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第31話 没落令嬢とでたらめレーザー


「【分解】!」


ドクターの駆る巨大ロボ【偽・無限工房】アタノール・アニマ

その右腕に立つ私は手を押し当てスキルを発動した。

完成したアイテムを素材の状態へ戻すスキル【分解】……キュウも分解できたんだ、このデカブツとて例外じゃない。


私の宣言に合わせ、右腕は小さな丸をいくつも生み出しながら強く光を放つ。

それらが増えていくにつれ、足場にしているところがどんどん歪んでいく!


「……しかたない、たたきつぶせ!」


「おっと、一時離脱!」


悲痛さのある声をうけて左手が迫ってきたのに合わせ、崩壊が確定した腕から飛び降りた。


「リーズッ!」


「ナーイス、キュウ♪」


そこめがけて飛んできたキュウに再度つかまり、距離をとる。

このまま肉薄と離脱を繰り返してれば、巨大ロボの無力化なんかあっという間だ。


「逃がさあん!」


もちろん、そんなのはドクターだって分かってるわよね。

離脱をとがめようと、ドクターはガトリングをセットアップ!


「ひぃっ!?」


「大丈夫よキュウ、そのまま床スレスレをまっすぐいって!」


どうせ弾は当たらない。

そりゃそうだ、【分解】の発動でアイテムから素材へ変換するエフェクトが始まったんだ──フレームも銃身も元の姿から大きくゆがまなきゃおかしいもの。

そんなガッタガタなありさまじゃ、ガトリングなんてまともに撃てっこない。


「うおおおおおっ!?」


案の定だ。

ガトリングの掃射が始まったところで反動に負け、巨大ロボは全身を大きく震わせた。

それじゃあ照準なんか定まるワケがない……放たれた銃弾はあらぬ方向にヒットエフェクトを大量生産する!


「ぐっ、この……!」


「そのロボ調子悪そうねえドクター! 足も作っといた方がよかったんじゃない!?」


「うるっさいわ小娘が! そんなモンなくても貴様らごとき余裕じゃい!」


あーらら、声張り上げちゃって。

強がったところで、ここから先の展開は変わらないわよ?


「この……! いっぱつでも当たれば貴様らなんぞ!」


「そう──でもざんねんね、タイムリミットよ」


そうこうしているうちに、【分解】を受けた右腕の光は最高潮に。

銃身も腕の原型も完全になくなり、光の集合体と化したところで、無数の機械部品をその周りにブチまけた!


とはいえバラバラになったのはそこまで……さすがに大ボス、1回や2回バラしたくらいじゃ倒せない。

──でも、この損耗は向こうにとっちゃ致命傷だ!


「しまっ──」


なんせあのロボには足がないもの。

足って飾りじゃないのよ、なんてったっておしりから上の体、全部を支えてる大黒柱なんだから。


「うおわああああ!?」


そんなところを省いて、バーニアなんかに頼ってたらどうなるか。

そのバカでかいメインアームが消失した瞬間──バランスが取れなくなって、そうやって倒れ込むにきまってる!


「さあ一気に決めるわよキュウ、全速前進!」


「アイアイ、リーズ!」


体制を立て直す時間なんかやらない!

覚悟しなさいドクター……!

今からあんたが精魂込めて造ったそのロボ、パーツひとつ残らずバラしてやる!


「ぬ、ぬううう──こうなりゃ最終手段じゃ!」


赤く光る石を握りしめたドクターに呼応して、ロボの片翼に、頭に。胴体に……全身にびっしりと砲門が生えていく。

そうやって巨大ロボの姿をハリネズミっぽいなにかに変えたところで、今度はひとつひとつに光が──って!


「もしかしてあれ全部、レーザー砲!?」


「【オートマチック】・オン……! 前砲門、放てィ!!」


ドクターからの合図とともに【偽・無限工房】アタノール・アニマに生えた砲門がいっせいにレーザーを放った!


キュウが咄嗟に上へ飛んでくれたからスレスレでかわせたけど、下を通り過ぎたレーザーたちの勢いと熱波に軽くあおられてしまう。


「あ、あぶなかったあ……あんなの食らったら死んじゃうよ」


「まだよ!!」


「方位角合わせィ! てェーー!」


気を抜くヒマなんてないわよ!

でたらめレーザー攻撃は始まったばかり、今度は対空砲が飛んでくる!


「うわっ──!」


レーザーが私たちの真横を通り過ぎ、熱を持った余波にさらされる。

全身が【生産道具】なのを甘く見てた、こんなやったらめったらにレーザーを撃たれたらいくらなんでも身が持たない!


「んがっはははは、みたか! これるもんならきてみい、チリひとつ残さんぞ!」


このままじゃジリ貧ですりつぶされる……。

いっかい離れて作戦を組み立てなおすか!?


「リーズ!」


果たしてどうしたものかと考えあぐねたところで、とつぜん世界が回転する。

飛んできたレーザーをかわすためにキュウが横へローリング飛行を決めたんだ。


「ドクターのところにリーズを届けたら、あのデカいのに勝てるんだよね!? ──まかせて!」


「……!」


頭の後ろから聞こえる声にはっとする。

そっか……。

これでビビったらむしろドクターの思うつぼなんだ。


ドクターはイケイケムードの私たちを、でたらめな出力の嵐で押し返そうとしている。

それはヘタをすれば自分が自滅しかねない、ひどくリスキーな賭けだ。

けれど【偽・無限工房】アタノール・アニマのもとへ私がたどり着いてしまったら、戦いも復讐も、何もかもがおじゃんになってしまうのだから、やらざるおえない。


──そうしなければいけないところまで、追い詰められているんだ。

なら、私たちがしなきゃいけないことはひとつ!

前のめりに、押しまくれ!


「OK! 任せたわよ、キュウ!」


「──うん! しっかりつかまって、ベロかまないでね!」


言いながらキュウは背中のジェットに両足のバーニアを合わせて展開!

今までがウソのような勢いの加速で、一気に飛び出した!


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