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第32話 没落令嬢と前へ!


「ベロかまないでね! ──いくよ!」


無数のレーザー砲が襲い掛かる地獄絵図。

その中でジェットとバーニア、両方を開放したキュウは今までがかわいくおもえるレベルの推進力で飛びだした!


ともすればバラバラになりそうな殺人的加速……!

だけど大丈夫、バイタリティだけは人一倍あるから!


「なんじゃあ!? こいつらアタマ壊れとるんか!?」


ひっどい言い草!

まあでも、正気を疑いたくなるのはわかんなくもないわよドクター!

これだけレーザーを撃ち込んでるところへ飛び込んで、レーザー同士の間を抜けながら迫ろうだなんて、およそマトモじゃないもんね!


「くっ……もっとレーザーの密度を上げろ! こいつらを近づかせてはならん!」


でもそれでいいんだ、少しでも止まれば私たちは死ぬ!

だったら前へ! 前へ!

そばを通過するレーザーの圧力も、曲芸めいた飛行の負荷も全身で受けつつ前へ!

どうせ私は前にしか向けないのだから、素直に前へ!!


そうしてレーザーの乱気流をくぐり抜けた先は──台風の目が如く居座る巨大ロボ、【偽・無限工房】アタノール・アニマ


「ついたよ、リーズ! どこ狙う!?」


「ここまで来たらそりゃひとつでしょ──あそこよ!」


「りょーかいっ!」


最後に飛んできたレーザーをかわして上昇!

その上昇負荷に耐えつつ、狙うは本丸……ドクターの立つブリッジだ!


びっしりと生えた砲台の上。

本家【無限工房】アタノールのそれに似せて作られた、大きな玉のパーツ……そのてっぺん。


落っこちないように作られたのだろう柵と、囲むようにそり立つ3つの柱が、王冠のようにも見えるそこに、はたしてドクターはいた。


「ハロー、ドクター♪」


「ぬ、ぬううううううう!」


悔しがってるところ悪いけどグッバイだ!

各パーツが連結されている中心部……ここを【分解】してしまえば、残りのパーツも丸ごと崩落する!


「キュウ、突撃するわよ!」


「させるかあああ!」


もちろん、それがわからないドクターじゃない。

性懲りもなく柱から生えた砲塔が、私たちに照準を合わせてレーザーをはなつ──。


「うわあっ!?」


──いや、レーザーだけじゃない!

火炎放射に銃弾に爆弾……ありったけの火器がこっちに向かって飛んでくる!


「やらせはせん、やらせはせんぞ! 一族の使命を! 生きた証を! こんな地下の奥底で絶やすわけにはいかんのだ!!」


しなる火炎に飛び散る爆風。

今まで直線ばかりだったところに加わる新しいバリエーション……さすがにまっすぐ飛ぶばかりじゃ抜けられない!


爆撃の雨を【ブリッツ】で撃ち落としつつ、抜け出した先で待ち構える火炎には急ブレーキから旋回……レーザーは全力飛行でかわして──!


「キリがない……! あともうちょっとなのに!」


「大丈夫よキュウ! 私に合わせて!」


いくら演出がハデになったところで、基本は変わらないものよ。

──だから、すべきことは簡単!


「いくわよ……3、2、1! 【イヴェイド】!」


「い、【イヴェイド】!」


私の出した合図と同時……フードをかぶってスキルを発動。

無数の兵器に追われる、私たちの姿をその場でかき消す!


「なぬ!?」


私たちの姿が消え、ドクターがうろたえたその瞬間……恐ろしい量の火器攻撃がぴたりとやんだ。


「やっぱりね……!」


このロボのキモは、マザーコンピューターでもしれっと無尽蔵に近いエネルギーでもって兵器を生み出してるあの石でもない、ドクターだ。

どんなにすごい機能があろうとたくさんの兵器があろうと、どんな状況で何を使うかを判断するのはヒゲオヤジただ1人──つけ入るスキはここにある!


「【身隠しの外套】か……くそう、どこに行きおった!?」


「ドクター……あんた兵器をこしらえるのに夢中で、私のこともキュウのこともろくすっぽ見てこなかったわよね?」


「それがどうした! お前にかまけとるヒマはないと、最初に言ったはずじゃぞ!」


「そこのところ、今から存分に後悔させてあげる!」


【分解】という決定打がある私を、ドクターは注視せざるおえない。

だからこそ手数にまかせて攻撃をし続けたんだ、私との距離を維持して近づけないようにするために。


だけど【イヴェイド】で姿を消した今、ドクターは私の位置を正確に測ることができなくなった。

そうなっちゃったら……全方位を警戒しなきゃならない。

当然手数に任せたごり押しもできない、どこで使うか考えなきゃだものね。


そう、いまから始まるのは──あんたの手札を「迎撃」ひとつに縛った、地獄の読みあい合戦!

