここまでぴったり急停止してしまうと、何と戦っていたのかよくわかんなくなってくるわね……。


「おっとっと──! いいかげんブリッジも崩れちゃいそうね」


ふいに足場が大きく揺れたところでブリッジの前方へ向かうと……。

まるでふらふらと……弱った虫が飛んでるような挙動のキュウが、こっちに来ようとしていたのが目にはいった。


「おーいたいた……ドクターの言ったとおり下敷きにされたら笑えないけど、お互いハードだったし、仕方ないか──ん?」


あそこまで疲弊しているキュウに無理強いはできない。

ここからどうやって非難するか問題が浮上したところで──突然、スケスケウィンドウが呼び出されたんだ。



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以下の条件を達成しました


NPC【Dr,カリオストロ】及び【キュービック】が生存している状態で、ボス【偽・無限工房】アタノール・アニマを撃破する。


特殊イベントが発生します


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「イベントかあ」


まあ、そんなところか。

頭が壊れただけで巨大ロボは健在、ドクターも戦意喪失しただけで5体満足だ、ボス戦のリザルトにはちょっと気が早いわよね。

しっかしいったい何が起きるのやら……そう思っていたところで、キュウが何やら両手をバタバタとしているのに気が付いた。


「??? 何よ何よいきなり……そんなに元気ならすぐこっちまで飛んで話しかけてくれればいいのに」


とりあえずこの身振り手振りの意味を理解しようと、軽く乗り出して注視していた時だ。

──ふいに、私の視界がかげった。


「ふざ、けんなあああ!!」


振り向いたその瞬間、ありったけの絶叫とともにスパナで殴り飛ばされた。

力いっぱい殴り飛ばされた私は、勢いそのまま……端っこの柵に腰を打ち据える形で、ようやく止まった。

うう、痛みこそないけど背中全体がびりびりする……


「キサマのせいで何もかも台無しじゃ、どうしてくれる!」


「どーするもこーするもないわよ……私とてやりたいことくらいあるもの、お互いにやりたいことがコンクリフトしちゃってるんだから、こうするしかないじゃない」


「やりたいことじゃと? 思い上がりおって、それがワシの邪魔立てをしていいほど釣り合うものかよ!」


ああ、だめだ。アタマに血が上っちゃってる。

満ちていく光とともに足場が揺らぎ、だんだんとおぼつかなくなっていく中で……逆上したドクターは柵を背にする私にのっしのっしと近づいてきた。


「ワシにとって【フクロウの一族】であることは、幼いころからの誇りじゃ! いつか一族の代表……【調停者】として、【無限工房】アタノールをはじめとした発明品たちのすばらしさを後世に伝えてやるのだと思っていたさ──!」


言いながら私の目の前まできたドクターは、そのまま私を睥睨する。


「だが現実はこのとおりじゃ! くだらんバカどものつまらんうわさ話ひとつで一族は散り散り……ワシらはこの地下に潜むのを余儀なくされ、数々の【キカイ】は日の目を見ることかなわぬまま死蔵となった! そんなの、あっていいわけなかろうが!」


まるで害虫を踏み潰すかのような地団太で、ドクターは大きな足音を鳴らした。


「ゆえにだ! ワシは地上の奴らに知らしめてやらねばならんのだ! 我ら【フクロウの一族】が生み出した【キカイ】の力を……奴らが闇に葬ったものが、いかなるものかを!」


言い切ったところで──ぐいっともう一段、ドクターの顔が眼前にまで迫ってくる。

ああもう、デカいやつにそうやってのぞき込まれるのイヤなんだってば……。


「そのうえで──キサマのやりたいこととはなんじゃ……! ワシのこの思いに歯向かっていいほど、たいそうなものなんじゃろうな!」


そもそもが無駄なやり取りなのよ、これ。

だって自分が何を背負っているかなんて、比べあう意味がないもの。

誰だって、自分の手にあるものが、やってきたことが最高のものだと思っているんだ、そんなものに優劣なんてつけられようもない。


そのうえでなお答えなきゃいけないなら、ヘタなごまかしはしちゃいけない。

だってそれは、本気でやってきた私自身に対する背任になってしまうから。


「お金よ」


「──は?」


「聞こえなかった? お金よ、お金。私ビンボーだからさ、どーーーーーしてもたくさんのお金が欲しいのよ。そのための【生産職】、そのための【錬金術】……この街で今どういうところが稼げそうか目星までつけてたのに、あんたのせいで街がメタメタになったらたまったもんじゃないじゃない」


「ふ・ざ・け・る・なあああああああ!!」


わなわなとしながらも一連の言葉を聞き終えたドクターは、スパナで脳天を打ち据えてきた。

脳髄の衝撃と揺れ、不安定な床に足を取られながらもなんとか持ち直したところにもう一打が入る。


「キサマ……キサマッ!! そんなことのためにワシの邪魔をしたのか!?」


「そんなことっていうけどね……私にとってはそれがすべてなのよ! あんたと似たようなもん!」


「どこがワシと同じじゃ──おちょくるに飽き足らず愚弄までするか! 今度という今度はもう許さん! そのアタマカチわれるまで滅多打ちにしてくれる!」


別にいいわよ、もう決着はついてるし。

復讐計画はもうご破算、いまさら何をやっても覆ることはない。

ただ……彼ら【フクロウの一族】が受けた積年の苦痛や無念をろくに知らない、完全な外様のくせに台無しにしてしまったことにはちょっとだけ負い目がある。


わかるわよ、その気持ちは。

自分の抱えてるデリケートな部分に、なんも知らないヤツがずかずかと踏みこんできたときほど、嫌なものはない。

……たださ。

それでやつあたりする前に先にひとつ、やるべきことがあるわよ、あんたは!


「【インターセプト】・オン──!」


ガッ──!

スパナが私の脳天めがけて振り下ろされた、その瞬間。

私とドクターの間にキュウが滑り込んでパリィした。


「キュ、キュービック!?」


「いい加減にしろ、このクソオヤジーーーっ!!」


そして、驚くドクターの顔面に気合一発──キュウ渾身のストレートがねじ込まれ、ドクターは対面の柵までぶっ飛ばされたのであった……。



━━━━━Congratulation!━━━━━━


ボスモンスターの討伐成功!


MVP:リーズ

ベストダメージ: キュービック(NPC) 経験値30%アップ!

ラストアタック: キュービック(NPC)  経験値20%アップ!



EXPを大量に獲得!


キュービックはレベル51にアップ!


※レベル上限値のためリーズのレベルアップはできませんでした

今後の追加をおまちください


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