ここからはずっと私のターン……持ってる手札をありーったけたたきつけて、あんたの脳ミソを破壊してやる!!


「ちい……煙を焚け! やつがそこを通れば乱れが起きるはずじゃ!」


「【ブリッツ】!」


「うおっとお!?」


巨大ロボに指示を飛ばしているところに頭上から一発。

続きましてはロープを取り出して──!


「【尸解】・オン!」


「飛び移る気か!? 焼き払え!」


翼に絡みつかせ、うまくしならせたところを火炎放射器に焼かせる。

もちろん火炎放射が焼いたのは虚空──そっちに私たちはいない!


「ええい、どこまでもおちょくりおって……レーザー構えい!」


そうしてまたまた起動するレーザー砲。

けれど今回はでたらめに撃つようなことはせず、いくつかの砲塔をひとまとめにするように傾けて、光を集めつつ静止した。


ばらばらに撃ったところで隙間をかいくぐられるから、列より面。

ちょっとでも不自然に煙がゆらいだ瞬間、逃れようのない大火力を叩き込んでやろうと待ち構えているんだ。

ふふふ、いい具合に効いてきたわね……!


「ニヤついてる場合じゃないよ! 逃げ場がないよリーズ……! どこに飛ぼう!?」


「それなんだけどね」


いよいよ近づいてきた煙。

あたふたするキュウに今後のプランを教え、アイテムボックスから【回復薬】を取りだしてこれを飲み干す。


はしたないし正直やってるヒマないんだけど、液体の薬はこのモーションをやらないと効果を発揮しないのよね……


「わかった?」


「わ、わかった」


「オッケー、タイミング合わせてよ……信じてるから!」


「──! うん!」


ドクターがしびれを切らして仕留めにかかった、ここが正念場!

いい感じに煙が充満し始めたところでほいほいほいっと【スニーク】をばらまく!

方々でおきた冷気の爆風が煙を強引に押しのけ、キュウが飛べる道を大きく確保する!


「こざかしい真似を──放て!」


「全力で飛んで!」


そこへ飛んでくる極太レーザー!

砲塔を束ねたことで、合わさって肥大化した光が私たちに向けて放たれた。


制圧力こそ高くても、正確に位置がわからないなら直撃は難しい。

合体レーザーは私たちより少しばかりズレたところに着弾した──のだけど、そんなもの気休めにしかならない!


「く……!」


さっきまでとは比較にならない衝撃。

ほとばしるエフェクトはそこにとどまっていた煙を吹き払い、風と一緒にキュウへたたきつけられる!


「“そこ”かあ!」


バレた……!

煙に巻かせたことでキュウの位置を把握したドクターは、残していたレーザーも起動、両サイドからの合体レーザーを、キュウの居た位置に殺到させた!


「ほーっほっほっほ! よくもまあてこずらせたものよ……だがこの【偽・無限工房】アタノール・アニマの、貴重な実践データをくれたことには感謝するぞい!!」」


そして勝ちを確信したドクターの、コッテコテな高笑いがあたりに響く。

──けど……ゲームセットにはまだ早いわよ、ドクター!


「だああああああっ!!」


気合一発。

合体レーザーの連射を受けたはずのキュウはそのまま、煙から抜け出して飛び上がった!


「なに!? なんで今のレーザーでぴんぴんしとるんじゃ! あの小娘を運んどる限りあのレーザーの量はかわせんはず……くそっ! もういっかい溜めなおせ!」


突然のキュウの再登場に驚くドクターは、レーザーの充填を再開。

つまり……もうドクターの意識は完全に、オトリのほうへ向いている!


「【尸解】・オン!」


「ぬ!?」


さっき言ってたのはその通りよドクター。

私を運んでいたままじゃ、キュウはあのレーザーをかわし切ることなんかできない。


だから

【スニーク】をばらまいて煙を払ったのは、キュウの位置を特定しづらくするためだけじゃない。

この大一番で派手な爆発を起こせば、あんたはそっちに注目せざる負えないから!


そのスキを見計らって私はキュウの手を放し、地面に落下……さっき翼部分にひっかけたロープに駆け寄ってまた生き物にしたってわけ。


「あーああー、っと!」


そしていま、ターザンの要領でロープに運んでもらった!

──この巨大ロボのブリッジ……あんたの目の前まで!


「な、なぜキサマがこっちに来ておる!?」


「【ブリッツ】!」


「ぐう!?」


ごめんなさいねドクター。

キュウが危ないからその質問は後で答えてあげることにするわ。

……生きてたらね。


「よ、よせ! ここで【分解】をすれば【偽・無限工房】アタノール・アニマは空中でばらばらになるぞ! そうなったらワシもキサマも、部品の下敷きに──」


「そんなモン知ったことか……よ!」


ドクターの静止をガン無視し、私はこの巨大ロボの頭頂部に手を当てる。


「やめろーーーー!!」



「【分解】!!」


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